私の見たイスラエル
私の見たイスラエル

私の見たイスラエル

 私がイスラエルの人々と仕事上の関りを継続的にもったのは、2009年から2011年ごろのことだった。イスラエル北部のナハリヤという町に2週間ほど滞在したこともある。仕事の詳細はここには記さない。イスラエルの国に、イスラエルの人たちに、ユダヤ教徒の人たちに、私が感じたことをここに書こうと思う。私が感じたことは、すべてのイスラエル人には当てはまらないかも知れない。だってそこにはいろんな人がいたから。いろんな考えや思いを持つ人が日本にもいるように、いろんなイスラエル人が本当にいた。バラツキはあるかも知れないが、総じてこんな感じだったと、私が思う範囲を述べたいと思う。
 イスラエルは人種の坩堝だ。もはや知っているかもしれないが、ユダヤ人というのはユダヤ教を信じている民であって、ヨーロッパ人もいればアラブ人も黒人も、そしてロシア系の人もいた。ただ、ユダヤ教徒というのは独特の共通した目つきというか、雰囲気を持っていると私は思っている。今でもテレビに映る彼らを見るとそう思う。それが何に由来しているのか、なんとなく分かっているような気もする。
 言ってしまおう。彼らの根底にあるのは、いわゆる選民思想だ。知識として選民思想という言葉は知っていたが、本当に彼らは自分たちが神に選ばれ、世界で最も優れた民だと信じている。そんな意識が常にかれらの言動に現れ、政治的判断にも反映しているに違いないのだ。だから2024年10月現在、世界から大非難を浴びているイスラエル周辺のすべての紛争も、かれらにとっては「正義」の戦いなのだ。根底にある常識が違うから、私たちには分かりにくいのだが、理解してしまえば至極当然のことにさえ思えてきてしまう。ガザへの空爆を船上から見るツアーに参加するイスラエル人の心情は我々に理解しがたいが、彼らにとっては単純な発想に違いない。「正義」の鉄槌が下される歴史のこの瞬間を自分の目で見たいのだ。
 客観的な思考で読むことはある種難しいことかも知れないが、ここで私はイスラエルを正当化するつもりはないし、逆に非難するつもりで書いてもいない。そこは信じてほしい。

 イスラエル人の給料の手取りは驚くほど少ない。確か半分くらいを税金で持っていかれてしまうのだ。そのほとんどが軍事のためだと聞いている。周りの国が全て敵対国であり、自国の正義を守るためには致し方のないことだと思っているのだろう。
 その代わり福利厚生が充実している。
 2週間滞在したとき、私は彼らの時間に合わせて朝早く出社して仕事を始めた。するとたしか7時か7時半ごろだっただろうか、「行くぞ」と言われて訳も分からずに付いて行ったら、そこは食堂だった。レストランのような広い空間に丸テーブルが多数配置され、そこにはなんと朝食が用意されていたのだ。すべての従業員がそこにやってきて、当然のように朝食を食べ、そして仕事に戻っていった。さらに驚いたのはランチだ。さっきと同じ食堂にいくと、新しく取り換えられたテーブルクロスに食器や食べ物が用意され、さらにメインディッシュはカートで運ばれてきた数種類から好きなのを選んで皿に盛ってもらい、どれも高級ディナーばりの美味しさだった。私は毎日もう、ランチタイムが楽しみで堪らなかった。さらに、残業をすると食堂の入口でサンドイッチが用意されており、好きなだけ取って食べた。もちろん企業によって差はあるのかも知れないが、税金と手当のシステムは、国によってこうも異なるものかと驚かされたのだった。
 イスラエル人には自家用車がない。給料が少ないから買う金がないのだ。そのかわりある程度の地位になれば、社有車を充てがわれていた。会社への往復はもちろん、私用でも使えるので、ほぼ自家用車的な扱いだったと思う。それ以外の人は、社有送迎バスや公共交通機関などを利用していた。
 当時日本に滞在したイスラエル会社のお偉いさんを、私の車に乗せたことがあった。彼は私の車を見て、このようなミニバンを本当にお前が自分で買ったのかと、驚嘆の眼差しで私を見たのを、強烈な印象で今でも覚えている。

 そこまでして軍事を優先する国だ。考え方が根底から違ってもおかしくない。神に選ばれた民は約束の地を守り抜き、脅かす輩は叩きのめさなくてはならない。それが紛れもなくかれらにとっての「正義」だ。彼らを単に非難しているだけでは到底理解し合うことなど難しいのだろう。
 私はイスラエルを正当化も非難もするつもりはないと書いたが、内心を告白すれば、やっぱり非難する気持ちが著しく強い。どんな理由であれ戦争も虐殺もあってはならない。これを読んでくれている多くの人が、そう思っていると信じている。それが私たちの共通した信条だからだ。私が言いたかったのは、根底にある信条は全世界共通ではないということだ。それを理解したところで解決策が見出されるわけでもないが、一歩だけ進むことにはなるかも知れない。
(2024年10月7日)

私の見たイスラエル

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  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-10-06

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