はじめに
エンジニア採用の話をしていると、しばしば耳にするフレーズがある。
「いいエンジニアはお金で釣れない。」
この一言、妙に納得してしまうことが多い。しかし、これは本当に正しいのだろうか?
あるいは、エンジニアの市場価値や採用プロセスの現実を単純化しすぎた思い込みに過ぎないのかもしれない。
そもそも「いいエンジニア」とは何なのか?給与はどのように決まり、企業は本当に優秀なエンジニアを見抜けるのか?
エンジニアの採用市場を数理モデル的に考えながら、この疑問に迫ってみる。
「いいエンジニア」の定義とは何か?
この議論を進めるためには、まず「いいエンジニア」の定義を明確にしなければならない。しかし、この「いい」という言葉は曖昧だ。
- スキルが高いエンジニア
- 問題解決能力があるエンジニア
- チームに貢献できるエンジニア
- 経営視点を持っているエンジニア
人によって定義が異なる。そこで、「給与」を軸に考えてみる。つまり、スキルが高いほど給与が高くなるモデルを仮定するのだ。
給与はスキルだけで決まるのか?
エンジニアの給与は、スキルだけで決まるものではない。実際には、以下の要素も大きく影響する。
運
- 給与交渉の上手さ
- 入社した会社の評価体系
- タイミング(景気や企業の採用戦略)
市場のバイアス
- 歴史の長い企業では年功序列で若手の給与が抑制される
- スタートアップでは即戦力に高い給与を払いやすい
個人の社会資本
- 企業内でのネットワークや信頼
- 転職しづらい環境(家族、生活環境など)
こうした要素が絡み合うため、「本来はもっと高い給与を得られるはずなのに、運が悪くて低い給与に甘んじているエンジニア」が一定数存在することになる。
つまり、もしも企業が高い給与を提示すれば、「運が悪くて給与が低いけれど本当は優秀なエンジニア」を採用できる可能性があるのではないか?
「お金で釣れるエンジニア」は良いエンジニアなのか?
では、仮に企業が「高額報酬を提示すれば、良いエンジニアを確実に採用できる」と考えた場合、それはどこまで真実なのか?
給与を高く設定すれば優秀な人が来るのか?
給与を高く設定すれば、当然応募は殺到する。しかし、ここで新たな問題が生じる。
応募が殺到したとき、企業は本当に優秀なエンジニアを選び抜けるのか?
- 書類選考でフィルタリングする?
- 技術試験で評価する?
- 面接で見極める?
ここで問題となるのは、「エンジニアを見極めるスキルが企業側にあるのか?」という点だ。大量の応募の中から、本当に優秀なエンジニアを見抜くことは至難の業である。
「高い給与を提示すれば、優秀な人が集まる。しかし、その中から本当に優秀な人を見抜けなければ意味がない。」
「目利き」ができない企業にとっての難題
エンジニア採用において、企業の「目利き力」は極めて重要だ。採用担当者やCTOが優秀なエンジニアを適切に評価できる能力を持っていなければ、高給を提示しても意味がない。
目利きができないと何が起こるか?
- スキルが低いのに給与を釣り上げて転職するエンジニアが採用される
- スキルはあるが組織に馴染まないエンジニアが入る
- 期待したほどの成果が出ず、高給だけが負担になる
つまり、「お金を払えばいいエンジニアが来る」と単純に考えるのは、現実的ではないのだ。
「白馬の王子様」を待つエンジニア
一方で、転職市場においては「いい会社がないから」と現状にとどまるエンジニアも多い。
特に、「やりたいことにマッチする企業がない」と考えるエンジニアは、動かないまま会社への不満を募らせる。
「いつか理想的な会社が自分を見つけてくれるはず」
そんな幻想を抱いているのは、「白馬の王子様」を待つのと同じではないか?
理想的な環境は、自分から探しにいかなければ手に入らない。それを「会社運」のせいにしてしまうのは、少し違うのかもしれない。
まとめ
結局のところ、「いいエンジニアはお金で釣れない」という仮説には、一定の真実がある。
- 優秀なエンジニアは、お金を得る方法を知っている
- ただし、運や市場の歪みで低い給与に甘んじている人もいる
- 高い給与を提示すれば応募は増えるが、企業に「目利き力」がないと意味がない
- 「やりたいことにマッチする企業がない」と動かないエンジニアもまた、白馬の王子様を待つ姿勢になりがち
「お金だけ」でエンジニア採用を成功させるのは難しい。
しかし、企業の採用力、選考力、そしてエンジニア自身の行動力が合わされば、理想のマッチングは生まれるかもしれない。