青天を衝け 第31話「栄一、最後の変身」 ~喜作の釈放と大内くにの来訪~
渋沢成一郎(喜作)が釈放されましたね。旧幕府軍の最期の砦だった五稜郭が降伏、開場となる直前の明治2年5月18日(1869年6月27日)、成一郎は脱走して湯の川方面に潜伏していましたが、約1か月後の6月18日に投降し、その後、東京の兵部省軍務局糾問所に投獄されていました。同所に投獄されていたのは、榎本武揚、大鳥圭介、松平太郎ら箱館戦争旧幕府軍の幹部たちで、成一郎が旧幕府軍のなかでどのようなポジションだったのかはわかりませんが、徳川慶喜の元直臣であり、彰義隊や振武軍の頭取だったことを思えば、箱館戦争でも幹部の一人だったのでしょうね。榎本や成一郎らの獄中生活は約2年半に及び、釈放されたのは明治5年(1872年)1月のことでした。
その間、明治新政府内では、榎本たちの処分をどうするかで揉めていました。新政府に最後まで抗った大罪人として、本来であれば厳罰に処されるべきところでしたが、箱館戦争で榎本に降伏を説得した黒田清隆が、戦後、榎本の助命を強く求めます。黒田は敵ながら榎本の才覚を深く惜しんだようです。しかし、木戸孝允は処刑すべきだと主張。自然、薩摩閥が助命派となり、長州閥が厳罰派となって対立します。黒田は榎本の助命嘆願のために丸坊主にしたこともあったとか。よほど惚れ込んでいたんでしょうね。長い対立ののち明治5年(1872年)1月に釈放となりますが、なぜこのタイミングだったのかはよくわかりません。あるいは、この2か月前、厳罰派の急先鋒だった木戸が、岩倉使節団の一員として長い洋行に旅立ったことも関係していたかもしれません。鬼の居ぬ間の釈放・・・だったのかもしれませんね。
釈放された成一郎は、名を「喜作」に戻し、渋沢栄一の仲介で大蔵省に入ります。その後、近代的な養蚕製糸事業の調査のため、洋行することになります。また、富岡製糸場の立ち上げを任されていた尾高惇忠が、自身の娘・ゆうを郷里より呼び寄せて女工にした話は実話です。苦心して工場の設備は整ったものの、女工応募者が一人も集まりませんでした。大煙突から煙が出て大きな機械が動く工場を見た当時の人たちの間では、あの工場で働くと生き血を絞られて死ぬ、という風評が立ったそうです。惇忠が自身の娘を女工第一号にしたのは、生き血説の事実無根を立証するためでした。嘘のような滑稽な話ですが、当時の人たちにとっては、大真面目な話だったのでしょうね。
ドラマで西郷隆盛が栄一の家を訪問していましたが、あれも実話です。ただ、二人の会話の内容は少し違っていて、このときの西郷の要件は、旧相馬藩に二宮尊徳の残した「興国安民法」という良い制度があり、今度の廃藩置県で廃止されるのはいかにも残念なので、新しい県になってもこの制度を残してほしいと相馬藩士に懇願されたので、それを頼みに来たというもの。しかし、頼みに来た西郷は「興国安民法」の内容を何一つ知らなかったようで、また、政府内のトップである参議ともあろう立場の西郷が、一相馬藩の良法保存などに尽力するより、もっと国全体のためにすべきことがあるでしょうと栄一が捲し立てると、西郷は、「いや、ごもっともでごわす」と頭を下げ、「渋沢さん。おいどんは今日、おはんに物を頼みにきたのか、それとも叱られにきたのか、こりゃいかん、帰るといたそう」と、笑いながら帰っていったそうです。そんな茫洋とした西郷の桁外れな人物の大きさに感服したエピソードとして、後年、栄一自身が語っています。
で、大阪から遠路はるばるやってきましたね。身重の大内くに。前話の稿でも述べましたが、栄一は女性関係の方はけっこうお盛んだったようで、こののちも複数の妾に何人も子供を産ませています。そこはきっとNHKのドラマでは描かれないだろうと思っていたのですが、描きましたね。この大内くにはドラマのように正妻の千代の許しを得て、同居しています。この千代の対応にSNSがざわついていたようですが、当時、それなりの高い地位の男がお妾さんを養うことはごく普通のことで、妻と妾が同居するということも珍しくはありませんでした。まあ、子供をたくさん作ることがお家の繁栄につながっていた時代ですからね。千代とくには、ほぼ同時期に子供を産みます。で、わたしも今回ネットニュースで初めて知ったのですが、このとき、くにが産んだ娘・文子が、のちに尾高惇忠の次男・尾高次郎の妻となり、その孫に当たる音楽家の尾高忠明氏が、この『青天を衝け』のオープニングテーマ音楽の指揮者をされている方だとか。すごい繋がりじゃないですか! そりゃあ、くにさん、出さないわけにはいかなかったでしょうね。
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by sakanoueno-kumo | 2021-10-18 18:32 | 青天を衝け | Trackback | Comments(6)
今回の大河は、かなり史実に基づいているんですね。
尾高家の子孫が、指揮者の尾高忠明氏というのも驚きでした。
正直、あまり期待してなかったのですが、近年の大河の中ではかなり名作だと思います。
まあ、たしかに、大きな眼以外は似ても似つかぬといった感じですが、じゃあ、誰が適役かといえば、西郷を演じられる俳優さんって、なかなかいないですよね。
容姿はもちろん、あの茫洋とした雰囲気を出せる人はそうそういないですよ。
大河の西郷役で、この人がハマリ役だったといえる人が思い当たりません。
強いて言えば、『新選組!』のときの宇梶剛士さんかなぁ、と。
『龍馬伝』のときの高橋克実さんは最悪でした。
あれよりはまだ華丸のほうがマシな気がします(ギョロ目の分ですが)。
まさしく、今年の大河は名作だと私も思います。
くだらない創作を入れなくても、史実や通説を丁寧に描くことで、これだけ面白い作品ができるというお手本のような作品ですね。
指揮者の尾高忠明氏のことは、私もネットニュースで知って驚きました。
大内くにの出演は必須だったということですね。
西郷さんと同じ九州出身で、ひょーひょーとした演技も面白いので私は華丸でOKです。だって渋沢にしても全く似ても似つかんわけですしー。
ご存じとは思いますが、最後の2話は15分延長の1時間バージョンで放映されるようですね。うれしいです!
たしかに(笑)。
いちばん似ても似つかないのは栄一でしたね(笑)。
西郷や龍馬や信長や秀吉は、どうしてもキャラが立っちゃいますから、観る方も厳しい目線になっちゃいがちですね。
その点、渋沢栄一はここまでじっくり描かれたことはなかったですから。
>最後の2話は15分延長の1時間バージョン
だそうですね。
わたしもつい最近知りました。
昨年の『麒麟』が今年にくい込んで2月スタートになったところまでは仕方がなかったとして、オリパラの開催は寸前まで危ぶまれていましたから、それによって全話の回数が変わっていたかもしれず、とすると、当然、オリパラが中止になった場合の5話分ぐらいのカットされた尺があったはずです。
2話15分延長の30分ほどではぜんぜん足りないですね。
でも、嬉しい話ではあります。