アニメにおける瞬きと感情、その芝居について
「目は口ほどにものを言う」とはよく言ったもので、それは物語を描くアニメーションの世界においても決して例外ではありません。言葉はなくとも表情や仕草で伝わるコミュニケーションの妙。それをより良く体現しているのが瞳の存在であり、それを取り巻く目尻や瞼といった周辺部位の存在なのでしょう。
その中でも特に惹かれるのが "瞬 (まばた) き" という動作です。日々の営みの中で我々が日中2万回に満たない程度の数を自然とこなしているとされるこの所作。ですが時にそれは無意識ではなく作為的に行われ、アイコンタクトの一部として相手に感情を伝えるギミックとなります。
『ヤマノススメ Next Summit』7話。特にこの挿話を観てからはそういった思いがより強くなりました。振り返って「あれ?」と瞬きをするかすみ。それに伴い「え?」の瞬きで返すあおい。そこへ「どうかしたの?」と瞬きを再度かすみが送ると、「あ!大丈夫だよ」の瞬きと共に柔らかく笑みを返す。この流れを言葉交わすことなく成立させることが出来るのは、やはり表情や瞬き芝居の巧 (たくみ) さに他なりません*1。瞬きの速度感 (コマ打ち) や、その芝居に入るまでの間の取り方、感情が逡巡され、相手に伝わっていくラリーの様子が手に取る様に伝わってくるのが、とても感動的でした。
特にあおいは人見知り故といった人物像が描かれ続けていたので、このシーンに抱く高揚感は一入でした。かすみ達との距離感が少しずつ縮まっているんだという実感と、それが音を立てながら物語として形成されていく質感。たった数十秒のなんてことはないワンシーンではありますけど、こういった場面を目の当たりにすると、そんな些細な時間にこそ人の感情を理解するための大切な瞬間って在るのかも知れないななんて考えさせられます。
左上から『One Room サードシーズン』3話、6話
『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』3話
『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』6話
『NEW GAME!!』8話。
過去の記事で触れたものも含んでいますが、いずれも感情の流れ、契機を多分に含んでの芝居として描かれています。もちろん全ての瞬き芝居が直接会話している相手に対して ”伝わる仕草" となっているかと言われればそうではありませんが、少なくとも我々視聴者に対しては間違いなく "伝わる仕草" として機能しています。だからこそ物語の感情曲線は美しい弧を描き、彼女たち一人ひとりの人生もそれを契機として動き出していくのでしょうし、それ故に登場人物たちの感情が溢れ出す芝居やシーンというものはこんなにも輝かしく映るのでしょう。
参考記事:『NEW GAME!!』8話の芝居について - Paradism