司法試験合格から遠ざかる要因に気付く重要性 - 辰已法律研究所

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司法試験合格から遠ざかる要因に気付く重要性

山村 慶介(仮名)さん
受験歴: 新試験5回
中央大学法科大学院 2017年修了
【受講歴】2021年 司法試験全国公開模試 他
リベンジ合格

1 はじめに

 弁護士を志して、法科大学院に入学し、5回の受験を経て今年司法試験に合格しました。非常に遠回りした、との印象が正直なところです。同時に、遠回りした原因は、結局自分自身にあったということもまた正直な感想です。懸命に努力し、勉強時間を確保し、多数のアドバイスを集めてなお、司法試験合格の機会が遠のいていた例として、学習の方向性に問題があった例として、他山の石として以下お読みいただければと思います。

2 司法試験合格に必要だった点

 司法試験合格に必要な点としては、多くの合格者の体験談で共通する項目がとくに参考になると思います。典型的な例としては、過去問対策の具体的な取り組み方(量、注意点等)、普段の生活習慣(記憶を正確にする習慣等)、自己分析・敗因分析です(友人・知人の合格者20名以上からそれぞれ少なくとも数時間以上ヒアリングして共通する項目は概ねこの3点でした)。
 司法試験の受験生にはさまざまなタイプがいますが、主に「懸命に努力し、勉強時間を確保し、多数のアドバイスを集めてなお、受験回数を重ねる受験生」に宛てて記しています。その他のタイプの受験生にも参考になりやすい部分を意識して書いていますが、この合格体験記における司法試験合格に必要だった点としては、主にこの特定のタイプの受験生を想定して記した内容であることを予めご理解いただければ幸いです。

3 法科大学院在学時及び修了後間もない頃の様子

 法科大学院在学中及び修了後間もない頃の学習については、自分なりに懸命に努力はしているけれども、端から見ると、当人が自ら司法試験合格から遠のいていくものでした。このようなことが生じた背景には、「実務の事前準備」と気が急いていた面も大きく影響していたと思います。学習内容を集約し、睡眠時間を確保し、合格に必要な記憶の定着を図るべきでした。
 法科大学院受験前には法律に関する基本事項を学び直す必要がある状況でした。その分勉強量を確保することを心がけていました。しかし、その対象の中心は、司法試験合格や法科大学院の学期末試験に必ずしも要しない領域でした。また、睡眠不足が常態化し、睡眠不足の自覚さえなくなった状況では、記憶の面で大きな支障をかかえていました。
 そうした状況下では、様々な知識に触れても、断片的な理解にとどまることが多い状態でした。日々改善を心がける割に、自分の中の何かがおかしいと認識できていない状況が長期間続いていました。当時の学習内容が全くの無駄だったとは思いません。しかし、殊に司法試験合格という目標との関係では遠回りの道を懸命に走っていた状況でした。

4 法科大学院在学中の反省点

(1) 集約型勉強の重要性
 学習内容の集約については、集約できているか改めて意識を高めることが無難と思います。法科大学院在学中に先生から1日8~10時間程度に勉強時間をとどめ、その分集中して勉強するよう指導を受けたことがあります。今の自分が当時その場に居合わせたら、同じように、勉強時間を1日平均8~10時間以内に限り、かつ、より一層集中して頭を働かせ、学習内容を理解し記憶の定着を図るよう当時の自分にアドバイスすると思います。

(2) 睡眠の質と量の確保の重要性
 また、深刻な睡眠不足は、理解力・判断力・記憶力の大幅な低下、日中いろいろな面で支障をきたす状況をもたらしていました。睡眠不足が常態化すると、その状態が通常と感じ、睡眠不足である自覚さえもありませんでした。よく眠るようになってから睡眠不足であったことに気付くことは非常にもったいないです。自覚がなくても睡眠については意識することが重要です。

5 司法試験受験における注意点

(1) 目標達成意識の重要性
 自分が抱えていた問題を書き記してきましたが、当時学習方法に無関心だった訳ではありませんでした。司法試験合格という目標を達成するうえで必要な事柄、優先順位というものを、自分なりに意識し、先生や先輩・クラスメート等から積極的にアドバイスをもらうように心がけていました。しかし、当時の自分を振り返ると、司法試験合格という目標の達成に必要でない多くのことに時間を割いていました。実際の生活を客観的に振り返ると、目標達成を意識しつつも、いろいろと集約できていませんでした。その意味で、残念ながら、結局のところ自分は周囲のアドバイスを真に理解していなかったと言う他ありません。この例も、何かの参考になればと思います。

(2) 自己認識の難しさ
 自分を正当に認識することは、なかなか難しいことと思います。不合格の年度と合格年度のそれぞれの自己認識が正当なものか、司法試験合格後の今の段階でも、自問自答しています。何かを理解していないことを自覚することの困難さは、当人には気付きにくいところだと思います。

(3) 書面審査対策の重要性
 自己認識が正当なものから遠のいていた一例として、過去の自分の例を以下挙げてみます。たとえば、口頭で様々な学説や理論や判例の知識を説明でき、その点で周囲から一定の評価を得ることができる場合があります。しかし、この状態は、書面審査の司法試験の合格から遠のく可能性を排除しないことを体験してきました。
 たしかに、司法試験に現役合格する人で、口頭で様々な学説や理論や判例の知識を説明できる人も周囲に実在していました。しかし、自分の場合、司法試験合格に必要な起案において、記憶しておくべき点を記憶していない問題、採点者に伝わる文章を書くことができていない問題、その他さまざまな問題が生じていました。自分の状態に対する認識が客観的に甘いと、改善すべき点を改善しないまま過ごして受験するおそれが生じます。これらの自分の問題にまず気付き、書面審査の対策を行うことが重要でした。

6 受験教材

 受験教材としては、当初様々な書籍を幅広く大量に購入し読んでいました。しかし、受験対策として最も重要な素材は、司法試験過去問の問題文(設問文・資料含む)・出題趣旨・採点実感です。受験回数を重ねる過程で、司法試験過去問対策の精度も上がり、合格年度の試験会場ではこの過去問対策が活きました。そこで、他に非常に参考となった辰已教材についても言及しつつ、受験教材について以下書き記します。

(1) 司法試験過去問対策の実例
 私は司法試験の全年度(旧司法試験を除く)の基本7科目を3周以上、なかでも平成27年度~平成30年度は基本7科目を7周以上起案し、先生や合格者等から添削を受けていました。選択科目対策は、実際に起案する時間をそれほど確保せず、答案構成を重ねるようにしていました。
 ただ、過去問対策は量と範囲を絞る司法試験合格者も多かったです。周りを見ると、全年度でなく、平成23年度以降を3周して合格する例も複数ありました(出身法科大学院及びその他複数の法科大学院出身者からの情報に基づく記述です)。
 出題趣旨と採点実感は、雑談等で話題に関わる部分にすぐ言及できる状態を、8科目全年度分維持するように心がけていました。忘れる部分も出てくるため、その都度採点実感等を読み直しては、思い出したり、理解を深めたりするようにしていました。
 こうした過去問対策は、「実際に類題が出題された際に現場で動じない」「周囲の受験生が書くだろう内容の相場観を事前準備できる」「自分の起案内容を簡潔にまとめやすくなる」といった形で有効に機能しました。とくに、合格年度の受験時に有効に機能しました。

(2) 辰已教材
 過去問対策は重要ですが、周回を重ねるなか「初めて見る問題文に取り組む際の自分の弱点」が見えにくくなることが気になりました。そこで、辰已の全国公開模試は2017年度から毎年度受講し、スタンダード論文答練も2018年度から毎年度受講しました。
 この過程で、配点表を意識した起案の精度が上がっていきました。起案の精度が上がる効果については、全国公開模試を例に挙げると、全国公開模試の総合順位が2桁前半、1桁、2桁前半と、年度を跨いでも上位に落ち着くようになりました。演習の機会の確保は、非常に効果的でした。
 また、穴のない勉強を図りつつも、辰已教材の予想的中実績に応じて集約型勉強の濃淡をつけたことも効果がありました。合格年度の本試験でも辰已教材の予想が的中した部分がありました。

(3) その他
 合格年度の論文試験対策の教材とその使い方も参考となるかもしれませんので、少し書き記します。規範内容の記憶確認は、辰已の趣旨・規範ハンドブックを主に用いていました。趣旨・規範ハンドブックが手薄な点は、理解を補助するものとして、他の予備校教材の論証集を読んで内容を理解するようにしていました。記憶の際には、答案全体(6~8頁)をイメージしつつ、記憶対象の規範定立部分の位置や行数等を特定するなど、答案の具体的イメージを大切にしていました。

7 司法試験日程期間について

 全国公開模試で総合順位が上位となってもなお受験回数を重ねた原因は、複数あります。その最大の要因は司法試験日程期間中の自分の状態にありました。その対処法として機能した点を以下3つ挙げます。

(1) メンタル調整
 最終合格した年度以外では、受験会場で非常に緊張し、普段行わないことを行っていました。当時の自分を端から見ると、平常心を心がけている受験生が、通常とは違う行いを次々と行っている状況でした。メンタル調整の重要性は他の合格体験記でもよく目にしますが、強調しても強調し過ぎることはないと思います。

(2) 出力の調整
 また、司法試験では予備校教材では目にすることが難しい問いが出題されます。その際、その問いに関する箇所の起案が乱れた他、答案全体のバランスが大きく崩れました。そこで、記憶内容をどう出力するかに注意するようにしました。その結果、未知の問題にどう対応するか、対応できない場合に全体として答案をどうまとめるか等、事前にある程度準備できるようになりました。また、題意に応じて起案の出力を調整することを意識できるようになると、答案全体のバランスもよくなりました。

(3) 冷静な対処
 さらに、自分にある知識の穴に無自覚で、司法試験本番に冷静な対処ができなかった問題もありました。司法試験受験前に冷静に淡々と穴をできるだけ減らすことができたか、司法試験本番では落ち着いて淡々と起案していくことができたか否かが、合格年度とそれ以外の年度での大きな違いでした。司法試験日程の最後まで冷静に対処していくことが重要と思います。

8 最後に

 周囲の多くの受験生は先に合格していきました。彼らは、出身法科大学院が同じ場合もあれば異なる場合もあり、合格前から、合格後も実務家として多忙ななかでも、実にさまざまなことを教えてくれ、司法試験合格後となった今は実務等についてアドバイスをしてくれています。こうした友人・知人だけでなく、その他多くの方に支えられてきました。とても感謝してます。
 そして、司法試験順位にかかわらず、司法試験受験生の友人・知人はすべからく、それぞれ緊張し、努力を重ね、司法試験合格に向けて頑張っていました。個別の技術的な対策等については、この体験記にほとんど記していませんが、参考となる他の合格者の体験記が多く出ています。こうした他の合格体験記が参考になると思います。遠回りをし受験回数を重ねてきた者の体験に焦点を当てた本稿も、何かの参考となれば幸いです。

辰已法律研究所 受講歴

【2021〜2017年対策】
・司法試験全国公開模試

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