【窃盗罪(刑法235条)】 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 【不動産侵奪罪(235条の2)】 【常習累犯窃盗罪】 常習トシテ前条ニ掲ゲタル刑法各条ノ罪又ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者ニシテ其ノ行為前十年内ニ此等ノ罪又ハ此等ノ罪ト他ノ罪トノ併合罪ニ付三回以上六月ノ懲役以上ノ刑ノ執行ヲ受ケ又ハ其ノ執行ノ免除ヲ得タルモノニ対シ刑ヲ科スベキトキハ前条ノ例ニ依ル |
1.窃盗罪
(1)「窃盗罪」とはどのような犯罪ですか?
日常用語でいうところの「スリ」「万引き」を処罰するための規定です。
法律的には、「他人の占有する財物を占有者の意思に反して取得する罪」と解されています。
(2)用語の説明
①「窃取」
他人の占有する財物を、その占有者の意思に反して自己の占有に移転させる行為をいいます。
「窃」とは、「ひそかに」と読みますので、窃盗とはひそかに取るという意味のように思えますが、公然と行われても本罪が成立します。
例えば、「他人から買い受けた銀行口座に振り込め詐欺・恐喝により被害者から振り込まれた金員を振込先の口座のATM機から引き出す役割を担当する者」(いわゆる「出し子」)の行為は、本来金融機関は払戻しを拒むようなケースでの払戻ですから、金融機関の意に反する払戻しとなり、窃盗罪が成立します。
②「他人の財物」
他人の占有する財物をいいます。
財物の意義については争いがあるところですが、一般的には有体物をいいます。
ただ、例外的に「電気」は有体物ではありませんが、「財物」にあたると刑法で規定されています(刑法235条の2)。ですから、例えば、お店などで店主に断りなしにスマートフォンの充電をする行為は、電気窃盗として窃盗罪に該当する可能性があります。
また、他人が「占有」する財物という定義です。「占有」とは、他人が管理する、という意味です。そのため、例え自分の物(所有物)であったとしても、他人に貸している場合、それを無理やり持ち去る行為は窃盗罪に当たる場合があります。
2.窃盗罪についてのQ&A
①不動産は「財物」に含まれますか。不動産を不法占拠した場合は処罰されるのですか?
窃盗罪の「財物」には不動産は含まれません。
しかし、これでは不動産の不法占有等に対応できません。
そこで、「不動産侵奪罪」が成立しました。
「不動産」とは、土地および建物等その定着物のことをさします。
また、「侵奪」とは、他人の占有を排除して自己又は第三者の占有を設定することをいいます。例えば、他人の土地に不法に住宅を建てた場合に本罪が成立します。
② 嫌いな知人の高価なお皿を壊してやろうと思って、知らない間に壊した場合に窃盗罪が成立するのですか、それとも器物損壊罪が成立するのですか?
器物損壊罪が成立します。
窃盗罪の成立には、他人の物を自己の所有物として利用しようという意思(不法領得の意思)が必要です。本件では、壊すつもりしかなく、利用しようという意思がないので器物損壊罪しか成立しません。器物損壊罪は、親告罪ですから、被害者等による告訴がなければ起訴されることがない犯罪です。これに対し、窃盗罪は親告罪ではありませんから、告訴がなくても起訴することが可能です。
③ 仕事をしていたらペンがなかったので、隣の人の机からペンを勝手に借りて、使った後に元に戻しておきました。窃盗罪が成立しますか。
成立しません。無罪です。
このような他人の財物の「軽微な無断一時使用」の場合、あえて刑事罰を用いる必要はないといえます。法律上の理屈として「権利者を排除する程度の利用意思がない」と説明されたりすることもあります。
ただし、あくまで軽微な無断一時使用ですので、いくら後で返還するといっても、人の自動車を勝手に乗り回して返還した場合には窃盗罪が成立します。
④親の財布からお金を盗みました。窃盗罪が成立しますか?
窃盗罪が成立します。ただし、刑が免除されます。
なお、別居している兄の財布からお金を盗んだ場合も窃盗罪が成立しますが、この場合は、刑の免除ではなく親告罪(告訴がなければ検察官が起訴することができない事件)となります。
これを定めているのが、刑法244条です。親族間での窃盗を処罰しないこととしているのは、国家が刑罰権の行使を差し控え、親族間の自律に委ねる方が望ましいという政策的な考慮に基づくものです。
【刑法244条】
1項 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。 2項 |
⑤彼氏の財布からお金を盗んだ場合はどうでしょうか?
この場合には、窃盗罪が成立します。彼氏は、刑法244条に定める親族に当たらないからです。
また、たとえ窃盗の被害者と加害者が内縁関係であったとしても、刑法244条を類推適用することはなく、通常通り処罰されるとするのが判例の立場です(最決平成18年8月30日)。
⑥自分の物を取り返した場合に、窃盗罪は成立しますか?
場合によりますが、成立することもあります。
窃盗罪の「他人の財物」とは、他人が「占有」する財物、つまり、他人が管理する財物をいいます。実際、刑法242条により、自己の財物であったとしても、他人が占有している場合には他人の財物とみなすとされています。
そのため、自分の物を取り返した場合にも、窃盗罪が成立する可能性はあります。
【刑法242条】 自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看取するも のであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。 |
⑦ 店員がレジから売上金を着服した場合、横領罪が成立するのでしょうか、それとも窃盗罪が成立するのでしょうか?
ケースによりますが、通常は窃盗罪が成立します。
簡単にいうと、窃盗罪は「他人が占有する」他人の物を盗るときに、横領罪は「自己が占有する」他人の物を着服するときに成立する犯罪です。
店員は、店長などの補助者にすぎず店員独自の占有を有していないと考えられます。そこで、他人が占有する他人の物(お金)を盗るといえ、窃盗罪が成立します。
一方、店員に対し高度の信頼関係があり、店員にある程度の処分権がある場合には、例外的に店員にも占有を認めてよいと解され、その場合に着服したときは、自己が占有する他人の物(お金)を横領したといえ横領罪が成立します。
※横領罪の場合には、罰金刑がないため、罰金を支払うことにより手続きから早期に解放される「略式起訴」という手続きは適用されません。
3.常習累犯窃盗罪
窃盗罪・窃盗未遂罪にあたる行為を常習的にする罪のことです。過去10年間に3回以上これらの罪で6か月以上の懲役刑を受けた者が、新たに罪を犯すと成立し、3年以上の有期懲役に処せられることになります。
クレプトマニアの事件(後述参照)においては、この常習累犯窃盗で起訴されるケースがあります。
(法定刑のまとめ)
罪名 | 法定刑 |
窃盗罪 (刑法235条) | 10年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
不動産侵奪罪 (刑法236条) | 10年以下の懲役 |
常習累犯窃盗 (盗犯等ノ防止及処分 ニ関スル法律3条) |
3年以上の懲役 |
4.クレプトマニア
(1)クレプトマニアとは?
クレプトマニアとは、常習的な万引き・窃盗行為を主症状とする精神障害のことです。
クレプトマニアの特徴は、個人的に用いるためではなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返されることにあります。
クレプトマニアであるかどうかは、医師による診断を必要とします。そして、診断を受けた場合には、治療を要するものです。刑事事件の処分を決める際にも、クレプトマニアであることを捜査機関に伝え、刑事処分ではなく、治療により解決すべきこと主張していく必要があります。
(2)クレプトマニアのポイント
- クレプトマニアの見方として、犯罪か疾病かの二者択一ではなく、基本的には疾病であり同時に犯罪でもある。
- 合併精神障害としては、摂食障害(とくに過食症)、アルコール乱用・依存症、薬物乱用・依存症、気分障害、不安障害(とくに強迫性障害)、人格障害などが多い。とくに、摂食障害はクレプトマニアを併発合併しやすい。
- 単なる性癖と異なり、本人自身の苦痛がある。
- 再犯予防という観点からは、処罰の効果は少なく(時には逆効果)、治療が必要である。入院治療期間は6か月が標準で3か月は短い。
- 行動制御能力が著しく減退しているとまでは言えず、結果的には責任能力があると判断されることが多い。但し、重篤な精神症状と密接に関連した窃盗行為の場合には、心神耗弱や心神喪失を主張する実益はある。
⇒これらのことから、刑罰よりも治療を優先すべきであり、刑事施設に収容されることなく治療に専念できるよう、裁判所や捜査機関に働きかける必要があります。
~窃盗事件の弁護活動~
1.早期に示談交渉に着手して、不起訴処分・略式罰金など有利な結果を導けるように活動します。
窃盗罪は、被害者がいる犯罪であるため示談解決がポイントとなります(但し、チェーンストア等、店舗によっては本社の指示により示談には応じないという態度をとるところもあります。その場合には、示談の経緯を主張することとなります)。被害弁償だけではなく、被害者が許してもよい(「宥恕(ゆうじょ)」と言います)ということになれば、一層有利な結果を導くことが可能でなります。
示談は契約ですので、被疑者と被害者が合意することにより作ることになりますが、被疑者が捜査機関に被害者の連絡先を聴いても教えてもらえないのが通常です。
また、仮に連絡先を知っていたとしても、相手の被害感情を考えると直接被疑者が被害者と交渉を行うのは困難であり、示談ができたとしても不相当に過大な金額での示談解決になる可能性が大きいと考えられます。
一方、弁護士を通じれば、弁護士限りでという条件付き(被疑者には連絡先を教えないという条件付き)で検察官より被害者の連絡先を教えていただける場合が多々あります。
そのため、弁護士に依頼することにより被害者とコンタクトをとりやすくなります。
また、弁護士が間に入れば、冷静な交渉により妥当な金額での示談解決が図りやすくなります。
2.余罪について嘘の自白をしないようにアドバイス
被疑者の方が同時期に複数件の窃盗事件を起こしていて正確な記憶を欠いている場合、捜査官から「これもお前がやっただろう」と言われ、言われるがまま自白をしてしまうことも少なくありません。
記憶が曖昧な場合には、曖昧なまま供述調書に署名・押印してはいけません。嘘の供述調書に署名・押印しないよう、適切に対処する必要があります。
3.早期の身柄開放を目指します。
逮捕・勾留されてしまうのは、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるためです。そこで、弁護士は早期釈放・早期保釈のために証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを示す客観的証拠を収集し、社会復帰後の環境を整備するなどして釈放や保釈による身柄解放を目指します。
4.依頼者の方と相談しつつ、必要であれば矯正プログラムの検討とともに証拠提出の上、再犯防止に向けてサポートします(捜査段階から行うこともあります)。
⇒常習的に窃盗行為を行う方の中には、自分のした行為を恥じ深い後悔をされているものの自信でコントロールが効かず止められず、悩んでいられる方もいらっしゃいます。
しかし、繰り返し窃盗罪で捕まった場合、反省や更生がされていないとして、重い処分がなされる可能性が高まります。
このような場合には医療機関などの専門機関への受診と治療などを行い、根本からの改善を試みるように促します。
5.否認事件では、冤罪を防止すべく被害者や目撃者の方に記憶違いがないかの検証・弾劾活動及び弁護側独自で有利な証拠を収集・提出できるよう活動します。
窃盗事件でお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部へお問い合わせください。
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