【詐欺罪(刑法246条)】 (1項) 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。 (2項) 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。 【電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)】 |
1.詐欺罪とは?
(1)通常の詐欺罪(246条)
ア 概説
詐欺罪は,人をだましてお金などの財産・利益を交付させた場合に成立する犯罪です。
刑法246条が定めている詐欺罪は、古典的な詐欺で、相手の人を直接言葉などでだます場合を規定しています。
詐欺罪が成立するには、①欺く行為⇒②被害者等の錯誤⇒③錯誤による処分行為⇒④財物・財産上の利益の移転というこの一連の流れを証明できなければなりません。
イ 各要件の意味について
- 「欺く行為」
取引の相手方が真実を知っていれば、財産的処分行為を行わないような重要な事実を偽ることをいいます。
簡単にいえば、だます行為です。たとえその情報を知っていたとしても取引をしたと言えるような、重要でない事実であれば、詐欺罪に当たらない余地があります。 - 「被害者等の錯誤」
簡単にいえばだまされることです。
だまされた結果、嘘の内容を真実と信じてしまったことを指します。
だます相手方は、財産の持ち主が通常です。しかし、他人の財産を自由に処分できる第三者をだました場合でも、詐欺罪は成立します。 - 「錯誤による処分行為」
簡単に言うと、被害者等がだまされたまま、自分又は処分できる他人の財産を渡したことです。 - 「財物・財産上の利益の移転」
財産が犯人又は第三者に移ったことです。
詐欺罪は、財物・財産上の利益が移転したことで既遂となります。
よって、欺く行為があったとしても、財物が移転しなければ詐欺未遂罪が成立するにとどまります。
財物とは、有体物を指します。これに対し、財産上の利益とは、債務の免除や債権の取得といったものを指します。
条文上、この利益が不法でなければならないように読めますが、利益自体は不法なものである必要はありません。
「詐欺によって利益を不法に得た」と読むことになります。
(2)電子計算機使用詐欺罪
ア 概説
電子計算機というと分かりにくいですが、要するにパソコンです。
パソコンが普及したことにより、人を介さずに取引が行われることが多くなったことから、昭和62年に新設されました。
古典的な詐欺罪は、人を相手に言葉などでだましていましたが、この犯罪は、パソコンに対し、嘘の情報を入力して、いわばパソコンをだますといった犯罪です。
イ 要件
- 虚偽の情報
虚偽の情報とは、当該事務システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、真実に反する情報をいいます。例えば、入金の実態がないのに、銀行のコンピュータに侵入して、自分の口座に対して振込みがあったような情報を書き込む場合です。 - 不正の指令
不正の指令とは、当該事務処理の場面で、本来与えられるべきではない指令のことをいいます。例えば、電話会社などで、一定の時間通話すれば課金するように設定されているプログラムに対し、時間が経っても課金されないような指令を送る場合を指します。
3.詐欺罪のQ&A
①盗んだキャッシュカードでATMからお金を引き出すと詐欺罪は成立しますか?
詐欺罪は成立しません。窃盗罪が成立します。
「欺く行為」は、人を欺くものである必要があるため、機械に対して虚偽情報を入力しても本罪の欺く行為にはあたりません。
また、現金を引き出す行為ですから、利益を得る犯罪である電子計算機利用詐欺罪は成立しません。
②無銭飲食や無銭宿泊は詐欺罪になるのですか?
(注文する時点ですでに支払意思がない場合)
支払意思がないことを黙っているのは、注文行為と一体となって積極的な欺罔行為といえるため、詐欺罪(246条1項)が成立すると解されています。
欺く行為は、言葉である必要はありません。
飲食店で注文する行為には、当然最後に代金を支払うという意思を含んでいると解釈されます。
つまり、最初から払う気がないのに注文することは、店員に、代金を払ってもらえると思わせる行為になりますから、お店をだましているということになります。
(注文するときはお金があると思っていたが、代金支払いの時点で無一文であることに気づき店員に「外に待ち合わせの友人がいる」とうそを言って逃げた場合)
代金の支払いを免れたとして詐欺罪(246条2項)が成立する場合があると解されています。
この場合には、最初は払うつもりがあったため、注文時に詐欺の意図がなく、故意犯である詐欺罪は成立しません。
しかし、最終的には代金を支払わなくてはいけません。
外に友人がいると言った場合でも、店員は、代金を後で払ってくれるものと考えています。
しかし、無一文ですから、代金を払う意思はありません。
よって、外に友人がいると言って逃げた場合には、払ってもらえると思っている店員をだまして、代金債務を免れたわけですから、詐欺罪が成立します。
③ある人が業者に支払いをしようと思って、銀行にお金を振り込んだのですが、間違ってXさんの預金口座にお金を振り込んでしまったところ、Xさんはラッキーと思い、そのお金を引き出した場合、どんな犯罪が成立しますか。
(Xさんが銀行の窓口から引き出した場合)
詐欺罪(246条1項)が成立します。
銀行には組戻しの手続き(誤って振り込んでしまった口座に戻す手続)が用意されているため、Xさんのような受取人には誤振込みがあった旨を告知する信義則上の義務があると考えられており、詐欺罪の要件をみたすからです。
つまり、口座を開設した以上、自分の口座に覚えのない入金があった場合には、それが誤りである可能性もありますから、そのようなことがあったことを銀行に伝える義務が存在します。
銀行員に対し、そのような誤りの可能性があるにもかかわらず、何も言わずに出金することは、「何も言わなければ
、ちゃんとした自分の預金であろう」と思って出金手続きをする銀行員をだますことになります。
そのため、詐欺罪が成立するのです。
(XさんがATMの機会から引き出した場合)
窃盗罪が成立します。
「欺く行為」は、人を欺くものである必要があるため、機械に対して虚偽情報を入力しても欺く行為がなく、詐欺罪は成立しません。
現金そのものを入手したため、財産上の利益を対象とする電子計算機使用詐欺罪が成立しないのは①と同じです。
(XさんがATM機を使用して他人の口座に振込送金した場合)
電子計算機使用詐欺罪が成立します(246条の2)。
他人の口座に、本来組戻しによって戻されるべき、あってはならない金銭が振り込まれた状況を作り出すのですから、電子計算機使用詐欺罪の対象となります。
④破産寸前の人が、支払意思も能力もないのにクレジットカードを使って買い物をした場合に詐欺罪は成立しますか?
様々な見解がありますが、一般的には加盟店に対して詐欺罪(246条1項)が成立すると考えられています。
クレジットカードを使う際には、当然、最終的には引き落としによって支払われることが予定されています。
支払意思や能力がないのにクレジットカードを使うことは、最終的には支払ってもらえる、と考えている加盟店をだますことになるので、詐欺罪が成立します。
⑤他人名義のクレジットカードを使用した場合に詐欺罪は成立しますか?
他人名義のクレジットカードの不正使用は、もちろん詐欺罪が成立します(246条1項)。
では、クレジットカードの名義人である本人が使ってよいと承諾したときはどうなるでしょうか?
様々な見解があるところですが、クレジットカードは、名義人本人のみが使用すべき制度になっているので、承諾は無効であり詐欺罪が成立する(246条1項)と考えられています。
もっとも、「カード名義人の配偶者などの近親者であって本人と同視しうる者が使用する場合」には詐欺罪には該当しないと一般的には考えられていますが、名義貸(借)はお勧めしません。
⑥振り込め詐欺グループが、お年寄り等からお金をだましとったときに成立する犯罪は何ですか?
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律が適用され、処罰されます。
詐欺行為が、団体の活動として、詐欺行為を実行するための組織により行われたときは、1年以上の有期懲役刑となります(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条1項13号)。
これは、10年以下の懲役を定める刑法の詐欺罪に比べ、重く処罰されることになります。
刑法の詐欺罪は、1か月以上10年以下の懲役刑ですが、犯罪収益移転防止法は1年以上20年以下の懲役刑となるからです。
⑦キセル乗車は詐欺になりますか?
なる場合があります。
キセル乗車とは、A駅からB駅へ移動する際、B駅より手前のC駅までの切符しか買わずにA駅で入場し、何らかの方法でB駅で下車することを言います。
キセル乗車が詐欺罪になるかは、微妙なケースもありますが、少なくとも鉄道営業法違反に当たるとされ、実際に罰金または科料を取られるケースもあります。
鉄道営業法違反の場合の罰金は、最高2万円です。
(B駅で、駅係員に何らかの働きかけをした場合)
例えば、B駅で、B駅とC駅の間にあるD駅からB駅までの切符を駅係員に見せて下車したり、B駅で切符をなくしたと嘘をついて下車した場合には、本来徴収すべき運賃を駅員に徴収させなかったということになるので、詐欺罪が成立します。
(B駅で自動改札を通り抜けた場合)
この場合に何罪が成立するかは、長年争われています。最近、回数券を利用したキセル乗車について、電子計算機使用詐欺罪を成立させた事例があります(東京高判平成24年10月30日)。
【鉄道営業法29条】 鉄道係員ノ許諾ヲ受ケスシテ左ノ所為ヲ為シタル者ハ五十円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス 一 有効ノ乗車券ナクシテ乗車シタルトキ 【罰金等臨時措置法2条】 |
~詐欺事件における弁護活動~
1.早期に示談交渉に着手して、不起訴処分など有利な結果を導けるように活動します。
詐欺罪は、罰金刑が規定されていません。
そのため、これらの詐欺罪で起訴されてしまうと、「無罪判決」、「執行猶予付き判決」、「懲役刑の実刑判決」しかありません。
起訴を避けるには、早期に被害者への謝罪や被害弁償を行い示談することが重要です。
もし捜査段階で被害者と示談することができれば、不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。
示談は契約ですので、被疑者と被害者が合意することにより作ることになりますが、相手の被害感情を考えると直接被疑者が被害者と交渉を行うのは困難であり、示談ができたとしても不相当に過大な金額での示談解決になる可能性が大きいと考えられます。
一方、弁護士を通じれば、冷静な交渉により妥当な金額での示談解決が図りやすくなります。
2.余罪について嘘の自白をしないようにアドバイス
被疑者の方が同時期に複数件の詐欺事件を起こしていて正確な記憶を欠いている場合、捜査官から「これもお前がやっただろう」と言われ、言われるがまま自白をしてしまうことも少なくありません。
記憶が曖昧な場合には、嘘の自白調書に署名・押印してはいけない等、取調べに対してアドバイスを行います。
3.責任能力に関して争う
無銭飲食等の被害額が比較的少額な事案の場合には、被疑者の方が精神的に疾患がある可能性があります。
このような場合には、検察官に対して、被疑者が責任能力に問題があることや被害額が少額であることを主張して不起訴処分にするよう弁護活動を行うことが考えられます。
4.早期の身柄開放活動
詐欺罪で逮捕・勾留されてしまうのは、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるためです。
そこで、弁護士は早期釈放・早期保釈のために証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを示す客観的証拠を収集し、社会復帰後の環境を整備するなどして釈放や保釈による身柄解放を目指します。
5.否認事件
否認事件では、冤罪を防止すべく被害者や目撃者の方に記憶違いがないかの検証・弾劾活動及び弁護側独自で有利な証拠を収集・提出できるよう活動します。
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