【信用毀損及び業務妨害罪(刑法233条)】 |
1.信用毀損罪
233条には、信用毀損罪と偽計業務妨害罪が規定されています。
信用毀損罪は、人に対する社会的評価のうち、経済的信用を保護する罪です。
経済的信用以外の社会的評価は名誉毀損罪や侮辱罪で別に処罰されます。
「人(法人や団体も含む)の信用」とは、経済的側面における人の社会的評価のことです。
もっとも典型的なものは、人の支払い能力や支払意思に関する側面です。
例えば、「あの会社は倒産しそうだ」というような場合です。
しかし、経済的信用は、それ以外にとどまりません。
商品の品質も、経済的側面と言えます。
実際過去の事件で「コンビニエンスストアで買った紙パック入りジュースに自分で異物を混入したのにもかかわらず、このコンビニで販売されたジュースには異物が混入されていると報道させた。」というものがありました。
判決は、コンビニが販売する商品の品質に対する社会的な信頼を毀損したとして信用毀損罪を成立させています。
2.偽計業務妨害罪
(1)偽計業務妨害罪とは?
偽計業務妨害罪は、成立範囲が非常に広い犯罪です。
成立範囲は、ほとんど無限定と言っても過言ではありません。
あらゆる手段が、犯罪の行為とみなされます。
偽計業務妨害罪に問われた場合には、本当にそれで犯罪になるのか、しっかりと検討したうえで、捜査機関に主張する必要があります。
そのためには、取調べに対する弁護士からのアドバイスや、弁護士からの検察官・裁判所に対する意見書の提出が重要になります。
(2)要件
ア 虚偽の風説の流布
- 虚偽
虚偽とは、客観的に真実に反することを言います。
- 風説
「風説」とは、噂のことです。噂の中身としては、具体的事実を示す必要はありません。
- 流布
不特定又は多数の人に伝えることを言います。
しかし、1人の人に言った場合にも他人を通じて順次広まっていくことを認識して、実際に風説が被停まった場合には、「流布」に当たります。
イ 偽計
偽計とは、人を欺き、あるいは、人の錯誤・不知を利用したり、人を誘惑したりすることを言います。
この偽計は、幅広く解釈されているため、実際には「威力以外の不正な手段」と捉えられています。
例えば、無言電話をたくさん掛けた場合や、お店の入り口に勝手に休業の張り紙をするような場合です。
変わったところでは替え玉受験などがあります。
ウ 業務
「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づき継続して行う事務又は事業をいいます。
社会生活上の活動であることが必要で、個人的な活動や家庭生活上の活動は含まれません。
簡単にいえば、職業として行っているような行為を対象としていて、スポーツや学習、娯楽や趣味、料理や洗濯などの家事は含まれないということです。
エ 妨害
現実に妨害されている必要はなく、妨害されるに足りる行為が行われた場合には業務妨害罪が成立すると考えられています。
3.威力業務妨害罪
偽計業務妨害罪とは手段が異なるだけです。
「威力」を用いて業務を妨害する点に特色があります。
そして、「威力」とは、人の意思を制圧するに足る勢力の使用をいいますが、これまたイメージがつきにくいです。
この「勢力」とは、暴行・脅迫などよりもっと軽いものも含まれます。
例えば、スクラムを組んで制止を振り切って室内の人に詰め寄った場合や、卒業式で校長の制止を振り切って怒号した場合などが「威力」にあたるとしました。
4.信用毀損及び業務妨害罪Q&A
①いたずら電話は何か犯罪が成立しますか?
偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
下級審の裁判例の中に「中華そば店に約970回にわたり無言電話をかけた事例」に関し、偽計業務妨害罪を成立させたものがあります。
②威力業務妨害罪と偽計業務妨害罪の区別がよくわかりません。
判例を概観してみると、おおむね外見的にみて明らかであれば威力業務妨害罪、そうでなければ偽計業務妨害罪を成立させているように思えます。
近年では、インターネットの普及により、ネット上の書き込みによる業務妨害で立件される事例が増えてきています。
このような場合には、威力に当たるか、偽計に当たるかの判断は非常に難しいところです。
ネット上やメールで、特定の企業などを対象に、爆破予告などをする行為は、脅迫にあたる行為ですので、威力業務妨害罪に当たるものと思われます。
逆に、○○駅で人を殺すというような犯行予告がなされたような場合は、偽計業務妨害罪に問われる可能性があります。
実際には、両者の法定刑に違いがなく、どちらかを区別するメリットはそこまで大きくないと思われます。
大事なのは、そもそも「威力」なのか「業務」なのかです。
③公務員の公務を妨害したと言われたのに、業務妨害罪で取調べを受けました。公務執行妨害罪にならないのですか?
公務も、その言葉の定義からすると、業務に含まれそうです。
しかし、公務執行妨害が「暴行・脅迫」を手段とする場合にのみ成立するのに対し、威力業務妨害は「威力」、つまり暴行・脅迫に至らない程度の手段でも成立します。
つまり、威力業務妨害罪のほうが成立範囲が広くなっています。
そうすると、業務妨害罪に当たりそうにも思えます。
しかし、それでは公務執行妨害罪を別に定めた意味がなくなります。
そこで、現在では以下のように考えられています。
A 警察のような、自力で暴行・脅迫を排除する手段を持っている公務の場合は、公務執行妨害以外成立しない(業務妨害は成立しない)。
B それ以外の、自分では排除する手段を持たない公務(市役所の窓口などです)の場合には、暴行・脅迫を手段とする場合には公務執行妨害が、威力・偽計を手段とする場合は業務妨害が成立する。
最初の質問のケースでは、Bの場合に該当すると判断された結果であると思われます。
~業務妨害事件における弁護活動~
業務妨害罪は親告罪ではありませんが、被害者が存在する犯罪です。
ですので、被害者との間で、示談を成立させたり、被害弁償を行うことで、事件を早期に解決することができる可能性が高まります。
被害届が出される前であれば、そもそも事件化することを防ぐことができるかもしれません。
また、捜査が開始していても、早期の身柄開放のために考慮される事由となります。
もちろん、身に覚えのない事実で、業務妨害の疑いがかけられている場合には、アリバイや別の犯人がいる可能性を表す証拠の収集や事実調査をして、捜査機関に適切な対処をとることで、早期に疑いを晴らし、事件を解決できるよう努めます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部では、あなたの行った行為が犯罪に当たるか、犯罪に該当するとして、今後捜査や刑事手続きがどのように進んでいくのか、今後どのような対応を取ればよいのか、刑事事件を専門的に扱う弁護士が、直接無料相談を行います。
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