稲庭うどん小川|後編:リブランディングで世界に届ける「稲庭うどん小川」の魅力 - 仙台をクリエイティブでつなぐウェブメディア[SC³ on site]

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稲庭うどん小川|後編:リブランディングで世界に届ける「稲庭うどん小川」の魅力

OF HOTEL(仙台市青葉区)で開催された「OF HOTEL LOCAL CONNECTIONvol.3 ブランディングで世界へ広がる東北の魅力」。セミナー後半は、「稲庭うどん小川」(秋田県)のリブランディングを手掛けたビスポーク代表の長田さんが、今回のプロジェクトのポイントについて解説しました。

肝は「社員全員参加」

「初めて提案させていただいたときの空気は忘れられない」と長田さん。「『東京からカタカナばっかりしゃべるやつが来た!』みたいな雰囲気で完全アウェーでした」と苦笑いします。長田さんはなるべく分かりやすい言葉で粘り強くブランディングの意義を伝え、うどん小川の経営陣の理解を得て、プロジェクトがスタートしました。

株式会社ビスポークの長田さん

まず、長田さんはうどん小川の現状と課題を次の3点に整理しました。
1. 共働き世帯が増え、消費者の時短へのニーズが高まっており、家庭での手作り料理の市場は縮小傾向にあるため、乾麺を主力とする小売事業は厳しい環境が続く見込みである。
2. 業界が老舗メーカーに席巻されている中で、後発メーカーのため、現状では売り場面積や認知度の面で他社より劣勢に立たされており、打開策が必要。
3. 販売を商社に依存しており、メーカーとして顧客が見えていないため、顧客ニーズに直に触れられるようなビジネスに転換が必要。

その上で長田さんは、今回のリブランディングには経営層だけでなく、工場の製造担当者や経理総務などの事務担当者など、うどん小川に関わるすべての方に参加していただくことを求めました。経営層の思いだけで走って現場がついてきてくれなければ、成果も持続性も見込めないからです。

自社商品の魅力を分析し、方向性を共有する

プロジェクトを始めるにあたり、自社商品の特長や魅力、独自性の洗い出しや、顧客のペルソナ設定の検討などを行いました。こうした検討を行う上で、「顧客・自社・競合他社」の3つを軸に市場環境を分析するフレームワークを「3C分析」と呼びます。全社員に「自分ごと」として捉えていただけるよう、「自社の一番星を探しましょう」と伝え、自社や稲庭うどん市場の分析を行いました。

うどん小川が行った3C分析

また、自社の現状の立ち位置を把握し、目指したい方向を探るワークショップも行いました。未来のありたい姿を実現するために何をすべきか、課題も社員全員で共有することができました。

こうした自社の目指す方向を掘り下げることに、かなり時間と労力をかけました。たまたまコロナ禍の時期と重なったこともあり、社員の皆さんにじっくり考えていただく時間が取れたことで、熟慮を重ね納得感を得られたことはプラスに働きました。そうして、思いを形にする作業がスタートします。

ブランドアイデンティティを軸にパッケージ一新

初めに、自社のブランドを顧客にどのように思ってもらいたいのかを表す言葉として「ブランドアイデンティティ」(コンセプトとなる軸)を決めました。

稲庭うどんに革命を。
TENOBE INOVATION 手延べイノベーションを起こす。

次に、このブランドアイデンティティを視覚化し、社名、ロゴ、広告、商品など様々なブランドアイテムに反映させていきます。
最初に、商品パッケージを一新することにしました。
従来の商品パッケージは昔ながらの素朴な印象で、メーカー名や小川の品質の良さ、こだわりが印象に残り辛いデザインでした。新パッケージでは、「小川の稲庭うどん」であることが一見して分かり、独自性や上質性、製法のこだわりを視覚的に訴えるデザインにしました。

新パッケージでは「油不使用」、「五段熟成」など製法のこだわり等を表現

新パッケージは複数案の中から選んでいただきましたが、デザインをガラリと変えたため、取引先からは「お客さんが離れてしまう」と否定的な意見でした。しかしここは小川専務が、パッケージに込めた意味や思いを伝え、頑として譲らずに乗り切ってくれました。結果、パッケージ変更から3カ月で売り上げは120%増、新規取り扱い店舗が3000店舗以上に増え、大きな成果を上げることができました。

次に、ブランドアイデンティティを伝えるためのブランドブックを制作しました。これには写真と文章で、製麺会社としてのこだわりを丁寧に伝えました。

稲庭うどん小川のブランドブック

油不使用、五段熟成、麺に含まれる気泡など、うどん小川ではこれまで当たり前にやってきたこと一つ一つが、長田さんの目から見て、商品やメーカー自体の魅力、強みとしての発信要素になると考えたからです。

初めは小川さんに「撮るところなんてないよ」と言われた工場や、「綺麗じゃないから…」と遠慮された道具類も、魅力的なコンテンツとなりました。

ブランドの世界観の「体験」を提供する

ブランディングには「体験」も大きな要素となります。ブランディングと体験を組み合わせることで、人々の行動や意識に結びつき、ブランド力の向上につながります。ブランドアイデンティティを軸としたブランド体験として、5つの事業を実施しました。

第1弾:パッケージリニューアルをはじめとしたリブランディング
第2弾:化学調味料・保存料不使用「稲庭うどん専用めんつゆ」発売
第3弾:「稲庭うどん」をフランス・パリへ大学生と届ける産学官連携プロジェクト
第4弾:稲庭うどんの端材を使用したご当地エール開発
第5弾:世界へ挑むプラントベースつゆの開発

第1弾として、うどん小川の全社員や取引先も含めたリブランディングは、結果的に日本パッケージデザイン大賞入選、日本BtoB広告賞(ウェブサイト・商品PR部門)金賞などの受賞につながり、数多くのメディアにも取り上げていただきました。リブランディングを機にリニューアルしたウェブサイトでは小川さんがレシピを定期的に更新していて、その数、現在200を超えています。

小川さん考案の様々なレシピ

第2弾として、老舗カツオ節問屋との無添加つゆを共同開発しました。現在もECサイトで売り上げの上位商品です。第3弾事業は、秋田県の国際教養大学とフランスで市場調査を実施。ヨーロッパ輸出施策がブラッシュアップでき、現在の海外販路拡大につながる成果を上げました。第4弾は食品ロス削減の取り組みとして、日本で初めて稲庭うどん端材を活用した発泡酒を発売しました。第5弾はベジタリアンやビーガン人口の増加を念頭に、植物由来のつゆを商品化しました。

秋田のビールメーカーと共同開発した「稲庭うどんから生まれたエール『小川』」

これらのプロジェクトを約2年の間に実施できたのは、小川さんをはじめうどん小川の皆さんの熱意、チーム小川の協力体制、協働先があってこそでした。こうして「武器」を増やしてきたことで、今後の展開も広がりが期待できます。

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セミナーを終え、小川専務と長田さんにこれまでの取り組みを振り返っていただきました。

専門性・地域性を生かしたチーム体制が奏功

――小川さんはプロジェクト始動以降、とても忙しくなったのでは。

小川)まさにそうです! 休みもなく、夜寝ている間も仕事のことを考えているほど忙しいです。でも、長田さんに出会う前は何をすればいいか見当もつかず、毎日沈んでいく夕日をぼうっと眺めてつらかった。今はこの忙しさがとても幸せだし、毎日が面白くてワクワクしています。

――今回のプロジェクトはチームで取り組まれました。

長田)それぞれの専門性を生かして分業制にしたことが、効果的だったと思います。東京、秋田、仙台と離れていても、オンラインツールが普及したおかげで不便は感じませんでした。

「伝統」への思いが生んだ「手延べイノベーション」

――チーム内で同じ方向性を持ち続けることができた要因は。

長田)最初に決めた「手延べイノベーション」というブランドアイデンティティを共通認識として持てたことだと思います。当社から小川さんにご提案したフレーズでしたが、ヒントになったのは工場にあった「伝統は古さ比べじゃない」という張り紙。すごくいい言葉だと思いました。

小川)昔、取引先の方から言われた言葉です。先代は「伝統の上にただ立っていても進化しない」といつも言っていました。私も、新しいチャレンジを続けることでこそ、伝統は未来へ継承できると考えています。

――2年ほどの間に、第1弾から第5弾まで立て続けにプロジェクトを実施されました。当初からの予定どおりでしたか。

長田)こんなにやる予定はなかったです(笑)。進めていくうちに後から後からやりたいことが湧いてきた、という感じですね。ご当地エールは、醸造会社側からお声がけいただきました。

小川)産官学連携したフランスでの市場マーケティングは、秋田県の事業に応募して採択を受けました。当時一緒に動いた学生さんは、今も海外の展示会を手伝ってくれたりと交流が続いています。

とことん話し合って、悩みぬいて最後は自分が決める

――途中で悩んだり迷ったりしたことはありませんでしたか?

小川)葛藤の連続でした(笑)! 最初のパッケージを、会長に見せるだけでもすごく日数がかかって……。
長田)なかなかお返事いただけませんでしたものね(笑)。でもパッケージリニューアルを主力商品から始める企業は少数派です。しかもガラリと変えましたから…。勇気がおありだなと思いました。
小川)とてもいいパッケージを作ってくださったから。商品の良さを伝え、説得力のあるデザインでした。ご当地エールを作るときも、ものすごく悩みました。リスクも必ずあるので。悩んで迷って、「私たちはどの方向へ向かいたいのか」を社内でたくさん話しました。話し合いを重ねながら、自分の意志を固めていく。最終的に決めるのは自分です。周りの意見に流されて決めてしまうと、うまくいかなかったときに誰かのせいにしてしまいますから。心を決めたら迷いは消えましたね、あとはやるだけ。

リブランディングで手にした「自信」と「武器」

――葛藤しながらも前進を続けられた要因はなんですか?

小川)家業が好きということ、それと自慢の社員たちへの思いです。うちの社員たちは本当にすばらしくて、彼らがいるから私は絶対にへこたれていられない。
これまで、売るべき「もの」はあったのにその魅力を伝えきれていませんでした。もともとの品質の良さに、リブランディングのおかげで私に自信が生まれ、さまざまなプロジェクトでたくさんの武器を手にすることができました。ブランディングとはロゴやパッケージを新しくするだけかと思っていたのですが、全然違うんですね。長田さんやかさまつさんと話す中で自社の魅力を再認識でき、目指す方向を定められたことに、本当に感謝しています。

――今後の展開についてお聞かせください。

小川)海外展開を強く意識したリブランディングのおかげで、近年輸出が急上昇しています。現在売り上げの約20%が輸出ですが、この比率をさらに上げる計画です。
私たちの事業の目的は、小川の稲庭うどんをもっともっと知ってもらうことと、社員の幸せ。そして地元企業として湯沢市の産業を力強く支える存在になりたいです。

稲庭うどん小川
Webサイト:https://ogawaudon.com/
オンラインストア:https://shop.ogawaudon.com/

 

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