クリエイターインタビュー|石森 史寛さん(後編)
東北大学大学院修士課程を修了後、仙台の設計事務所で経験を積み、株式会社石森建築設計事務所を設立。一級建築士として活躍されている石森史寛(いしもり ふみひろ)さんにお話を伺いました。
―建築の仕事のおもしろさ、やりがいはどんなところにありますか?
やっぱりつくったものを使ってもらえているっていうのが1番嬉しいですし、やりがいですね。特に公共性の高い建物がおもしろいと思っていて、時間を空けて訪れたときに使われているところを見て、すごくよかったなあと思うことがあります。逆にもっとこうしておけばよかったなって思うことも半分くらいはあるんですけどね。
―公共性の高い施設の方が、住宅などよりも得意なんですか?
得意不得意ということではなくて、提案の幅が多い様に感じています。住宅は家族という立場が近い人たちが使うものだし、敷地や部屋の数も多くないので、どうしても提案できるところが限られてくるんです。一方で公共性の高い施設、たとえば幼稚園っていうのは、子どもや保育士さん、幼稚園の経営者、親御さんに加え、地域の方も訪れたり、いろんな立場の人に使ってもらうものなので、いろんな角度から「こういう幼稚園だったらいい」という提案ができる。そこがおもしろいんですよね。
―幼稚園の仕事は結構多いんでしょうか?
幼稚園や保育園は今まで3つやらせてもらっています。1つは、先輩の設計事務所と共同設計で参加したコンペの仕事。あとは、復興支援で知り合った方のご紹介で、東京の設計事務所と共同設計でやらせていただいたもの。3つ目は最近できあがったばかりなんですけど、震災後からお手伝いをしている子ども支援のNPOがあって、そのつながりで企業主導型の保育園をつくりたいというご相談をいただき、関わらせていただきました。
―共同設計の仕事って、結構あるものなんですか?
結構ありますね。独立したての若い人に何億円もの建物は頼みにくいし、お客さんとしてもいろんな方が関わった方がより安心できるということがあるんでしょうね。
―共同設計のいいところ、大変なところをそれぞれ教えてください。
いいところは、1人ではなかなか経験できないような建物の設計に関われるところですね。
大変なところは、いろんな意見を集約しなければいけないことだと思います。プレイヤーが多くなればなるほどいろんな意見が出て、より安全なものに近づく一方で、無難なものになっていく傾向があります。バランスを取りながらいい設計をしていくのはなかなか大変です。
―建築の仕事の難しいところはなんですか?
建築設計は、お客さんが「『こうしたい』と思ってもできないこと」を代行するサービス業だと思っていて、お客さんの意見を引き出したり、こちらの提案に意見をいただきながら進めることが大切なんですが、実は僕「誰とでもうまくコミュニケーションがとれる」タイプではないんですよ。うまくコミュニケーションが取れた場合は、設計も現場の作業もうまく進むんですけど、そうでない場合は、建物もガチャガチャしがちというか、まとまりがない感じになってしまいます。
―建築は長期間にわたるのでうまくコミュニケーションを取り続けるのは大変ですよね。
設計や建設の期間も長いですが、建物ができてからも何年も関係が続いていくので、時間の長さという点で大変さはあるかなと思います。打合せの中でわかってもらっていても、できてから使ってみてわかることってやっぱりあって。できた後に「ここはもうちょっとこうしてほしい」と言われたりとか。もちろん、なるべくそういうことがないように気をつけて仕事はしていますが、なかなか難しいですね。
―市外や県外の仕事も結構やられているんですか?
それほどでもないですが、ありますね。東京だと、朝現場に行って戻ってきたらもう1日終わりです。電車とか新幹線で行けるところへの移動は大体睡眠時間だからいいんですけど、車じゃないと行くのが大変なところ、たとえば南三陸とかだと片道2時間半とか3時間弱、往復で6時間とられるので大変ですよね。
―仕事面で、行政への要望はありますか?
1つは、これは市ではなく国に対してですけど、税金安かったらいいのにとは思います(笑)。
あとは、僕らの年代の人でも参加できるコンペやプロポーザルを増やしてほしいですね。「同等以上の施設の設計をしたことがあること」という参加条件があることがほとんどで、若い人がチャレンジできる土壌が少ないんですよ。ごく稀にはあるんですけど、機会が昔より減っていて、ステップアップのチャンスが少ないと感じています。小規模のものでもいいので、もっとオープンになるといいなと思います。
―建築分野で働きたいと思っている学生の方にアドバイスやメッセージをお願いします。
大学で非常勤講師をやらせてもらっていて学生と話す機会もあるんですが、将来的にやりたいことをある程度決めておいた方がいいよと伝えています。携わりたいことを決めれば、そのためにできることはあるんですけど、何も決めないでもやっとしていると話が進まないんですよね。「やっぱりこっちに興味があった」となった場合にも、後から方向転換はできるので、まずは一旦方向性を決めることをおすすめします。「これだ」と思ったらやりたいようにやればいいと思います。なので、いろんな仕事や働き方の人のやり方を見せてもらって、「こういう働き方もあるのか」と感じるのが良い様に思います。
取材日:平成29年12月14日
聞き手:SC3事務局(仙台市産業振興課)
構成:工藤 拓也
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石森 史寛
1978年 宮城県生まれ
2006年 東北大学大学院修士課程修了
2006年~ 一級建築士事務所ノルムナルオフィス勤務
2010年 株式会社石森建築設計事務所 設立
2011年〜 東北学院大学非常勤講師
2014年〜 東北工業大学非常勤講師