世界気象機関(WMO)は5日、世界の年間平均気温が、パリ協定が目指す産業革命前からの気温上昇抑制幅「1.5度」を今後5年以内に超える可能性が高いとする報告書を発表した。報告書ではこれまでで最も暑い年だった2023年の記録(1.45度上昇)が5年以内に更新される可能性が高いとも指摘し、温室効果ガスの一層の排出削減対策が必要だと強調した。
WMOは英国の気象当局などの気温データを活用。気温上昇幅が産業革命前と同程度とされる1850~1900年の平均気温を基準に2024年から28年まで5年間の世界の気温上昇を予測した。
その結果、5年間の平均気温は1.1~1.9度高くなる可能性が高いとし、この間の少なくとも1年は80%の確率で産業革命前より1.5度を超えて高くなるほか、2023年の記録を86%の確率で更新するという。1年単位ではなく、5年間の平均で1.5度を超える確率も47%あるとの予測が出た。15年の段階では同年から5年間に1.5度を超える確率は0%に近かったが次第に高まり、24年からの5年以内の確率はついに80%に達した。
WMOによると、2023年は長期的な温暖化傾向にエルニーニョ現象の影響が加わって過去最も暑い夏になった。分析データ(コペルニクス気候変動データ)によると、同年6月から今年5月の1年間だけを見ると産業革命前の水準より1.63度高くなっている。WMOや気象の専門家は一時的に「1.5度」を超えても直ちに「パリ協定目標未達成」とはならず、一定期間の幅をもって傾向を見る必要があるとしているが、今回の予測は気候変動対策に猶予がないことを明確に示している。
WMOのバレット事務局次長は「今回の統計予測の背景には、(世界各国が)パリ協定が定める目標を達成する道筋から大きく脱線しているという厳しい現実がある。温室効果ガスの排出削減を早急に進めなければ何兆ドルもの経済コストや数百万人もの命、環境と生物多様性への甚大被害という重い代償を払うことになる」と警鐘を鳴らした。
また国連のグテーレス事務総長はWMOの報告書を受けて演説し、「われわれは地球とロシアンルーレットをしている。『気候地獄』に向かう高速道路から降りる出口が必要だ。ただ(高速道路を走る車の)車輪をコントロールできる」と述べ、各国の対策の重要性を強調した。そして化石燃料の使用を段階的に減らしてクリーンな再生可能エネルギーを活用すべきだと改めて訴えた。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2021年8月に公表した報告書で「1.5度上昇」で「50年に一度の(激しい)熱波」が産業革命前の8.6倍増えるなどと指摘する一方、50年ごろまでに温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすれば一時的に1.5度上昇を記録しても今世紀末には気温はわずかながら下降すると排出削減対策の重要性を強調している。