「地球温暖化の進行により今後豪雨災害や猛暑のリスクがさらに高まると予測され、将来世代にわたる影響が強く懸念される」。政府はこう警告する令和2年版環境白書を12日に閣議決定した。白書は、「気候変動」の問題は今や人類を含む全ての生き物の生存基盤を揺るがす「気候危機」の段階で、海洋プラスチック汚染や生物多様性の損失と相互に関連していると強調。経済・社会システムや日常生活の在り方を大きく変える「社会変革」を求めている。
白書の正式名称は「環境白書・循環型社会・生物多様性白書」で、第1部と第2部の2部構成。「本編」と言える第1部の第1章は「気候変動問題をはじめとした地球環境の危機」と題して、国内外で頻発している自然災害を例示しながら危機感を表明した。
例示されたのは、西日本を中心に200人以上の犠牲者を出した2018年7月の豪雨や、最大瞬間風速57.5メートルを記録する猛烈な風雨で千葉県などに大きな被害を出した19年9月の台風15号、伊豆半島に上陸して1都12県に大雨特別警報が発令された同年10月の台風19号など。「こうした個々の気象災害と地球温暖化の関係を明らかにすることは容易ではない」としつつも「今も排出され続けている温室効果ガスの増加によって今後、豪雨被害などが頻発化、激甚化すると予測され、将来世代にわたる影響が強く懸念される」と明記している。
環境白書は猛暑についても言及し、気象庁気象研究所や東京大学大気海洋研究所、国立環境研究所の研究成果を引用する形で「産業革命以降の気温上昇をセ氏2度に抑えられたとしても国内の猛暑日は現在の1.8倍になると推定される」とした。
また、「一人一人が世界的な環境問題の原因の一端を担っているが日常生活や経済・社会活動の中でそのことを強く意識することはまれ」と指摘。「気候変動は種の絶滅・生育域の移動、減少、消滅など生物多様性の損失につながる可能性がある。プラスチックは生産までの過程や焼却により二酸化炭素(CO2)を排出し、これらの問題は相互に関連している」とした。さらに、こうした「地球の危機」に対応するためには経済・社会システムや日常生活の在り方を大きく変える社会変革が不可欠として、環境、経済、社会の「統合的向上」を目指す「環境・生命文明社会」を提唱している。
白書は気候変動問題に参加する若者の動きについても触れ、対策を訴える若者の活動が活発化しているとして、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんを紹介。グレタさんの活動により「国内でも若者を中心に気候変動への関心の高まりが見られる」と記した。
新型コロナウイルスについては、テレワークやオンライン教育、ウェブ会議の広がりが、移動に伴うCO2の排出量削減につながるとし、「収束後も引き続き積極的な活用が期待される」と呼び掛けている。
政府は環境白書を閣議決定した同じ12日、令和2年版防災白書も閣議決定している。この白書でも地球温暖化の影響により豪雨の増加など気候変動が起きていることを強調し、今後も災害リスクがさらに高まる恐れがあるなど指摘し、国民に災害への備えを呼び掛けている。
防災白書でも2018年の西日本豪雨や19年の台風15号、19号による大規模災害が続いたことを紹介。気候変動により、洪水や海面上昇による高潮の発生などが世界的に懸念されているとした。そして「気候変動を踏まえた防災の視点」をさまざまな政策に導入することが必要としており、内閣府や環境省など関係省庁で対策を検討すると明示している。
関連リンク
- 環境省プレスリリース「令和2年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書の閣議決定について」
- 内閣府「令和2年版防災白書」