今年の夏も全国的に厳しい暑さが予想され、熱中症や豪雨被害が多発すると懸念されている。日本気象学会や日本救急医学会、日本建築学会など防災関連の62の学会、協会が参加する「防災学術連携体」が、気象災害による甚大被害を減らすために警戒と早めの対策を呼びかける緊急のメッセージを発表した。
災害級の熱波に備える「熱中症特別警戒アラート」や線状降水帯の府県単位「半日前予測」など、異常気象に対応する新たな制度運用も始まった。だが、防災学術連携体の専門家は一人一人ができる身の回りの対策の重要性を訴えている。
今年も「全国的に気温が高くなる」
防災学術連携体(代表幹事は森本章倫・早稲田大学教授と米田雅子・東京工業大学特任教授の2氏)は防災に関わる多くの分野にわたる学会、協会で構成され、災害の緊急事態に対応できるよう連携して活動している。6月4日にオンラインで記者会見し、国民、市民に向けたメッセージ「2024年夏秋の気象災害に備えましょう」を発表した。
記者会見には、東京大学先端科学技術研究センター教授の中村尚氏が日本気象学会を、日本医科大学教授の横堀将司氏が日本救急医学会を、建築都市耐震研究所代表(防災学術連携体事務局長)の田村和夫氏が日本建築学会を、また米田氏が同連携体をそれぞれ代表して出席した。
まず、気象庁の異常気象分析検討会会長も務めている中村氏は、メッセージを読む形で「地球温暖化の進行に伴って日本や世界各地で異常気象が起きやすく、日本では豪雨、台風や猛暑により人々の生命や社会経済活動に深刻な影響が及んでいる」「今夏の天候については暖かい空気に覆われやすく、全国的に気温は高くなり、降水量も7月前半には東日本太平洋側と西日本で前線や湿った空気の影響を受けやすい」と述べた。今から熱中症や豪雨災害に備える必要があるという。
気象庁が5月21日に発表した6~8月の天候見通しによると、太平洋高気圧は平年に比べて日本の南で強い。上空の偏西風は平年と同じ位置を流れやすく、昨年の猛暑の一因とされた蛇行は今年も続く可能性があるという。
同庁は夏季に太平洋高気圧の張り出しが弱くなる「エルニーニョ現象」は終息し、6~8月期の後半から秋にかけて南米ペルー沖の海面水温が下がり、同高気圧の北方への張り出しが強まる「ラニーニャ現象」が発生する可能性が高いと予測している。全国的に平年より気温が上がる可能性が高い。
熱中症は予防可能、「弱者」を見逃さないように
熱中症に詳しい横堀氏は、熱中症による死者が増加傾向にあることを示すデータを示しながら「気候変動による健康被害は深刻になっている。熱中症被害は今や災害級ではなく超災害級だ」と述べた。そして体温調整機能が低下している高齢者や、高血圧、糖尿病などの持病がある人、認知症、一人暮らしの人、乳幼児などの「熱中症弱者」を見逃さないことが何より求められているとし「熱中症は予防できる災害だ」と指摘した。
横堀氏によると、本格的な夏を迎える前の梅雨の期間から暑さに備える必要がある。そして節電をするにしても、エアコンを適切に使うことで室内での熱中症のリスクを下げることができる。体が暑さに慣れる前の梅雨明けの時期は特に注意が必要だという。
日本救急医学会はスマホ用の熱中症診断支援アプリを開発し、一般にも公開している。横堀氏は「いくつかの質問項目に答えるだけで重症度や必要な措置が分かる。近隣の病院への道順など誘導もしてもらえるので(自分や周囲が異常に気づいたら)活用してほしい」と話している。
熱中症は高温や高湿度により、体内の水分、塩分バランスが崩れてめまいや吐き気、意識障害を起こす。死者は2018年以降22年までの間、21年を除いて年間1000人を大きく超えている。環境省によると、死者数の5年移動平均は96~00年は179人だったのに対し、19~23年は1308人になっている。総務省消防庁の集計では、熱中症による救急搬送者数は年々増加して23年は9万人を超えた。
特別警戒アラートの運用を全国で開始
環境省は4月24日から「熱中症特別警戒アラート」の運用を全国で開始し、気温と湿度などから算出する「暑さ指数」が35以上になると予想された場合は、最大限の予防行動を呼びかけて、市区町村は事前に決めた公民館などを「指定暑熱避難施設」(クーリングシェルター)として開放することにしている。
暑さ指数は25以上が「警戒」、28以上で「厳重警戒」、31以上で運動を原則中止とする「危険」、33以上で「熱中症警戒アラート」が出されていた。警戒アラートの2023年度の発表回数は過去最多の1232回に達した。環境省は深刻化する熱中症被害に対応するため、4月から新たに熱中症特別警戒アラートを設定した。
自分の住まいの災害リスクチェックを
防災学術連携体は熱中症と同じように発生リスクが高まっている豪雨や台風による風水被害や土砂災害についても警戒と対策を呼びかけている。建築、建造物の安全問題に詳しい田村氏は「自分の住まいの(豪雨などの災害の)リスクをチェックしてほしい」と語った。
田村氏は「自宅周辺などのハザードマップを参考に、付近の河川が氾濫した場合に自分の住まいがどの程度浸水するか、土砂災害の起きるリスクなどを自ら確認し、浸水のイメージをあらかじめ持ってほしい」と述べている。局地的豪雨や線状降水帯による豪雨ではごく短時間に地下街や地下室、排水溝、用水路などに激しい勢いで大量の水が流れ込むため、家族と安全な避難方法や連絡方法を日頃から相談しておくことも大切としている。
自分でもできる備えの大切さを強調
気象庁は5月27日から局地的な豪雨をもたらす線状降水帯が発生する可能性があることを12~6時間前に伝える「半日前予測」を府県単位で発表している。半日前予測は2022年6月にスタートし、当初は関東甲信、東海、近畿、中国など、全国を11に分けた地域ごとに出していた。
同庁は数値予報モデルと呼ばれるプログラムの精度が向上したため予測の範囲を狭め、地域防災に役立ててもらうために府県単位の運用にしたという。ただ、半日前予測が出せないまま線状降水帯が発生することもあり、この予測だけに頼らないよう注意が必要だ。
「(誰もが)災害の危険性を知り、自分と家族を守る責任がある」。防災学術連携体代表幹事の米田氏は会見の最後に、一人一人が異常な暑さや頻発する豪雨に対して緊張感をもって自分でもできる備えの大切さを強調した。
熱波や豪雨といった異常気象が頻発して最近では「極端気象」とも呼ばれる。こうした自然現象は人間の力では止められない。しかし、身を守る行動は可能だ。この夏、個人でできる万全の備えと安全な行動を心がけて命を守りたい。
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