8日午後4時43分ごろ、日向灘を震源とする宮崎県南部で最大震度6弱の地震が発生した。気象庁は同日午後7時15分に南海トラフ地震が発生する可能性が平常時より高まっているとして、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」を出した。臨時情報の制度ができた2017年以来、初の「注意」で、1週間程度継続される。甚大な被害が想定される巨大地震の震源域内の地域だけでなく、「地震大国」日本国内に広く警戒感が広がった。
南海トラフ巨大地震は、東海の駿河湾から九州の日向灘沖にかけて海底に延びる溝状の地形(トラフ)に沿って発生する地震だ。政府の地震調査委員会は「マグニチュード(M)8~9級の地震が30年以内に起きる確率は70~80%」としている。気象庁の「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の平田直委員長は「普段より数倍発生する可能性が高まった」と指摘し、「日ごろからの備えの再確認を」と訴えた。一方で「必ず起きる訳ではない」とも強調した。
政府の地震調査研究推進本部(地震本部)のほか、多くの地震の専門家も「緊急に慌てて何かの行動をすべきということではない」と指摘している。冷静に、しかし緊張感を持って個人の、そして地域、社会全体それぞれのレベルで巨大地震から「命を守る」備えを点検、再確認し、可能な限り徹底したい。
臨時情報調査に該当するM7.1
気象庁によると、8日午後に起きた地震の震源は深さ31キロの日向灘。地震の規模は推定M7.1だった。この地震で負傷者が出て、同庁は高知、愛媛、大分、宮崎、鹿児島の各県に津波注意報を出した。その後、宮崎県で約50センチの津波を観測。高知県や鹿児島県でも観測したが、1月の能登半島地震のような甚大な被害は同日現在確認されていない。同庁は、今後1週間程度は震度6弱程度の地震に注意するよう呼びかけた。
南海トラフ地震に注意と警戒を呼びかける情報発信は、「南海トラフ地震に関連する情報」として2017年11月に運用が始まり、19年に「南海トラフ地震臨時情報」と名称が変わった。この臨時情報は「想定震源域かその周辺でM6.8程度以上の地震」の発生か「想定震源域のプレート境界面で通常とは異なるゆっくり滑りが発生した可能性」が起きた場合に調査に入る。
4月17日深夜に豊後水道を震源とする震度6弱の地震が起きているが、この時のMは6.6で基準より0.2少なく調査に入らなかった。
気象庁は今回の地震のMが「M6.8程度以上」の条件に該当するために地震発生から間もなく評価検討会を招集。2時間弱の審議の結果、後発地震の可能性が高まったと判断した場合に出す「巨大地震警戒」ではないものの、危険度が一定程度想定される「巨大地震注意」と判断した。
「警戒」は発生後の避難では間に合わない恐れがある住民を対象に1週間程度の「事前避難」を求めるが、「注意」はこうした具体的な行動を求めない。
29都府県707市町村に避難準備呼びかけ
総務省消防庁は8日午後、臨時情報「巨大地震注意」の発表を受け、南海トラフ巨大地震の防災対策推進地域に指定されている29都府県707市町村に対して、避難態勢の準備などを住民に呼びかけるよう求める通知を出した。
この通知では「今後1週間程度、平時よりも後発地震の発生する可能性が高まっていることを踏まえ、地域住民に迅速に(情報を)伝えるとともに、避難態勢の準備などの呼びかけをお願いする」としている。
防災対策推進地域は南海トラフ地震が起きた際、震度6弱以上の揺れなどが想定される地域。29都府県とは茨城、千葉、東京、神奈川、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄。
岸田文雄首相もメディア各社の取材に「地震への備えの再確認と(南海トラフ)地震が発生したらすぐに避難できる準備をしてほしい」と述べた。その上で「無用の混乱を避けるためにいわゆる偽情報の拡散などは絶対に行わないようにしてほしい」とも強調している。
消防庁や岸田首相が言及する「避難態勢の準備」のはっきりした定義はない。それだけに今回の臨時情報「注意」は制度開始以来初のケースだけに戸惑いも広がった。
巨大地震の可能性、「普段より数倍高く」
今回の地震について気象庁は南海トラフ地震の想定震源域でM7クラスの地震が起きた「一部割れ」に当たるとみている。一部割れとは想定震源域の一部が破壊されることだ。
「南海トラフ巨大地震が発生する可能性が普段より数倍高くなった」。評価検討会の平田会長は記者会見でこう繰り返した。「普段より数倍」とはどういうことか、具体的なイメージは分かりにくい。
この巨大地震の発生確率は「30年以内に70~80%」。「70~80%」を30で割って「1年以内の確率」を出すのは間違いだ。30年経っても起きない可能性もあるが今日、明日起きるかもしれない。「元々いつ起きても不思議ではない」(平田会長)とも言える。このリスク感覚が「普段」だった。
この状態のリスクが「数倍」高くなった。評価検討会によると、現時点で言えることはこれに尽きる。政府は2012年に最大32万3000人が死亡するとの想定を公表。14年には建物耐震化や津波避難施設の整備などの対策を進めて、想定死者数を8割減らすとの目標を掲げた「防災対策推進基本計画」を策定した。そして「巨大地震に備えを」と事前防災の重要性が叫ばれてきた。
1週間内で起きなくてもいずれ起きることを忘れずに
内閣府や気象庁などによると、M7以上の地震の後に1週間以内にM8級の巨大地震が起きた確率は「数百回に1度程度」だという。今回の臨時情報「巨大地震注意」が出されても1週間以内に大きな揺れが来ない可能性も高い。同庁も「臨時情報の注意が出たからと言って必ず後発地震が起きることを意味しない」と繰り返し強調している。
今後巨大地震が起きないことを願うばかりだが、それを情報の「空振り」と捉えてはいけない。臨時情報のめどとされる1週間で起きなくても「いずれは起きる」(平田会長)。
家具転倒防止や水や最低限の食料など必需品の備蓄、避難経路の確認など個人でできる備えは多い。「避難態勢の準備」とは例えば、すぐ逃げられる状態で就寝するとか、常備薬や絶対に持ち出したい小物を非常用袋に入れておく、スマホの充電器の確認などだ。高齢者や障害者らを抱える家庭や地域は一層注意が必要だ。「注意」段階でも場合によってはあらかじめ安全な場所への移動が必要かもしれない。
いずれの行動も落ち着き、慌てないことが何より大切だ。緊張感を持って身構えながら基本的にはこれまでの行動を続けることだろう。もちろん地域や自治体、そして国(政府)がこの機会に大至急、点検、再確認すべきことは多い。
関連リンク
- 気象庁「令和6年8月8日16時43分頃の日向灘の地震について」
- 総務省消防庁「「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発表について」