にほんブログ村今日は、新川和江の詩を紹介しましょう。
詩作はじめに混沌(どろどろ)があった
それから光がきた
古い書物は世のはじまりをそう記している
光がくるまで
どれほどの闇が必要であったか
混沌は混沌であることのせつなさに
どれほど耐えねばならなかったか
そのようにして詩の第一行が
わたくしの中の混沌にも
射してくる一瞬がある
それからは
風が来た 小鳥がきた
川が流れ出し 銀鱗がはねた
刳(く)り舟がきた ひげ男がきた はだしの女がきた
木が生えてみるまに照葉樹林ができた
犬が走ってきた 驟雨がきた 修行僧がきた
砂糖壺がきた スズメバチがきた オルガンがきた
室内履(スリッパ)がきた 白黒まだらのホルスタインがきた
急行電車がきた…
脈絡もなくやってくるそのものたちを
牧人のように角笛を吹き
時にネコヤナギの枝の鞭をするどく鳴らして
選別し 楡の荷を負わせ
柵の中に追い込んで整列させる 一日の労役
それが済むと
またしても天と地は
けじめもなく闇の中に溶け込み
はじまりの混沌にもどる
だから 光がやってくる最初の日のものがたりは
千度繙(ひもと)いても 詩を書くわたくしに
日々あたらしい
素晴らしい詩である。
聖書の創世記の始めのような書き出しである。
新川さんが詩を書く時、混沌とした中から生まれてくるのだ。
その後、いろいろな人や犬や雨やオルガンが来た…
そして、書き終ると混沌に戻る。
詩は日々、新しい物語としてやって来る。
It's a wonderful poem.
It starts like a bible with Genesis.
When she writes a poem, it is born from chaos.
And various characters come.
And it returns to chaos.
Poetry comes every day as a new story.
'' A Trip to the Islands '' をお聴きください。