9月の終わり、狛江市で講義をする機会がありました。その講義では、普段の研修などで作る原稿とは異なる、統計データを取り入れた資料を作ってみました。
今回の講義は、狛江市社会福祉協議会がおこなう市民向けの講座「福祉カレッジ2024」の中のひとつで、テーマは『生きづらさを抱えた子ども・若者の理解』というものでした。
生きづらさというタイトルを聞いて、この主観的でとても抽象的ともいえるテーマを扱うには、個人的な支援の事例だけではとても説明がしきれないと思い、客観的なデータも用意する必要があると思いました。
また、子ども・若者の生きづらさの問題の根本は「今に至る大人たちが作り上げたこの社会状況にこそあるのではないか?」という視点に立って講義を進めようと、統計データを調べ始めました。
私が今回集めたデータは、日本の自殺者の推移、年代別の自殺率の推移、小中高生の自殺者数、年代別の死亡原因、海外(主要先進国)の自殺率との比較、いじめの認知件数、不登校児童生徒数の推移、そして児童相談所の虐待相談対応の件数などです。
これらのデータが、子ども・若者の生きづらさを裏付けるものとして妥当なものかどうかはもしかしたら異論が出るかもしれません。
主観や思い込みを抜きにして、統計の具体的な数字が、日本社会の現実をそのままあらわす指標になっていると、常々思っていました。
データを他者に掲げるためには、約束事や留意する点がいくつもあることに気づきます。
データの出典元を資料に明記することは必須で、そのデータは信頼性のあるものでないと意味がありません。
そして、統計データを講義で使用する際には、ただデータを見せて紹介するのではなく、統計数字の全体の流れ、変化、ポイントを説明していく必要があります。
そのデータから、どんなことが一体見えてくるのか、どんな歴史や事件、社会状況がつながっているのかを読み解き、客観的事実に基づいて説明できなくてはいけないと感じました。
今回使用したデータで、令和2年(2020年)という年およびその前後が、直近では節目になっていることに気づきました。
また、小中高生の自殺者数の推移を見ていて、その数にはとりわけ目が留まりました。自殺の最も多かった年は、2022年の514人。昨年2023年はほぼ同じ513人です。
小中高生、つまり子どもたちの自殺は年を追うごとに増えているのですが、今から38年前の1986年。この年だけ折れ線グラフの数字がグンと跳ね上がって高くなっていることに気づかされたのです。
1986年といえば、私は中学3年から高校に上がる年でした。この年の2月1日。そして4月8日に、何が起こったか。
私は記憶を辿りながら、これらの日がどれだけ子どもたちに絶望的な決断を誘発させてしまう出来事の日であったのかを、データの数字を見て初めて知ったのでした…
この講義では、子ども・若者と直接は関係のない、全国の交通事故死者数の推移も紹介しました。それまで掲げたデータとは対照的な動きをあらわしている統計です。昨年の国内の交通事故死者は2,678人。自殺者のおよそ8分の1以下になっています。
私たちが作っていく社会によって、統計データの数字は変わる、変えていくことができる。
今を生きる私たちは、どんな社会を作っていきたいのか。自分はどんな社会で暮らしていきたいのか。
その責任は我々大人たちに常に問われているのだと、データを見ながら強く思いました。
カウンセリングサロンぱすてる
行動支援カウンセラー 喜々津博樹