さかもツインは36歳独身女性、その名のとおり双子である。
双子には夢がある。
ネコチャンを飼いたい
という夢だ。
ネコチャンにしか救えない独身女性の荒んだ心があるという。ならばその一筋のネコチャンみんなパワーに余生を注ぎ込みたい、そう強く願った。
【1Kからの脱出】
1Kの狭いアパートの同じ階の別の部屋に丸6年住み各々の小さい城で呑気に暮らしていたが、ネコチャンを飼うなら一緒に暮らすほうがいいだろうという結論になり物件を探し続けた。そしてこの度無事さかもツインが住める物件が決まったのである。
30歳のとき「この家も結婚して出ていくんだ!」と意気込んで入居したはいいが、結婚のけの字も人生にかすらずもうすっかり諦めてしまった。親も2人で住めばまぁ安心だろうという見解である。
できれば彼氏と住みたいものだが、ないものをいつまでもないないほしいと粘るより双子で一緒に住んだほうが気兼ねないし文句も言いやすいし協力できるのでいいだろう。6年経って手に入らないものを諦める覚悟ができた。
物件が決まり、引っ越しの日取りが決まった。
1Kの家に住んだときは実家から引っ越しで家具などは新調したため自分でせっせと荷物を運びあっさり終わった。
今回は6年分の荷物と家具の移動がある。さすがに業者に頼み双子の妹(以下めめ)と同日に引っ越すことにした。
【初めての本格的な引っ越し】
Twitterなどで皆あっさりと「引っ越しました」「引っ越し大変だったけどなんとか終わりました」なんて言うのでまぁなんとかなるでしょうと思っていたけど現実はマジでどうしようもなかった。
というのも、我々さかもツインはオタクなのである。
何かのアニメ、漫画、アイドル、等特定のオタクではなく、収集癖があり物をキャパを考えずドカスカ買い漁るので厳密にはオタクとは言えないかもしれないがここではざっくりとオタクと言わせてほしい。
ねね(姉)は、服、靴、CD、漫画
めめ(妹)は、漫画、服、食品、化粧の収集癖がある。いつも収納からはみ出た服やらその他もろもろ。なぜ物品の管理ができないのか。多分そういう運命なのだろう。あの1Kの部屋に住み続けるのはキャパ的に厳しかったと思う。(こうしてごみ屋敷ができるのでは…と戦慄している)
引っ越し業者は無事終わることを最優先とし選んだ。見積りの人が来て段ボール小が20箱、大が40箱と判断し後日届けてくれた。ここらへんでやっとこの引っ越しのヤバさに気付くのである。結果として段ボールは追加で6箱もらっている。
【荷詰め】
引っ越しの2日前から荷詰めを始めたのだが問題があった。
1Kの部屋に段ボールを積む場所がない、ということである。これはかなり致命的だ。みんなどうしているのだろう。
セミダブルのベッド、ぶら下がり健康器、ソファー、テーブル、本棚、正直これだけでもういっぱいいっぱいの部屋にどう段ボールを詰めろと申すのか?にっちもさっちもいかないねねは怒った。寝る場所だけは確保しておきたい。仕方ないので床に散らかっていた鞄などをどかし、漫画を箱詰めし始めた。
「重い…重すぎる。」
風が語りかけてきた。漫画を詰め込んだ段ボールが重すぎる。この家はエレベーターのない部屋にある。引っ越し作業員さんはこのクソ重い漫画段ボールを手作業で運ばなければならない。
「申し訳ない…」
引っ越し料金を払うとはいえ作業員さんは生身の人間。こんな重い思いをさせてしまうのは申し訳ないと思いつつ漫画を分散させ箱詰めした。漫画、本、雑誌で5箱いってしまった。
…タスケテ…
そう呟いて寝ることにした。敵城(めめ宅)視察に行ったら途方にくれているめめがいたので安心して眠りについた。
【引っ越し前日】
さてと…どうすっかな…と目が覚めた。何もしたくないがするしかない。衣装ケースの肌着やらなんやらをバカスカ詰め込んだ。もうここまでくると諦めている。前日呟いたタスケテはもう発していない。変わりに「助かりたい」と繰り返し呟いた。
午後新居に冷蔵庫が届き新居をチラ見。この家がどうなっていくか楽しみなところではあるが目先の段ボールのことを考えると憂鬱になる。
とりあえず救われる手だてがないことだけはわかる。
必死で段ボールを組み立てては詰め込んでを繰り返した。今地震がきたら死ぬ、そんな積み上げ方をしている。とにかく段ボールを置く場所がないのだ。
【セミダブルベッドが憎い】
30歳、引っ越してきたとき「これで家に彼氏を呼べるぞ~♥️」「彼氏がきたら2人で寝るだろうからシングルじゃ小さいよね、ダブルだと大きすぎるし。よし、セミダブルベッド買っちゃお!」と意気込んで買ったセミダブルベッドはこの引っ越しの際めちゃくちゃ仇となった。
実際セミダブルに寝てみれば
・広すぎていつも端のほうの決まったところで寝ている。
・シーツなどもシングルではかわいいのはあるがセミダブルだとかなり種類が減る。
・彼氏はできない
・できるだろうと思ってもできない
・彼氏ができてもほとんどこない
・幻想はいらない
・部屋が狭くなる
結論:独身女性にセミダブルベッドはいらない
仇がすごい。なんだろう、30歳の私の業が深すぎて36歳の私が「助かりたい」とだけしか呟けない事態になっている。緊急事態宣言ここにありけり。
セミダブル用の高いマットレスが泣いている。いや、それを買った私が泣いている。まだ見ぬ彼氏のためにはたいた金が無になっていると気付いた。気付くのが遅いとも思うが気付いただけマシかもしれない。新たにセミダブルベッドを買おうとしている夢見がちな乙女たちよ、そのセミダブルはいらない、シングルにしておけ。
「シングル狭いから引っ越して2人で住もうよ」
と言って聞き入れてくれない男に脈はない。セミダブルでたまにくるにはまぁ居心地のいい微妙な家は微妙な関係から進まない。進まないから…(ねねは泣きながら必死で語りかけていますよ)
セミダブルの業を身に受けながらなんとか荷詰めを9割終え、敵城(めめ宅)に行くと床にパンツをぶちまけて呆然としながらからくりサーカスをみている城主がいたので安心して寝ることにした。自分よりヤバイやつを見ると安心する性質なのでよく眠れた。そして引っ越し当日を迎えることになる。
続く!