ギターを背負って山に来た男の話 - ここから先は私のペースで失礼いたします

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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

ギターを背負って山に来た男の話

人はなぜ山に登るのか?

そこに山があるから。

 

好きな人は好きだけど、そうでもない人はそうでもない、それが山。

 

ある日激しい衝動がねねを突き動かした。

「サボテンサトシと山に行きたい」

こんなことは普通思わない。普段山に行きたいと思ったこともないのになぜかサボテンサトシを誘ってみた。

サボテンサトシとはギター芸人だ。

サボテンサトシ (@sabotensatoshi)さんをチェックしよう https://twitter.com/sabotensatoshi?s=09

ひょんなことからライブに行きねねは一瞬でファンとなった。サボテンサトシのギターや歌はとても素晴らしい。そして顎が長い。

 

NOと言えない性格なのか、きっと山に興味のない人間だろうに「いいですよ、行きましょう」と言ってくれたので助かった。

 

とりあえずギターとハーモニカを持ってきてほしいとお願いした。

サボテンサトシは「いいですよ、持って行きましよう」と言ってくれたので助かった。

 

 

当日、雨予報だったが明け方に雨は止み、絶好の山日和となった。聞くとサボテンサトシは晴れ男らしい。

 

駅で待ち合わせをしたがねねは遅刻をしてしまった。ごめんなさい。電車に乗っているとラインがきた。
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待ち合わせの駅は山仕様の人しかいない。その中で1人ギターを背負ってるらしい。恥ずかしいだろうに、かわいそうに、と思いながらまだ見ぬサボテンサトシの姿を想像すると笑いが止まらなかった。

 

サボテンサトシを30分程待たせ、駅に着いたときすぐにサボテンサトシの姿を見つけた。

「なんであの人ギター持ってるんだろう?おかしいでしょ!」

と引いてしまった。

持っていると知ってはいたが違和感がすごいのだ。

 

遅れて申し訳ないと伝えると少しだけげっそりした顔で「大丈夫です」と言ってくれた。良かった、いい人だ、いい人なんだけど今日この人はギターを持って山に行くらしい。かわいそうになってしまう。

 

山は観光用に整備されているので途中までリフトで行くことにした。

サボテンサトシと「ギター持ってリフトに乗れるかな?」と不安をぶつけ合った。

結果から言うとギターを持ってリフトに乗れた。これで山頂へのアクセスがだいぶ楽になる。

 

サボテンサトシが使うギターはアコースティックギターのようで平均2~3㎏らしい。実際は測っていないのでわからないがケースやもろもろを含めて+山用の荷物なのでギターがあることは単なる負荷でしかない。
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リフトを降りてこれから登るぞという1枚だが、サボテンサトシの表情がもう死んでいる。ギターが負荷でしかないことを察しているのだ。


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新緑と5月の爽やかな風が山を包む。皆爽やかな顔をして歩いていたがサボテンサトシだけ妙に長いギターケースを背負いうつむいて歩いていた。

励まそうと思った。

ねね「今日は…無理言っちゃってごめんね、サボテンサトシはさ、世界一素晴らしい被写体だと思ってるからたくさん写真撮るね!」

サボテン「ええ、どうぞおもちゃにしてください。僕の正しい扱い方はおもちゃにすることです」

ねね「オブラートにッッ!くるんだの全部剥がしたね!ごめん、おもちゃにして」

サボテン「いいんです、僕はみんなのおもちゃです

 

サボテンサトシはねねの真意に気付いていた。この人はそれでも受け入れてこうして山を歩いているのか…。きっと我々とは違う悟りの道を歩いているのだろう。

 

山頂まで石段が続く。
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正直シティピープルにはキツい。
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本当にキツい。ねねの腰と膝は相当なダメージを追っている。息は完全に上がっている。前を見ると緑のギターケースが見える。

「何で?(ギターを持っているのか!)」

我慢できず聞いてみた。

サボテンサトシは「それは…ねねさんが…ははっ」と鼻で笑った。

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ねねは疲れていた。あまりにも石段が続くのでうんざりしていた。サボテンサトシがよく分からんギターを持っているのにちょっとだけイラッとして「何でっ!?」とさっきよりも強い口調で言った。

サボテンサトシは「ははっ」と鼻で笑うだけになってしまった。

この世に正しさなんてない、と言うような顔だった。

我に返り、悪いな、と思った。

 

 途中の神社でご利益がありそうなくぐり石があった。

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ギターなど背負っていないかのようにスムーズに出てきた。見事に出てきた。出てくるところを他の登山者にまじまじと見られていたのをねねは知っているが言うとかわいそうなので言うのをやめた。
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世界平和を祈っていたが表情は完全に無だった。信仰心はとうの昔に捨ててきたという顔をしている。

 

そしてまた石段を登る。
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サボテンサトシはすごい汗をかいていた。

なぜそんなに汗をかいているのかと聞いたら「そりゃね…」とだけ答えた。かわいそうになってしまった。

 

途中に業の重さを感じる石があった。
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「もう業は背負ってきてます」と言いながら痩せた腕で業を持ち上げた。この時間は完全に人生に必要ない時間だった。サボテンサトシの残基は確実に減っていた。

 

急に木の根を揺すり始めた。怖い。精神と顎の長さがどうかしている。
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大丈夫?
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ハーモニカ、それは運命の出会いだった。
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そしてサボテンサトシとハーモニカは1つになった。

歩く度にハーモニカが顎にかつかつ当たる。自傷行為を始めてしまった。なんだか悲しくなった。吐息で弱々しくピョフォーとハーモニカがなった。ねねはどうすることも出来なかった。

 

見たこともない虫を見つけた。
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「この虫、僕みたいに弱ってます」とサボテンサトシが言う。
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 命は儚いなと思った。サボテンサトシと虫を見てそう思った。かわいそうになってしまった。


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ハーモニカは確実に顎に食い込んでいる。他に方法はなかったのか?

燃え付きそうな命をただ見守ることしかできない我々は無力だ。

 

1時間程の石段地獄を越えて、何とか山頂に着いたとき、サボテンサトシはハーモニカとギターを持っているという奇異の目にさらされ瀕死だった。かわいそうになってしまった。

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瀕死のサボテンサトシは観光地価格の命の水を求めた。
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こうしてサボテンサトシは命の水を手に入れた。
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命の水を飲んでも
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何も言わなくなってしまった。かわいそうになってしまった。

山頂の絶景に思うことはなんだったか、それは誰にもわからない。

 

山頂の奇異の目が痛すぎたので早々に下山する。
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ご婦人のグループに「あら楽器持ってるの?」と声をかけられたのでいよいよギターを出すことにしたサボテンサトシ。
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この覚悟を決めた男の顔をみてほしい。半分死んでいるけども。
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残りの生きている半分のほうのサボテンサトシはギターを弾きはじめた。
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それはとてもいい演奏で見ず知らずのご婦人の足を止めさせ「あなたはいい声してるわね」と拍手を頂いていた。
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ねねが聞いてもやはしいい歌を歌っていると思った。

 

そのあとかわいらしい2人組の女子のために即興で埼玉県の歌を歌った。
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大ウケだった!

調子が出てきたのかネタを始めたサボテンサトシ。
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フリップを持っている!フリップ持ってきてたんか!

悩んでフリップをギターケースに詰め込んだらしい。素晴らしき芸人魂。

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「森に帰れ!」と初対面の女子に5回くらい言われていたが喜んでもらえたようだ。

ねねもこの歌を聞いてめちゃくちゃ笑ってしまった。サボテンサトシの歌はとても良いのである。

新緑の中響き渡るサボテンサトシの歌声と「森に帰れ」コール。世界で1番幸せな時間だったかもしれない。

 

ミニ森ライブのあとサボテンサトシは少しだけ死んでいた。森に還ってしまわないよう心配した。
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見ているとそのうち動き始めたので良かったなーと思った。

 

ただ、そのあとの行動が森寄りとなってしまった。
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ギターを掲げてみたり
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森の精霊感を出してしまったり
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サボテンサトシwith新緑だったり。

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ただ、ものすごくいい顔をしていた、ということは皆さんにも知ってほしい。
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↑ほらね。

 

森に還ってしまう前になんとか人気の多い場所に戻ってきたのでサボテンサトシは消滅せずにすんだ。良かった。
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 「結局人は好きなことしかできないんです」とサボテンサトシは街を見下ろし言った。今日の登山も彼の中で好きなことに入ったかどうかはわからないがやり遂げたその背中はギターケースに隠れて何を語っているかわからなかった。

 

 

悟ったところで下山する。リフトに乗れるかな?

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乗れた!
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降りた!
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笑顔!良かった!

 

こうして3時間程の山は幕を閉じた。お互い命があってよかったと安堵感をにじませた。ねねはとても楽しかった。山でサボテンサトシの歌を聞けてすごくいい気分だった。

また行きたいと思う。

 

※山にギターは危険かもしれない。整備されたコースを歩くなど安全には十分注意して我々は行動したので無事下山できたが山をなめてはいけない。全て自己責任なのでそこら辺はご配慮を。