『南西諸島を自衛隊ミサイル基地化』 : 散歩の変人

『南西諸島を自衛隊ミサイル基地化』

『南西諸島を自衛隊ミサイル基地化』_c0051620_17372270.jpg あまりにろくでもないことを次々にやらかしてくれる自民党・公明党政権、そのあまりの数の多さに私たちの関心が分散されてしまうのが悔しいところです。しかし私たちの命を直接脅かす喫緊の問題がいくつかあります。気候危機、原発の新設・再稼働、そして南西諸島のミサイル基地化でしょう。前二者はここでは触れず、最後の問題について紹介したいと思います。
 あまり報道されませんが、着々と進む南西諸島の自衛隊ミサイル基地化。「中国による脅威に対抗するため仕方ない、日本を守るためだ」と思っている方も多いでしょうが、事はそう単純ではありません。この問題を取り上げた『南西諸島を自衛隊ミサイル基地化』(土岐直彦 かもがわ出版)をぜひとも読んでいただきたく思います。
なぜ南西諸島をミサイル基地化するのか。その本質をぐさりと剔抉した一文を、本書から引用します。

 対中国の新しい米戦略構想が「海洋プレッシャー戦略」だ。米国に対抗する中国の「接近/領域拒否」戦略に対して、米政府に大きな影響力を持つシンクタンク「戦略予算センター」が19年5月に提言した。これまでの対中軍事戦略を修正、描き直した詳細な戦闘構想だ。
 同戦略では、第1列島線(九州・沖縄-台湾-フィリピンなど)に展開する米国と同盟・友好国からなるミサイル部隊=「インサイド部隊」と、第2列島線(本州-グアム-サイパン-パプアニューギニア)に展開する米海軍・空母機動部隊=「アウトサイダー部隊」の2段構えの布陣が特徴である。
 台湾海峡有事の場合、南西諸島配備の自衛隊や米軍が第1列島線沿いに展開、第1列島線を通過しようとする中国艦艇をミサイル攻撃して制海・制空権を確保する。第2列島線の米国アウトサイド部隊は、中国の中距離ミサイルが届かない地点に予め退避し、そこからの攻撃で、インサイド部隊を支援する作戦を描く。
 日本は渡洋攻撃力を持つ中国原潜などが第1列島線外の太平洋に進出するのを恐れ、中国艦船を第1列島線内に封じ込めるのが狙い。その危険な役割を担わされるのが、与那国島、石垣島、宮古島、沖縄本島、奄美大島と弧状に配備強化される自衛隊基地にほかならない。
 南西諸島への自衛隊配備は、日本防衛というより米戦略の一翼を担わされることが明白になった。日米の防衛協力文書でも、南西諸島の部隊が対中国の「初動対処部隊」と位置づけられている。米海軍大学校教授(当時)のトシ・ヨシハラも、自衛隊ミサイル部隊の配備が決して島嶼防衛のためではなく、南西諸島を戦場にして自衛隊と中国海軍を戦わせ、台湾を武力奪取する中国の意図を挫くのが目的とする(12年4月の論文)。
 自民党政権が進めてきた南西シフトは米戦略に応えるものだ。自衛隊などのインサイド部隊は、報復を避けるため車載式ミサイル発射機を南西諸島の島々内で分散、移動、それを狙って来襲する中国のミサイル群の反撃で、島々の住民が甚大な犠牲を被る。
 そうした軍隊の論理は防衛省の内部文書でも示されている。石垣島が侵攻された場合の島嶼奪還の戦い方を分析した「機動展開構想概案」(12年3月)だ。4500人規模の敵が上陸、自衛隊部隊二千人が応戦するシナリオで、敵味方「どちらかの残存率が30%になるまで戦闘を実施」と激しい戦闘を想定。「住民保護」については「自衛隊が主担任ではない」と明記しているのだ。(p.132~4)

 そう、日本や島嶼防衛のためではありません。中国艦船を第1列島線内に封じ込め、米国の覇権を維持するためのミサイル基地化であり、日本、とりわけ沖縄を含む南西諸島の人びとが犠牲になってもやむを得ないということです。いわゆるは副次的被害(コラテラル・ダメージ collateral damage)ですね。ぶっちゃけて言うと、アメリカの覇権を守るためなら、沖縄県民が死んでも構わない。琉球処分、沖縄戦、アメリカの軍事植民地化、辺野古新基地建設の強行、そしてアメリカの覇権を守るための人柱ですか。何度沖縄を苦しめれば気が済むのか、怒髪が天を衝きます。
 なお米中が全面戦争あるいは核戦争を覚悟で相手を攻撃する可能性はきわめて低いと考えます。緊密な経済関係を思えば、あまりにも無謀です。しかし私が恐れているのは、偶発的な開戦です。ヒューマン・エラーあるいはメカニカル・エラーによって戦闘行動が始まってしまうと、莫大な軍事費をかけている以上、そして国民の眼に弱気と映ることを忌避して、互いに後に引くことはできません。おそらく事態は悪い方向にどんどんエスカレートしていくでしょう。そして沖縄県民や日本国民が、副次的犠牲者となっていく…
 私たちがすべきことは、日本人を犠牲にしてアメリカの利益を守ろうとする自公政権を、一刻も早く政権の座からひきずりおろすことです。

 もう一つ。岸田首相が、防衛費GDP比2%を言い始めた背景には、アメリカへの忖度がありそうです。同書から引用します。

 消費税10%になっても社会保障費でなく防衛費に回る、この国の理不尽さ。過剰な、あるいは非合理的な装備が少なくないのに、肝心の国会での論議は低調さが際立つ。
 日本は米国にとって最大の顧客で、売り込みの標的だ。兵器購入も商社を通じた一般輸入ではなく、日米両政府間で取引する「有償軍事援助」(FMS)による調達が多い。最先端の軍事技術流出を防ぐ名目で、維持整備も米側が受け持つために「いいなりの」極めて割高になる。
 FMSによる兵器輸入は安倍政権の時に急激に拡大、高額兵器の購入が続いた。トランプ前大統領の要請に機嫌よく応えたからだ。17~19年度、FMSで調達開始された主な装備を挙げる。1機約140億円(当初は114億円)もする最新鋭ステルス戦闘機F35Aを42機、MVオスプレイ17機、無人偵察機グローバルホーク3機、E2D早期警戒機4機。18年12月の新中期防衛力整備は総額6・7兆円もかかる。FMSでは維持整備が莫大になることが特徴だ。
 また、米海兵隊ですら買わなくなった古い型の水陸両用車「AAV7」の導入を決めた。1両約8億円のものを52両も購入することにした。「日本版海兵隊」水陸機動団用で、米海兵隊仕様を真似たのであった。(p.139~40)

 私たちの命をもっとも脅かしているのは中国でも、北朝鮮でも、コロナ・ウイルスでも、気候危機でも、異常気象でも、原発事故でもありません。自民党・公明党政権です。

 追記です。玉城デニーさん、当選おめでとうございます。1ミリもぶれない県民の思い、しかと受け止めました。

by sabasaba13 | 2022-09-16 06:14 | | Comments(0)
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