高輪編(8):大森貝塚・江戸川乱歩邸(09.10) : 散歩の変人

高輪編(8):大森貝塚・江戸川乱歩邸(09.10)

 十分ほど西行し、JR京浜東北線のガードをくぐると、壁面に大森貝塚の断面図模型が展示されていました。そして車道を左に曲がってすこし歩くと「大森貝塚遺跡庭園」に到着、公衆便所まで縄文土器風なのには笑ってしまいましたが、モースの胸像、そして右手の奥に「大森貝塚」という記念碑がありました。
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 岩波日本史辞典から引用します。
 東京都品川区にある縄文後期中葉~晩期の純鹹貝塚。1877年にE.S.モースが発掘調査を行ない、日本における科学としての考古学の第一歩となった。後期の加曾利B式が主体で若干の安行式と晩期の安行式を含み、打製石斧などの石器,骨角器,晩期の土版、シカ、イノシシなどの動物骨、魚骨、貝類のほか散乱した人骨が出土。この人骨の状況からモースが食人の風習を指摘。モースが大森貝塚の報告書で用いたcord marked potteryの訳から後に縄文土器の名称が生れた。国史跡。
 "cord marked"の訳語をなぜ「縄紋」にしなかったのか、疑問ですね。それはさておき、たしかモースが汽車の車窓から偶然発見したのだと記憶しております。たしか彼の随筆「日本その日その日」にその話があったような気がして、乱雑な本棚をしばし探しましたが見つかりません。そろそろ整理をしないとなあ、と何百回目かの決意をすると天の配剤か偶然E.S.モースの「大森貝塚」(岩波文庫)に出くわしました。ぱらぱらと紐解いていると、チャールズ・ダーウィンがモースに宛てた返信が眼にとまりました。確認はしていませんが、おそらく進化論を唱えたあのダーウィンでしょう。一部を紹介します。
 モース教授の報告書に付随的にしめされていることとして注意すべき事実は、日本の研究者数人が、列島の貝類を大がかりに採集し、先史時代貝塚の調査で教授を熱心に助けた点である。これは、日本における将来の学問の発展を大いに鼓舞する前兆である。(p.158)
 現時におけるわれらの学問が氏の予測と期待に応えているのかどうか、うーん、答えはワンパス。そして大森駅の方へすこし歩いていくと、「土地由来」という解説板があり、このあたりに大津事件で有名な児島惟謙が住んでいたと書いてあります。その先にあるNTTビルの裏手、線路のすぐ脇には「大森貝墟」という記念碑がありました。モースの調査報告書に発掘地点が明記されていなかったため、こちらが本家だという説もあるようです。結着はついていないので、双方ともに国の史跡に指定されているとのことでした。
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 さてそれでは本日最後の目的地、江戸川乱歩邸へと向かいましょう。JR大森駅から京浜東北線の快速に乗って田端まで行き、山手線に乗り換えて池袋で下車。西口から立教大学方面へと歩いていきます。1918(大正7)年に竣工したゴシック・リバイバル様式の本館はいつ見ても素晴らしいですね、その恰幅のよさには惚れ惚れします。壁面を覆う蔦が紅葉する頃にまた来たいな。
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 その前の路地を入ったところに、江戸川乱歩の邸宅が保存されています。公開は金曜日の10時30分~12時、13時~16時のみなので要注意。ただ残念なことに、応接間を垣間見るだけで、邸宅や蔵書を収めた蔵の中に入ることはできません。ま、でも、中学生の時に(たしか)春陽堂文庫で彼の作品を読み漁った私としては、この地に立っているだけでその思い出が走馬灯のように脳裡をかけめぐります。「パノラマ島奇談」、「人間椅子」、「屋根裏の散歩者」、「押絵と旅する男」、「陰獣」、「目羅博士の不思議な犯罪」みんなみんな面白かったなあ。空想と幻想と怪奇の世界にあれだけ惑溺したことは、幸か不幸かその後もうありません。"うつし世はゆめ よるの夢こそまこと" 乱歩の言葉です。そして池袋駅に戻り、帰宅。
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 というわけで、谷中霊園と小笠原伯爵邸はまた後日訪れることにします。とんだいきあたりばったりの散策でしたが、東京の懐の深さにあらためて恐れ入谷の鬼子母神、でした。

 本日の四枚です。
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by sabasaba13 | 2009-11-12 06:09 | 東京 | Comments(0)
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