衆院選は鹿児島県内4選挙区のうち3選挙区で自民公認候補が敗れた。自民の選挙区議席が半数を割ったのは結党以来初めて。選挙戦を振り返り、今後の展開を占う。(2024衆院選かごしま連載「自民3敗」④より)
「森山さんは地元の宝。皆さんの一票は県だけでなく、国や世界をも動かす」-。選挙戦最終日の10月26日、鹿屋市内の街頭で自民党県議が訴えた。
党幹事長として政権の要にある森山裕氏(79)が陣頭に立つ機会はほぼなく組織戦に磨きをかけた。社民新人の山内光典氏(73)を大差で下し、得票割合は72%。「幹事長にふさわしい圧勝」。陣営は胸を張る。
自民にとっては1〜3区を落とす中で唯一の「無風区」だった。半面、各区で見られた投票率の低下は4区が最も著しかった。森山氏の出身地である鹿屋市が県内市町村最低の46.73%。4区全体は50.99%と前回から6ポイント余りも下げた。
派閥裏金事件や最終盤に発覚した非公認候補の政党支部への2000万円支給問題-。深まる政治不信が棄権という「無言の抗議」へと向かわせたようにも映る。
馬毛島での自衛隊基地整備が進む西之表市では、山内氏が42%も獲得する“誤算”もあった。結果に驚く自民系市議は「思ったより工事の恩恵を感じられないと、意趣返しのように山内氏に投票した可能性がある」と分析する。
とはいえ、衆院選を経て森山氏の影響力はさらに増した。東京・永田町の事務所には、首長や省庁幹部らが絶えず訪れる。予算獲得などで全県的に唯一の頼みの綱となるのは確実で、自民3敗の責任を問う声は高まっていない。
ネックといえば県選出国会議員の高齢化だ。森山氏のほか、農相を務めた参院の野村哲郎氏が80歳、参院議長の尾辻秀久氏が84歳。
23、24日に鹿児島入りした森山氏は、1区の宮路拓馬氏(44)と3区の小里泰弘氏(66)の集会でそれぞれ持ち上げた。「宮路さんは総裁になれる。確かな人に確かなバトンを渡したい」「鹿児島を引っ張っていけるのは年齢的に小里さんしかいない」
師と仰ぐ二階堂進氏、山中貞則氏ともに世襲しなかった。森山氏も踏襲する考え。「いつまでも政界にいるわけではない」。タイムリミットは刻一刻と迫る。だが、後継に名乗りを上げる人はいないのが実情だ。
人材掘り起こしに難を抱える点では、野党は一層厳しい。衆院選では立憲民主、共産、社民の各党が1〜4区にすみ分ける形で候補を擁立、他県のような競合はなかった。「出てくれる人が見つからない」。複数の野党関係者はため息交じりに背景を説明する。
既に地方議員のなり手不足は顕在化しており、今回の衆院選は国政にも及ぶ現状を鮮明にした。県内政界でささやかれる「いずれ政治的に冬の時代を迎える」懸念をよそに、永田町では与野党の攻防が激しさを増す。
=おわり=