目に見えないものは信じない‥‥正確には、見たこともないものは信じられない‥‥といった方が適切だろうか。
たとえば、宇宙人やお化けとかの類。霊魂の存在はあると思っているが、実際、その姿を筆者は目撃してはいない。だから、信じようがない。
たとえば、恐竜。いくら化石が発見されようとも、彼らが地球上を闊歩していた姿を誰も見たことがないし、当然、それをとらえた画像などもない。はたして恐竜は本当に存在していたのだろうか‥。すべて人間による“机上の空論”にすぎないのではないか‥。
たとえば、沢村栄治。言わずと知れた伝説の大投手だが、彼は160キロ近い豪速球を、本当に投じていたのだろうか‥‥。スピードを測定する機材もなければ、投球を収めた映像もないから、ハッキリ言って、信ぴょう性に欠けた。もしかすると、実際には130キロ台クラスの直球だったのではないか。
‥そんなふうに、懐疑な目を長年向けていたりもしたのだけれど、その投球映像が奇跡的にみつかって、野球ファンの大注目を集めていたのが、今から2年前だった。
興奮した。もう確認できる術はないと思っていたのに、投げている沢村栄治の姿を、この目で確認できたのだ。西本聖よろしく足を高くあげるスタイルではなかったものの、全身バネといった、躍動感のある投球フォーム。「あるいは」と、期待感を抱かせてくれるものだった。彼は160キロ以上の豪速球を、たしかに投じていたかもしれないーー
なぜだか、最近やたらに沢村栄治が気になって仕方がない。訊けば今年が生誕100年。手榴弾を投げるためにその剛腕が使われていたのが、悔やまれてならない。野球だけに邁進できる生活を送っていたら、彼はどれだけの記録を残していたのだろう。ゆくゆくは監督になって、長嶋茂雄とのタッグだって‥‥夢は無限に拡がってゆく。
沢村栄治が身に着けていた背番号「14」。佐々木健一著【神は背番号に宿る】によると、“じっし”と読む『十死』を連想させる不吉な番号として、一部の球界関係者から扱われていたらしい。死番となる「4」もしかり。「14」の沢村と、「4」の黒沢俊夫。悲劇的な死をむかえた両選手の背番号は、巨人軍ではともに永久欠番扱いとされている。
背番号に宿る、言霊ならぬ『数霊』の存在を書籍で説いた、佐々木氏の思想には、深い感銘を受けた。私自身も、人智を超えた、そういったものの存在は信じている。元々はは番組制作に携わるディレクターらしいが、単なる“データ本”として終わらずに、脈々と受け継がれる背番号の『神々しさ』について綴られる、異色本。
背番号は生き続けていると、欠番がつづく、ホークスで「15」を背負った藤井将雄の章は、往時を知るファンを泣かせてくれる。