超悲しい週だったけど、いよいよ寅子の本領発揮へとつながっていく週でもあった。
よねさんはどこ?
今週のハイライトは直言の遺言(懺悔)の妙かな。
「男は度胸、女は愛嬌?」
男は度胸があってこそ男、女は愛敬があってこそ女だ。
[解説] 男女それぞれにふさわしい資質を、度胸・愛敬と韻を踏んで示したことわざ。
それぞれが単独でも用いられ、「坊主はお経」などと続けることもある。
(コトバンク)
脚本/吉田恵里香
出演/伊藤沙莉 石田ゆり子 岡部たかし 仲野太賀 川上周作 森田望智 三山凌輝
土居志央梨 塚地武雅 他
語り/尾野真千子
週間タイトルにいつも「?」が添えられているのは、「はて?」ということなのだろう。
今回のこれは、それぞれが持つ性質について言っているのだろうということは、3つめの「坊主はお経」で分かる。けれども、男は…女は…っていうのは性差表現だよね。
戦争で多くの人たちが亡くなった。寅子(伊藤沙莉)の家も例外ではない。花江(森田望智)の両親は東京大空襲で。直道(上川周作)は戦死、優三(仲野太賀)は戦病死。
お父さんはお国のために戦ったんだよね、という花江と直道の息子たち。お国のため、って…。
優三のモデルである和田芳夫は、もともと体が弱かったそうで、1度目の徴兵では身体検査に合格しなったようだ。だが再び召集令状が来て、そのときは徴兵されたとか。そんな病弱な人まで兵隊に取るなんて、よほど兵士が足りていなかったのだろうと推測できる。学徒動員もあったしね。
終戦。
貧しい生活を送らなければならない人々。
そんなとき、直明(三山凌輝)が戻ってきて家族は喜ぶ。
大学進学はやめて、家族のために働くという。直言(岡部たかし)、はる(石田ゆり子)はありがたく受けとめるが、寅子は納得がいかない様子。勉強好きで優秀な直明……。
勉強好きな人には勉強させてあげたいものだ。
寅子は、雲野(塚地武雅)法律事務所を尋ねる。が、大変そうな様子なので弁護士として雇ってほしいと言えないまま帰宅。他もあたるが、どこも断られる。
まあ、弁護士だから、自分ではじめればいいじゃんと思うけど、自分ひとりで仕事を取ってくるのは、とくにこの時代だし、女性だし、なかなか厳しいのでしょうね。
さてさて、今週のハイライト。
実は直言は優三の戦病死の告知を半年もの間、隠し通してきていた。直言が胸の痛みに耐えられず倒れてしまったときに、それは発覚する。
日に日に衰弱していく直言。肺炎と栄養失調。覚悟をするように医者から言われる。
亡くなる数日前、直言がしゃっきりと床から起き上がり、話があると家族を呼ぶ。
トラ、質問がある。
直道が亡くなっても、花江ちゃんは猪爪家の人間でいられるんだよな。
―はい。
よかったぁ。
花江ちゃん、きみは猪爪家の家族だ。いつまでもこの家にいていい。でももし、この先に誰かいい人が現れたときには、その人と幸せになりなさい。そのときは、息子たちはもちろん連れてっていいし、置いてってもいい。
これはとても先進的で人道的な思考だ。子どもについて争いになるのを、梅子やその他の例で寅子も視聴者も見てきた。直言は、この時代には珍しい、とてもフラットな人間なんだな。…と、ここまでは良かった……。
寅子 話は終わりましたか?…そうですか。では仕事へ…
花江 終わりなわけがないでしょう。お父さん、今する話、それじゃないです。
花江は、直言のしたこと(優三の死亡告知を半年も隠していたこと)はとんでもなくひどいことだ、と言う。怒っても罵倒してもいい、と。
トラちゃんはきちんと伝えるべきよ。お父さんとは生きてるうちにお別れできるんだから。お願いよ、トラちゃん。
花江という人は、寅子とは正反対の、すなわち「この時代の女性」の見本みたいに生きている(きた)人物だ。けれども、決して弱々しくはない。自分の考えをしっかりと持っている。
花江は直道と最後のお別れはできなかった。そして寅子も。直言は、その大切な知らせを半年も隠していた、言ってみれば嘘をつき続けていた。「お父さんとは生きているうちにお別れができる」というセリフに、そのことへの憤りが滲み出ている。
寅子が憤慨の表情で、直言の前に正座し直す。すると、直言から謝罪の言葉が。
ごめん、優三くんのことすぐに伝えられなくてごめん。
これは正直な気持ちなんだろう。寅子が悲しむ姿を見たくなかったのだろう。
知らせが来て、すぐに隠してしまった。今トラが倒れたらうちは…我が家が駄目になると思って、そう思って言えなかった。時間が経てば経つほど話しづらくなって。トラの仕事が決まったら、と思ってたけど、なかなか決まらないし。
え?え?なんだその言い訳は。
花江が口を挟む。
トラちゃんのせいにするんですか?
いやぁ、ほんとほんと。
おれはこの通り、弱い、愚かな男なんだ。結局いっつもトラに頼りっぱなしで。
ごめん、本当にごめん。
許したくなければ許さなくていい、と言う花江。そして寅子が何か言おうとしたとき、それを遮って直言の奇妙な懺悔ははじまったのだった。
トラが結婚したとき、正直、優三くんかぁ…とは思った。
「え?」と訝しげな顔をする寅子。
おそらく、「優三」つながりでこの話が口をついて出てきてしまったのだろう、と思われる。
もちろん、トラが幸せならそれでいい。でも花岡くんがいいなぁって、思ってた。だよな、はるさん。
直道の後方で、何を言い出すの?といった表情のはるが同意を求められて戸惑う。
え?だよなって…
花岡くんの下宿先を見に行ったこともある。
一同、「え?」と声を出す。寝耳に水とはこのことだな。
下宿先に土産を持って行ったこともある。
はる、さらに呆れた様子。
佐賀に行く知り合いに、花岡くんのご実家を見てきてもらったこともある。
「うそ…」と驚き戸惑う寅子。
直言は、ずいぶん大きなお世話なことを勝手にやっていたのですね、あの頃。
でも、あんなに優三さんが本当の家族になったって、大喜びしてじゃないか。
弟の直明も驚きを隠せない。みんなであんなに喜んでお祝いしたのに。
もちろん、優三くんには感謝してる。優未というかわいいかわいい孫にも会わせてくれた。でも、直道と花江ちゃんとの結婚とは違うというか。だって、寅子の夫は花岡くんと思い込んでたから。これは、トラは確実に幸せを勝ち取ったぞぉ、まわりに自慢できるぞぉ、老後も安泰だなんて、思ったりしちゃったもんだから。
一同、唖然…。だよね。
ごめん、これは話すべきじゃなかった。
ほんとに。これじゃあ、優三さんが浮かばれない。
すると続けて、流暢な告白、いや、暴露話がはじまる。
共亜事件のとき、寅子がしつこくて腹が立ったこともある。
はるさんが怖くて、残業って嘘ついて飲みにいったりしたこともある。
直明が出来すぎる子だから、本当におれの子なのかと疑ったこともある。
花江ちゃんがどんどん強くなって、いやだなぁと思ったこともある。うちの家族は女が強いから、直道とこっそり寿司を食いに行って、ごめん。
寅子が最初に見合いに失敗したとき、嫁に行かないでくれて嬉しく思ってしまって、ごめん。
優未をたかいたか〜いしたとき、鴨居に頭をぶつけてしまったこと、黙っていた。ごめん。
直道が死んだあと、闇市でこっそりひとりで酒を買って、飲んで…
寅子 いったんやめてくれる。まだ続く?
直言 あとすこしだけ
寅子 一生分の懺悔するつもり?
はい、これ、すごい。
優三の死を隠していたことを謝るために、これまで隠していたことを喋ったんだよね。もうすぐ亡くなっていく人がする、家族へ向けての最後の挨拶(遺言)という悲しくしっとりとした場面のはずなのに(ふつうは)、コメディになっている。視聴者を小さな笑いに誘導しつつ、戦中戦後の悲し過ぎる物語から一瞬だけど救ってくれる、お見事なシーン。
さらに続けて、直言は謝る。
こんなお父さんでごめん。ごめんな。
そして、寅子が語る。
何度もごめんって言われても…
でも、お父さんだけだったよ。家族で、女子部に行ってもいいって言ってくれたの。
女学校の先生の前でも、お見合い相手の前でも、誰の前でも、うちのトラはすごいって。どんな私になっても、私をかわいい、かわいいって、いっぱい言ってくれたのは、お父さんだけ。
それは、この先も変わらないから。
そして、すっきりした顔をして眠り込む直言。
その通りだね。直言だけが、寅子の味方だった。直言の豪快さと激しい思い込みがなければ、寅子は弁護士になっていなかったかもしれない。これ、親として大事なことかもしれない、などと私は思ったりする。
直言が亡くなってから、寅子のもとに優三と病室でいっしょだったという帰還兵が訪ねてきた。その人は、寅子が優三のためにつくったお守りを持っていた。そのお守りで自分は病を克服できた、自分がご利益を吸い取ってしまったのではないかと思うと申し訳なくて、と自責の念に駆られている。
そんなことは思わなくいい、と言う寅子に、優三さんはとても優しいいい男でしたと伝える帰還兵。
寅子にお守りを返すことで、この帰還兵の心も少しは救われたのかな。
そんなある日、はるが、優三の死と向き合うようにと寅子にお金を託す。お父さんのカメラを売ったお金。
寅子をかわいいかわいいと言って撮影していたあのカメラだね。
自分のためだけにお金を使ってちょっと贅沢しておいで、と。自分も花江さんも、どうしようもないとき、内緒でおもいっきり贅沢したんだと打ち明ける。
みんな内緒のことがある。直言だけじゃない。
露店で焼き鳥とどぶろくを注文するが、寅子は手を付けずに立ち去ってしまう。そういえば、優三と寅子も、おいしいものを二人でこっそり食べたことがあった。
店のおばさんが追いかけてくる。もったいなから、と新聞紙にくるんだ焼き鳥を手渡して「しっかりするんだよ」と寅子を励ます。こういうおばさんに、本当に励まされることって、ある。世知辛い世の中でも、こういう親切な人は必ずどこかにいるものだ。
戦争ってやだよね、本当にいやだ。大切な人が死んで帰って来ないんだから。誰も国に逆らえない。いやでも戦地に行かされる。
あらためて言いたい。「お国のためって」ってなんなんだ。
焼き鳥のタレの染みのついた新聞紙に、日本国憲法公布の記事があるのをみつける寅子。これは、第1話のはじめの映像だ。そう、このシーンから「虎に翼」は始まったのだった(そこに優三さんの姿はなかったけどね)。
そういえば、第1話で、なんでこの新聞こんない汚れてるんだろう、と思っていたのだが、そういうことだったんだね。
「トラちゃんが、好きなことをすること、後悔せずに自分の人生をやりきってくれることが僕の望みだ」と言った優三の言葉が蘇る。
寅子は、川辺ですっくと立ち上がった。
憲法の条文をノートに書き写す寅子。
寅子は、はる、花江、直明を集めて「家族会議をはじめます」と宣言し、新しい憲法について話す。
新しい憲法が公布されるの。
これから私たちは、みんな平等なの。男も女も、人種も、家柄も、何も関係ないの。素晴らしいことだと思わない?
「第十三条。すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」
「第十四条。全て国民は、法のもとに平等であって、人種、信条、性別、社会的身分、または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない」
ね、すばらしいでしょう!
この最後のセリフ「ね、すばらしいでしょう」、ものすごく生き生きとしていて、力強さが伝わってきた。
寅子の静から動への変化。加えて、伊藤沙莉の演技が marvelous!
「性別も人種も家柄も何も関係ない」寅子の心には、梅子や涼子や香淑、そしてよねの顔が心に浮かんでいることだろう。
みんなどうしているのかな。この仲間たちの物語はどこかで回収されるかな。よねさんは生きてるよね。
私たちはひとりひとり、平等で、尊重されなければいけない。
お母さんの幸せって?
―生活が楽になって、家族みんながおかないっぱい食べられること。
花江は?
―私は…子どもたちが幸せになってくれること。
私の幸せは、私の力で稼ぐこと。自分がずっと学んできた法律の世界で。
「もう一度法律の世界に飛び込んで、人生をやりきりたい」と意欲を示す寅子。
だから直明、あなたは、あなたの幸せのために大学に行きなさい。
―そんなお金どこにあるんだよ。
だから、私が稼ぎます。
「大好きな勉強をしてほしい」と懇願する寅子に向かって、「それでも、僕は猪爪家の男として、この家の大黒柱にならないと」と言う直明。するとその言葉を遮って、
「そんなものならなくていい!」
と、寅子は喝破する。
「大黒柱」を「そんなもの」と言い放ったこの寅子のセリフは、直言の懺悔と並んで、今週のキーワードだと思う。
直明を「そんなもの」に縛らないために、寅子は「自分が稼ぐ」と言ったのだ。そのための「力」すなわち「翼」を寅子は持っているのだから。
新しい憲法の話をしたでしょう。
男も女も平等なの。男だからって、あなたが全部背負わなくていい。
そういう時代は終わったの。
花江 そうよね。これからは、家族みんなが柱になって支えていけばいいわよね。
寅子 その通り、さすが花江、いいこと言う。
そう、花江って、なかなか利発なんだよね。噛み砕く思考力がある。
直明 僕、勉強していいの?
寅子 していいじゃなくて、必死になって勉強しなさい。分かった?
直明 うん。
そういう時代は終わったんだ、ね。
昭和21年11月3日、日本国憲法公布。
昭和22年春、直明、帝大生となる。
よかった!勉強したい人には勉強させてあげたい!
寅子は、司法試験の合格証書を持って、司法省へ向かう。
やったぁ〜、パワフルな寅子が戻ってきてくれた!
「私を裁判官として採用してください!」
第9週の最終話は、最後に主題歌が流れる、という演出。
いよいよここからだね。「虎に翼」第二章がはじまる。