りんのショートストーリー:SSブログ
SSブログ
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seesaaブログに移行しました

SSブログ終了に伴い、seesaaブログに移行しました。

まだ分からないことがいっぱいです。
SSブログのように、nice!機能がないから、読んだ人が足跡を残せません。
お気に入りブログの登録もできないから、リンクを張るしか繋がれないみたい。
そのあたり、ちょっと詳しく調べてみようかなと思っています。

慣れないからいろいろ不便だけど、今までの記事が消えずに残るのはありがたい。
ただ、移行には割と時間がかかります。
今から移行を考えている方は、要らない記事をあらかじめ削除してからの方がいいかも。

何はともあれ、新しい年と共に、私も心機一転、頑張りたいと思います。

新しいブログ
・りんのショートストーリー
https://rikkaohanasi.seesaa.net/

・こころの缶詰
https://rikka1410.seesaa.net/

今後ともよろしくお願いします。



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今年最後の [コメディー]

今年最後の朝が来た。
今年最後のお洗濯、今年最後の朝ごはん。
今年最後の掃除、今年最後のネットショッピング。
今年最後の昼飲み。
今年最後のお昼寝。

あれ、紅白終わってる。えっ、11時50分?
やだ、今年最後の晩酌してない。
今年最後のコンビニも行ってない。

せめて今年最後のインスタ、アップしよう。
ああ、今年最後の充電してない。

まあいっか。
今年できなかったことは、来年やろう。
あっ、カウントダウン終わった。
2025年になった。
よし、今年最初の充電しよう。

****

みなさま、今年も読んで下さってありがとうございます。
来年もよろしくお願いします。
SSブログが3月で終わるので、seesaaブログに移行しようと思ったのですが、うまく開設ができず、来年に持ち越しです。

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もみの木の願い [ファンタジー]

もみの木が目覚めると、そこは暖かい部屋の中でした。
「あれ、ぼく、暗い森にいたはずなのに」
もみの木には、赤や緑のオーナメントが飾られて、ピカピカの電飾が点いていました。
「いつのまに?」

もみの木は、先週まで森にいました。
隣りに立つ兄ちゃんと寄り添いながら、冬の寒さに耐えていました。
それがどうしたことでしょう。
目が覚めたらひとりぼっちです。

にぎやかな歌が聞こえてきました。
ジングルベル、ジングルベルと歌っています。
「七面鳥が焼けたわよ」
「わあい。おいしそう。ママ、ケーキは?」
「ケーキは後よ。スープの野菜を残したら、サンタさんは来ないわよ」
「ねえ、パパ、雪だよ」
「本当だ。ホワイトクリスマスだな」
「雪でもサンタさん、来る?」
「来るさ。寒い国から来るんだ。雪なんかへっちゃらさ」

もみの木は、森が恋しくなりました。
兄ちゃんと、雪を眺めた日のことを思い出しました。
「もうすぐクリスマスだな」
兄ちゃんが言いました。
「クリスマスって何?」
「よくわからない。人間たちはその日にご馳走を食べたり、讃美歌を歌ったりするらしい」
「ふうん」
「あと、サンタクロースに願い事をしたりするらしい」
「ふうん。ぼくもお願いしようかな。ずっと兄ちゃんと一緒にいられますようにって」
「それはどうかな。おまえは、たぶんもうすぐクリスマスツリーになるからな」
「クリスマスツリー?」
「そう。おれはもう、大きくなり過ぎたけど、おまえはちょうどいい大きさだ」
兄ちゃんは、悲しそうに体を揺らしました。
ああ、そうでした。
もみの木はその後、トラックに載せられて、街で売られたのでした。

「そうか。ぼく、クリスマスツリーになったんだね」
暖かくてきれいで明るい部屋。人間たちはとても幸せそう。
ここは森より居心地がいいはずなのに、もみの木はやっぱり、少し寂しいと思いました。
「兄ちゃんに、逢いたいなあ」

深夜、赤い服を着たサンタクロースが、そうっとやってきました。
もみの木の根元にプレゼントを置くと、もみの木に向かってにっこり微笑みました。
「サンタクロースは本当にいたんだ」
もみの木は、兄ちゃんに教えてあげたいなと思いながら、静かに眠りにつきました。

翌日です。
「わあい。サンタさんからプレゼントだ」
子どもがはしゃいでいます。続いてリビングに入って来た母親は、目を丸くしました。
「あらやだ。もみの木が増えているわ。パパ、もみの木がふたつになってるわ」
もみの木は、驚いて隣を見ました。
「兄ちゃん?」
「あれ、俺、森にいたはずなのに?」

そうです。それはサンタクロースからのプレゼントでした。
あの日のもみの木の願いを、サンタクロースが叶えてくれたのです。
クリスマスが終ると、ふたつのもみの木は並んで庭に植えられました。
「これからここで暮らすんだな」
「うん。兄ちゃんが一緒なら、寂しくないや。それに……」
もみの木は、クリスマスの日に窓ガラスに映った自分の姿が、意外と気に入っていました。
だけどそれは、恥ずかしいからヒミツです。

****
もぐらさんが、今年も「クリスマスの小さなお茶会」やってます。
私が書いた「ケーキ屋のクリスマス」を朗読してくれました。
みなさんも、お茶会参加してみませんか。

http://mogura-tearoom.seesaa.net/

幸せな気持ちになります^^




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イブの独り言 [男と女ストーリー]

寒いね。今夜は特に冷えるわ。
おじさん、とりあえず大根とはんぺんとがんもどき。
あとお酒ね。

それにしても空いてるね。
もっともクリスマスに、こんなしょぼい屋台のおでん屋に来る客なんかいないか。
あー、ごめんなさい。しょぼいは言い過ぎ。
でもおじさん。味は日本一よ。あたしが保証する。

えっ? 彼氏とデートしないのかって?
いないよ、彼氏なんか。まあ、去年まではいたけどね。
うん。おしゃれなレストランでディナーしたよ。
プレゼントにハートのネックレスとかもらってたよ。

でも、その人ね、出会った時から奥さんがいたの。
奥さんは病気で、長いこと入院してて、もう治らない病気だったんだ。
彼は言ったの。
奥さんが生きているうちは面倒をみたいから、離婚はできないって。
それでもいいかって言ったの。
私はそれでもいいって答えた。

あっ、牛筋とちくわぶ。あと、たまご。お酒もね。

えーっと、それでね、あたしは彼との不倫を続けたわ。
奥さんに悪いとか、これっぽっちも思わなかった。
だって向こうは入院してて、彼に何もしてあげられないわけじゃない。
だけど不倫はやっぱり世間には理解してもらえない。
だからあたし、早く離婚してくれないかな、って思った。
いつのまにか、奥さんが死ぬのを待ちわびるようになってた。
あたし、奥さん早く死なないかなって思ったの。
それって、すごく怖いことよね。人が死ぬことを望むなんて。

あたし、自分が怖くなった。人間としてダメだと思った。
だから別れたの。
恋愛って恐ろしいわよ。あたし、ドラマでも映画でも、誰かが死ぬシーンで必ず泣くような子どもだったの。
それがこんなに恐ろしい女になるなんてね。

お酒もう一杯。あとコンニャクね。うん。これ食べたら帰るわ。
イルミネーションの街でも眺めながら、ひとりの部屋に帰ります。
えっ? 次は独身の彼氏連れて来いって?
もういいよ。たぶんあたし、一生ひとりよ。
じゃあ、ごちそうさまでした。
あー、温まった。寒い日はおでんに限るわ。

イルミネーションの街は、カップルと家族連ればかり。
流れに逆らって歩いた。
クリスマスにおでん食べましたー。日本酒3杯飲みましたー。
バカみたいに叫びながら歩いてやろうかしら、なんてくだらないことを考えていたら、キラキラの中に、彼を見つけた。
車椅子を押していた。車椅子には、痩せた女性が座っている。

奥さん、生きてる。

彼は奥さんに、優しく微笑みかける。奥さんは嬉しそうに応えている。
よかった。奥さん、生きてた。
どういうわけか涙が出てきた。嬉しいのか悲しいのか分からない涙。
こびりついた心の中の黒いシミが、少し薄くなったような気がする。
通り過ぎたふたりを見送ると、何だか急に人恋しくなった。

「いつものワインバーで飲みなおすかー」
あっ、思わず出ちゃった大きな独り言に、まわりのカップルたちが笑ってた。


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暗闇バイト [コメディー]

『簡単な仕事 一日30万円』

ネットで見つけたバイト。絶対ヤバい。闇バイトだ。
だけど、俺はもう限界。
寝坊癖がたたって仕事をクビになり、冷蔵庫は空っぽ。三日もまともに食ってない。
スマホ代だけはなんとか払ったけど、これが止まったら仕事も探せない。
実家の親からはすでに10万借りていて、これ以上は無理と言われた。
だから応募した。だって仕方ないだろう。

すぐに連絡が来て、翌日待ち合わせ場所に向かうと、黒い車が迎えに来た。
「どうぞ、お乗りください」
スーツ姿の男が、後部座席のドアを開けた。
やけに丁寧な言葉遣いだ。反社には見えない。
いやしかし「地面師たち」のハリソン山中だって、めっちゃ怖いけど話し方は丁寧だった。

車は、廃墟のような倉庫の前で停まった。
「着きました」
「え、ここで、何をするんですか?」
「のちほど分かります。スマートフォンと手荷物をお預かりします」
男は有無を言わさずカバンを奪い、スマホを受け取った。
きっと逃げないようにするためだ。
ヤバい。相当ヤバいことをさせられるんだ。
「さあ、中へ」
男が、倉庫のドアを開けた。中は暗いし、やけに寒い。
犯罪の匂いがする。死体の処理でもさせられるのか?
だとしたら30万では安すぎる。後からもっと報酬がもらえるかもしれない。

恐る恐る中に入ると、突然扉が閉まった。
「えっ、どういうこと? 真っ暗で何も見えないんですけど」
カギがかかる音。噓だろう。電気はどこだ。
ひやりとする壁を探ったけれど、電気のスイッチはない。
下手に動くと危ない。座ろうとしたら何かにぶつかって不気味な笑い声がした。
振り払おうとしたら、ぬるっとしたものに触った。足元で何かが動く気がした。
「へ、ヘビ?」

目が少し慣れてくると、巨大な影が動いているのが微かに見えた。
猛獣? そうだ。猛獣が、俺を見てる。
餌にされるのか? そういうことか?
ああ、わかった。金持ちの道楽か。
きっとどこかにカメラがあって、俺が猛獣に食われるところを笑いながら見ているんだ。さっきの笑い声はそいつらだ。
だとしたら、30万は安すぎる。きっとあの男が100万ぐらいもらうのかな。
ちくしょう、それなら死ぬ前に暴れてやる。
俺は、猛獣めがけて全力で走った。
そして、気を失った。

「大丈夫ですか?」
気づくと、男がのぞき込んでいた。
明るい。開け放した扉から射しこむ光が、なんて明るくて優しい。
「無茶をしますね。もみの木に激突するなんて」
「も、もみの木?」
振り返ると、大きなもみの木があった。
床には、笑い袋、スライムや縄跳び、ツリーの飾りが散らばっている。
「ここは倒産したイベント会社の倉庫です。実験のために借りています」
「実験?」
「健康な20代男性が、暗闇の中で耐えられる時間の実験です。ご協力ありがとうございました」
「そうなの? 闇バイトじゃなかった。じゃあ、30万もらえるの?」
「いえ、1日24時間で30万円ですが、あなたの場合15分でリタイアしたので、3,125円になります」
「それだけ?」
「はい。15分で3,125円ですよ。いいバイトではありませんか」
男は、3,125円が入った封筒と、スマホとカバンを差し出した。

「家まで送りましょう」
「いや、最寄りのハローワークに行って下さい。まともな仕事を探します」
「それがいいでしょう」

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今どきのサンタクロース [ファンタジー]

サンタクロースの元に届いた「就業規制」
働き方改革による、労働時間の制限が書かれていた。

『サンタクロースの労働時間は、12月24日午後10時より、12月25日午前3時までとする。なお、トナカイには1時間おきに休憩を取らせ、ワンオペにならぬよう予備1頭を用意すること』

「なんじゃ、こりゃ。これでは世界中の子どもたちにプレゼントが配れん」
初老のサンタクロースは、協会にクレームの電話を入れた。
「おい、これはいったいどういうことだ」
「申し訳ございません。国が決めたことなので。それよりサンタクロース様、ソリとトナカイのご予約はお済みでしょうか。この時期、大変混み合っております。お早めにどうぞ」
「なに? ソリとトナカイは支給されるんじゃないのか」
「今年から、そちらで手配して頂くことになっております。何ぶん、こちらも人手不足でして。ほら、103万円の壁がございますでしょ。アルバイトが足りないんですよ」
「まったく。なんていう世の中だ」

初老のサンタクロースは、トナカイとソリを探しに出たが、どこも予約でいっぱいだった。どうやらみんな、インターネットで予約をしたらしい。
ガッカリしたサンタクロースは、知り合いの若いサンタクロースを訪ねた。
「わしはもう引退だ。あとは任せた。プレゼントを配りながら、一晩中飛び回っていたころが懐かしい」
「そう言わずに、もう少し頑張りましょうよ」
「しかし、トナカイもソリもない。お手上げだ」
「トナカイも不足しているみたいですからね。しかし、何か方法があるはずです。引退なんかしないで下さいよ」
若いサンタクロースは、腕組みをして考えた。

「そうだ。プレゼントを配るんじゃなくて、取りに来てもらったらどうですか? ポストに引換券を入れるんですよ。そして翌日、子どもたちがここにプレゼントを取りに来るんですよ」
「配らなくていいのか?」
「はい。ポストに引換券を入れるのは、僕たち若手が手分けしてやります。あなたは翌日、子どもたちにプレゼントを渡してあげて下さい」
「正体ばれちゃうよ?」
「はれてもいいですよ。だって僕たち、本物のサンタクロースじゃないですか。直接手渡しだなんて、子どもたち、絶対喜びますよ」
「そうかな」

そんなわけで、若いサンタクロースたちは子どもの家のポストにプレゼントの引換券を入れて回った。もちろん規則を守り、きっかり5時間で終わらせた。
そして翌日、休憩をきちんと取った元気なトナカイが子どもたちを迎えに行った。
たくさんの子どもたちが、サンタクロースの家に集まった。
「さあさあ、順番だよ。並んでおくれ」
初老のサンタクロースは子どもたちに大人気。
何しろ若いサンタとは、貫禄が違う。
一緒に写真を撮ったり握手をしたり、まるでアイドルみたい。
今年のクリスマスの朝は、とても楽しいイベントになった。

「お疲れさまでした。きっかり5時間で配り終わりましたね。これなら来年も続けられそうですね」
「まったくだ。ありがとう。君たち若手のおかげだよ。どうだね、一杯飲みに行かないか?」
「あっ、そういうのは結構です」
「いいじゃないか。わしの奢りだ」
「いえ、仕事とプライベートは分けたいんで」

サンタクロースの世界でも、飲みニケーションはむずかしい。


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木枯らしの休憩 [ファンタジー]

「こんにちは」
「はい、どなたかしら?」
「私、木枯らし1号です」
「あら、木枯らし1号さん。さっきから窓ガラスがガタガタ揺れてるのは、あなたの仕業だったのね」
「面目ない。これでも極力抑えているんです」
「それで、何の御用かしら」
「あの、ほんの少しでいいので、休憩させてもらえませんか。ほら、今年は寒くなったと思ったらまた暑くなって、気温が安定しないじゃないですか」
「本当にそうね」
「ですから指令がなかなか出ないんですよ。ただ待っているのも疲れるものです。ですから少し、こちらで休憩させていただけませんか」
「いいけど、家の中で暴れたりしない?」
「しませんよ。私、外で猛威を振るう分、家の中ではおとなしいものです」
「ふふ、うちの夫と同じね。うちの人も、外では威張ってるけど、家では借りて来た猫みたいにおとなしいの」
「ほお、ご主人はどちらに?」
「今は出張中よ。春にならないと帰らないわ」
「それはお寂しいですな」
「もう慣れっこよ。さあ、上がって」
「おじゃまします」
「お汁粉食べる? 温かいものは苦手かしら?」
「とんでもない。大好きです」

「美味しいなー。私、外ではすごい勢いで飛び回るから、とにかく腹が減るんです」
「大変なお仕事ね」
「早く終わらせて山に帰りたいんですけどね、今年の気温、何なんでしょうね」
「そうね」
「きっと上がダメなんですよ」
「上?」
「上層部のやつらです。春夏秋冬、それぞれに大将がいるんですけどね、このところ、春と秋が弱くていけません」
「いろいろ大変なのね」
「ええ、いつもとばっちりを受けるのは、私たち下っ端ですよ」
「でもあなた、木枯らし1号なんでしょう。すごい出世じゃないの」
「まあ、木枯らし界では、かなり優遇されてます。でもねえ、春一番に比べたら、やや格下ですね。何しろ向こうは、今から暖かくなる風だけど、こっちはこれから寒ーい冬ですからね。人間的には春一番の方が上でしょう」
「そうかしらね」

「あっ、やっと指令がきました。いますぐ近畿地方に飛べとのことです」
「よかったわね。行ってらっしゃい」
「はい、ごちそうさまでした。では、すごい風吹かせてきます」
「さようなら。頑張って」

**
「ふう、あなた、もう出てきていいわよ」
「木枯らし1号、行った?」
「行ったわ。あなたもそろそろ雪山に行ってちょうだいよ」
「でも、寒いし」
「しょっちゅう帰って来られたら困るのよ」
「山にコンビニないし、温かいごはんもないんだもん」
「何言ってるの。あなた冬将軍でしょう。冬将軍がさぼっているから温暖化だなんて言われたらどうするつもり? さっさと仕事しろ!」
「わかったよ。行くよ」
「春まで帰って来るんじゃないわよ」
「はーい」

そんなわけで、ようやく本格的な冬が来そうです。
みなさん、お気をつけて。

*****

SSブログが3月でサービス終了だって。
えらいこっちゃ。ブログって、もうオワコンなの?
他に移行することが出来るらしいけど、とりあえずこのブログの記事を本にして残そうかな、と考えています。
参ったなあ、ホントに。

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スマホを忘れただけなのに [コメディー]

(実花)
「着いたよ」
家の前で車を止めて、正人が言う。
前はわざと遠回りして送ってくれたのに、今じゃサイドブレーキも引かないで「早く降りろ」って言わんばかり。
「じゃあね」
さっさと降りて家に入る。あーあ、もう潮時かな。
長く付き合いすぎて、ときめきもないわ。

(正人)
「じゃあね」
実花のやつ、さっさと家に入るもんな。
前は車が見えなくなるまで見送っていたのに。テールランプで「アイシテル」なんて、大昔の話だ。
恋愛なんてそんなものか。
あれ、スマホが落ちてる。実花のやつ、忘れて行ったな。
仕方ない。引き返して届けよう。

「こんばんはー」
「あらあ、正人君。いらっしゃい」
「あっ、お母さん、どうも。えっと、実花がスマホを忘れたので」
「あらそう。さあ、上がってちょうだい」
「いえ、届けに来ただけなんで」
「いいから上がって。実花ね、お風呂に入ってるの」
「風呂? もう?」
「いつも帰ったらすぐ入るのよ」
「はあ」
「あれ、正人君じゃないか。上がりなさい。一杯やろう」
「いや、車なので」
「置いていきなさいよ。ほら、早く上がって」
参ったなあ。実花はそっけないのに、両親はグイグイ来るな。

(実花)
あー、さっぱりした。
正人マジで煙草やめてくれないかな。髪の毛に付くんだよ、匂いが。
次に付き合う人は、煙草吸わない人にしよう。
なんちゃって、まだ別れるかどうか分からないけどね。
長く付き合うと情が湧くしね。でも、このままズルズルいくのもよくないかな。
あれ、リビングが騒がしい。お客さんかな。やだな、スッピンなのに。

「実花、早くこっちに来なさい」
「げっ、正人? 何してんの?」
「あんたが忘れたスマホを届けてくれたのよ」
「なんで酒飲んでるの?車は?」
「置いて行けばいいのよ。ほら、あんたも飲みなさい。ほら、正人君のグラスが空よ」
「えー、どういう状況?」
「泊まって行けばいいじゃないか。正人君は、いずれ婿になるんだ」
「婿って言ってもねえ、正人君、婿に入れってことじゃないのよ。でもね、実花は一人娘だから、出来れば近くに住んで欲しいわ。ねえ、お父さん」
「ちょっと、勝手に決めないでよ。私たちはまだ……」
「いいから実花、正人君にビール注いであげなさい」
何だか変な展開。正人、全然しゃべらないし。

「ちょっと正人、何とか言ってよ」
「うん。実花のスッピン、久々に見た」
「はあ?」
「やっぱ、そっちの方が可愛いな」
はあ? なんだ、なんだ? 久しぶりにときめいたぞ。

「なあ、いっそ結婚式の日取り決めちゃおうか」
「そうね、お父さん。来年のカレンダー、持ってくるわ」
あれー、ヤバい。勝手に話が進んでいるのに、嫌じゃないかも。
スマホを忘れただけなのに、私たぶん、結婚するわ。


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衣替えの季節 [男と女ストーリー]

柊子が大きなスーツケースを持って家に来た。
「冬物を取りに来たわ。なんかさあ、急に寒くなったよね」
柊子はスーツケースからTシャツや、夏物のワンピースを出してクローゼットに仕舞い、代わりにセーターやコートを取り出した。
「いや、ちょっと待って。どうして夏物置いていくの?」
「えっ、だってさすがに着ないでしょう。もう11月だよ」
「そうじゃなくて、僕たち離婚したよね。ここはもう、君の家じゃないよ」
「わかってるよ、そんなこと。だけどしょうがないじゃない。私の家は狭いのよ。3LDKに4人で暮らしているの。私の部屋なんか、たったの6畳よ。服を仕舞うところなんかないのよ」
「いや、でも」
柊子が離婚届を置いて出て行ったのは2か月前だ。
「とにかく別れたい」の一点張りで、よくわからないまま別れた。
何がいけなかったのか、いまだにわからない。

「そうだ、ブーツも持って行こう」
柊子はそう言って、シューズボックスを開けてサンダルとブーツを入れ替えた。
「僕の家は物置じゃない。トランクルームでも借りればいいだろう」
「いやよ。面倒だし、お金もかかるわ。いいじゃないの。荷物くらい置かせてよ。あなたは余計な物を持たないミニマリストだし、2LDKをひとりで使えるんだから」

柊子は衣替えをすっかり終えると、冷蔵庫からビールを取り出して飲んだ。
もちろん、僕のビールだ。
彼女はふうっと息を吐きながら、ベランダで揺れる洗濯物を見た。
「相変わらず、きちんと暮らしているのね。ミニマリストさんは」
「うん、まあ」
「無駄なものがひとつもないわ。この部屋も、冷蔵庫の中も、皺をきちんと伸ばした洗濯物も、すべて完璧」
「そういう性格なんだ」
「私の家は、無駄な物ばかり。玄関には、下駄箱に入りきらない靴が散乱してるし、誰かにもらったお面とか置物、季節関係なく飾られたタペストリーとかね」
「うん」
「リビングもごちゃごちゃしてる。統一性のない家具や食器や、カレンダーにぬいぐるみ。あなた、うちに来たとき、居心地悪かったでしょう?」
「いや、まあ、確かに、ごちゃごちゃしてるなあ、とは思った」
「でしょ。私もそう思ってた。あなたと結婚して、きれいな部屋に住んで最高に快適だったわ。だけどね、それは最初だけ。ごちゃごちゃが、恋しくなったんだよね」
「えっ、それが離婚の理由? だから別れたの?」
「だって、実家に帰るとホッとするなんて、一緒にいる意味ないでしょう」
「でも、だったらお互いに話し合って、妥協できるところは妥協して、上手くやれたんじゃないかな。今からだって……」
「無理だよ。あなたは自分を変えられない。そして私も」

柊子は、パンパンになったスーツケースを引きずって部屋を出た。
「私の物、無駄だと思ったら捨てていいから」
「捨てないよ。無駄だなんて、思うわけないだろう」
「そうか。じゃあ、また来るわ。春になったらね」

柊子は出て行った。
ピカピカに磨いたシンクに、ビールの空き缶が転がっていた。
すぐにでも捨てたい、ただのゴミなのに、不思議だ。
すごく愛おしい。


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リタのハロウィン [ファンタジー]

リタは、魔女の娘。魔女の国でひっそり暮らしている。
魔女年齢で185歳。人間で言えば、16歳くらいかしら。

ある日、友達のライザが行方不明になった。どうやら、人間界に行ったみたい。
「お願いリタ。人間界に行って、ライザを連れ戻しておくれ」
ライザのママは心配で、夜も眠れないみたい。
「どうして人間界になんか行ったの?」
「怖いもの見たさだろう。好奇心旺盛な子だからね。最近の若い子は、人間の怖さを知らないのさ。魔女狩りを知らない世代だからね」
「魔女狩り? やだ、ライザったら、人間に捕まっちゃったのかしら」

リタは、人間界に飛んだ。最新のほうきは、時空も超える。
人間界に着いたのは、10月31日。
「いけない。衣装を変えなきゃ」と思ったけれど、周りを見ると魔女だらけ。
「あれ、どういうこと? ここ、人間界じゃないの?」
リタが戸惑っていると、その中のひとりが話しかけて来た。
「こんにちは。あなたの衣装、本格的ね。その杖ステキ。どこで買ったの?」
「えっ、これは、マジ―の木の枝で作ったのよ」
「へえ、手作りか。いいわね」
「あなたの杖はどうしてそんなにキラキラなの? もしかして、すごい威力があるの?」
「やだ、百均だよ。ねえ、それより、パレード出るでしょ」
「パレード?」
「ハロウィンパレード。一緒に歩こうよ」
「いや、わたし、この子を探してて」
リタは魔法でこっそり出した写真を見せた。
「ああ、この子知ってる。さっきゾンビと一緒にいたよ」
「ゾンビ?」
「ほら、あそこ」
見ると、ライザが恐ろしいゾンビやドラキュラやガイコツに囲まれている。
助けなきゃ。

「ライザ」
「あら、リタも来たの?」
「ライザ、ここはどこなの? 人間界じゃないわよね」
「人間界だよ。あのね、今日はハロウィンだから、みんな仮装しているの。本物じゃないのよ。みーんな人間。すごいでしょ」
「えっ、怖くないの? おばさん心配してたよ。魔女狩りに遭ったんじゃないかって」
「ははは、いつの話? 今はね、何でもアリなのよ。例えば、見て」
ライザが杖を振って、お菓子を出した。魔女ってバレちゃう~って思ったけど、ぜんぜん大丈夫。
「やった。すごーい。もう一回やって」
「おねえさん、マジック上手だね」
そう言って群がる子ども達。「はらね」とライザがウインクした。

「魔法なんて誰も信じない。だってね、魔法がなくても何でもできるの」
ビルに浮かび上がった映像。空を飛ぶたくさんの虫みたいな機械。
星が降りて来たように輝く街の木々。
「ね、楽しいでしょ」
リタも楽しくなってきて、ノリノリでライザと一緒に仮装パレードに参加した。
そして、優勝した。

**

「ただいま~」
「おかえり。リタ、ライザを連れ帰ってくれて本当にありがとう」
ライザが無事に帰ったことで、魔女の村はお祭り騒ぎ。
「何かさあ、しょぼくない? うちらの祭り」
「ご馳走だけは魔法で出せるけど、ちょっと地味だね」
「来年また行こうよ。人間界のハロウィン」
「そうね、それまではこれで我慢しよう」
リタとライザは、仮装パレードの優勝賞品である「VR」を装着した。
「人間ってさ、本当にすごいもん作るよね~」
「魔法より面白いわ」



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