速攻の予約から待って発売日前日に手にしました。6月発売の「カタリベ」はアレンジに凝った林部智史の世界。今回は歌い継ぐ「カタリベ」に徹したような、感情を抑えた語りかけるような叙情歌シリーズ風の歌い方。高音はもちろんながら、中低音の響きも美しい。ピアノの音の余韻に浸るように、声の余韻を耳が追いかける。目を閉じて聴き入れば映画のシーンのように情景が浮かび上がる。
コンサートの感動もいいけれど、マイクのエコーなしで、繊細な楽器とも思える歌声と演奏をゆっくり何度も繰り返し聴けるCDが嬉しい。今回も華麗なストリングスにフルート、オーボエも入り演奏者を思わず検索したくなる。
期待が一番大きかった「アドロ」は重さ(陰鬱さ)を声の透明感で打ち消しつぶやくような囁き、滑らかにスペイン語の歌詞が切々と歌い上げられギターが哀愁を誘う。武田圭司さんのバイオリンで始まる絶品の「愛のくらし」「どうぞこのまま」では細いフルートの音色が声と絡み合う。マンドリンの切ない音色とストリングスが重なり、しなやかで柔らかく包み込むような「つぐない」フルコーラスで聴きたいと願っていた「難破船」しっとりとした選曲の中で軽快さが光る意外性のあった阿木燿子さん作詞の「よろしかったら」は難しいメロディーラインを声さえ踊るように歌われている。原曲のイメージを良い意味で変えてくれた「忍冬」未練を語っている「合鍵」にしても別れた相手をいつまでも思い続ける哀れを誘う主人公を優しい声が歌う(語る)ことで救っているようにも感じる。
演歌がバラードになり、彼に歌えないジャンルはないのではないかと思わせられる。ではあの歌をこの声が歌うとどうなるんだろう、コンサートで歌い上げた「ある愛の詩」を聴けば洋楽もCDに入れて欲しい等、どこまでも聴き手の夢をかき立てる。イントロも音も原曲をできるだけ再現していても、コピーではなく林部智史の歌。また、今回の選曲にご本人は関わらず信頼のおける方に任せていたとのこと。この先もカバーアルバムなら1年間に何枚も出せる自信をお持ちではないだろうか。
テレビ番組で歌っている歌もこの中にいくつかあるが、歌い方が異なっていて。一つの歌を歌うにあたって、幾通りも試しこのCDが仕上げられているのかと考えると、美声に恵まれた以上に、歌唱に妥協をしない努力のできる才能を持った稀有な歌い手だと思えます。