私の愛したローマ世界がとうとう姿を消してしまった。
中巻で西ローマ帝国自体は死を迎えた。その後、属州は蛮族に支配される。イタリア半島までもが東ゴートに統治される。だが、意外にも「パクス・バルバリカ」が訪れていた。ローマ人と共生していたのだ。
しかし、それを破壊したのは大帝と呼ばれる「ユスチニアヌス東ローマ皇帝=写真左」その人である。「ローマ法大全」「ローマ帝国の領土回復」などで評価されるが、実態はどうだろうか。両戦役を仕切ったのは将軍ベリサリウス=写真右。有能で人望もある。だが、皇帝は…。
この戦役でイタリア半島は疲弊する。最終的に東ローマは東ゴートを駆逐するのだが実質、帝国の本国・本都の息の根を止めたのは同胞東ローマだ。なんと悲しいことか。そして十数年後に新たな蛮族が征服する。568年のこと。
613年、ムハンマドがイスラム布教をを開始し、7世紀のうちに東ローマ帝国領の多くはイスラム化。地中海はここで、ローマ帝国の内海ではなく異なる文明と宗教を隔てる海と変貌する。ここでローマ世界は完全に終焉を迎えることとなる。
東ローマ帝国はもはやオリエントの国家ビザンチン帝国でしかなく、15世紀まで続いたとはいえ私たちの憧憬する古代のローマ帝国ではない。壮大な世界帝国は消えたのだ。
著者の塩野七生さんの使う「盛者必衰」と言う言葉に涙を禁じえなかった。一つの国をまるで一人の死として看取ったような気さえする。
数年かけて読み続けた。全巻を読み終え、何度もその壮大さに息をのまれた。寂しくてたまらない。
これはまた、シリーズ最初からページをめくる以外の選択肢はなさそうだ。
ローマ通貨のコイン一覧=写真が見もの。国の力、勢い、能力までうかがえる。