家庭を持ちながら、とっかえひっかえ(?)他所の女に手を出す一人の『だらしない男』に振り回された人々、それぞれの視点で描かれる連作長編です。
読み始めた当初、その当人は全く現れずにして周りの人からの印象描写のみで『彼』像をあぶり出していくのかと思いきや、案外あっさりと当人が登場して拍子抜けしました。
つまり、作者にとって、件の『彼』を描写することはさほど重要ではなかったということなんでしょう。
犯人捜しの謎ときミステリーではないから、『彼』の本当の姿なんてどうでも良い。
真の家族の姿とは?的な教条ものでもない。
私には、トリッキーな外敵と相対した時に、どのようにして何を守るのかにフォーカスされているように感じました。守るべきものは、それぞれ家族であったり、夫婦という制度上の枠であったり、自分の心であったり、自尊心であったり。
著者の細やかで巧みな心理描写が存分に発揮された佳作だと思います。