「お~いし~い!」海鮮漬丼を口にした母が今にもひっくり返りそうな声で叫んだ。父が亡くなって約1年、毎日毎日泣いてばかりいた彼女が、ずっと忘れていた食べる喜びを取り戻した記念すべき瞬間だった。と同時に、おいしいものを食べると人は笑顔になるという、ささやかだけれど当たり前のことに私が気づいた瞬間でもあった。お味がほどよくしみたカニ、いくら、ほたて、ホッキ貝……ひとつひとつを噛みしめるように食べる母は本当にうれしそうで、こちらまでうれしくなった。母のおいしい笑顔をまた見たい。だからまた……いやまたなんてケチ臭いことは言わず何度でも注文させていただこうと思う。