『メタファー:リファンタジオ』レビュー システムは保守的ながらも「幻想」に託したメッセージが光る、アトラスの集大成

『メタファー:リファンタジオ』レビュー

 2024年10月11日にアトラスより全世界で同時発売された『メタファー:リファンタジオ(以下、メタファー)』は、2016年より同社の社内プロダクションスタジオ「スタジオ・ゼロ」で開発されていた『PROJECT Re FANTASY』が正式発表されたもの。ディレクターには『真・女神転生III-NOCTURNE』や「ペルソナ」シリーズなどを手がけた橋野桂氏、キャラクターデザイナー・副島成記氏、コンポーザー・目黒将司氏と『ペルソナ3』~『ペルソナ5』までのメインクリエイターが参加を発表。

 “「ペルソナ」でも「メガテン(真・女神転生)」でもない”というコンセプトを掲げたファンタジーRPGとして、大きな期待を背負ったタイトルとなっていた。今回8年越しにリリースされた本作を、先の2シリーズをはじめとするアトラスのタイトルは派生も含め“ほとんど”プレイしているファンの筆者が、過去のアトラスRPGとの比較も含めて触れていきたい。中盤以降の詳細なシナリオ内容には言及しないが、ストーリー構成などには言及するため、何も情報を入れずにプレイしたいという読者は注意してほしい。

アトラスが贈るファンタジー選挙RPG

 まずは『メタファー』の概要を軽く紹介したい。舞台は「ユークロニア連合王国」と呼ばれる3つの国家から形成された連合国で、現実とは異なり魔法が存在し「ニンゲン」と呼ばれる怪物が跋扈する幻想世界だ。ユークロニア王家をはじめ国家の要職に食い込む者も多く王国の最大人口である角が生えた「クレマール族」、身体能力に優れ軍人を多く輩出する長く尖った耳が特徴の「ルサント族」、人口自体は多いものの享楽的で短慮な性質から社会的地位の低い獣のような耳と尾を持つ「パリパス族」など8つの異なる種族が暮らしており、種族差別が激しい過酷な世界である。

『メタファー:リファンタジオ』ロンチトレーラー

 そのような状況下で国王が殺害される事件が発生し、次代の王の選出が火急となるが、ユークロニア連合国は十数年前にも王子の暗殺を狙った事件が起きた過去を持つ。次期王位を有力視されているのは国教である惺教の最高権威者・フォーデンと、実力主義の王国軍将校・ルイだが、後継者を誰にするかで国はますます荒れた様相。

 そして国葬の日、王が生前に仕組んでいた「王の魔法」が行使され、「最も多くの国民から支持を集めた者を次の王とする」という効果が発動。世界初の選挙が開始され、国民全員参加の王位争奪戦が幕をあけた。実は“暗殺された”と言われる王子は襲撃から生き延びていたが、その際にかけられた死の呪いに身体を蝕まれつつあり、主人公とパートナーの妖精・ガリカは国王暗殺および王子暗殺未遂の実行犯であるルイを打倒して、王子を呪いから解放するべく動き出すというのがあらすじだ。

ファンタジーだからこそ描けた現代社会のカリカチュア

 まず本作をプレイして感じたのは、これまでアトラスがリリースしてきたRPGの集大成、いわば軸である「ペルソナ」に「メガテン」で肉付けし、「世界樹の迷宮」や「アバタールチューナー」などで味付けしたという感触だった。ストーリーや世界観は、メガテンから引用されたロウ・カオスの構造がベースだと思われ、宗教関係者の地位が脅かされない現状の世界の維持を目指す惺教(ロウ)と、差別がはびこり腐敗した世界すべてを壊そうとするルイ一派(カオス)の対立を軸にした選挙モノだが、筆者としてはアトラスの新作RPGが「選挙」を扱うことは納得である。

 もともと「メガテン」におけるロウ/ニュートラル/カオスに代表されるルート選択は、物語の分岐というよりもプレイヤーが作中唯一の選挙権を持つ選挙だと考えていたからだ。最新作『真・女神転生V』でも一神教による管理社会と神の秩序の維持を目的とするロウと、多神教による弱肉強食の競争社会を目指すカオス。各陣営があまりに極端なそれぞれ作りたい世界の公約を主人公に語りかけ、それに対してプレイヤーが正解がないなかどれが“マシ”なのかを考えて世界の創世をおこなってきた。その思想と理念のぶつかり合いの延長戦上に『メタファー』は存在し、シナリオの描かれ方についてもアトラスの集大成だと感じられた。

 初めて「選挙」という概念が誕生した世界を扱い「誰でも世界の趨勢について考えてもよい」と構造をかみ砕いて提供しているのと同時に、ルイを追うなかで出会うパーティーメンバーとの旅というロードムービー要素を取り入れている。先述した8種族に含まれず「禁じられた魔法を使う穢れた種族」として忌み嫌われていた主人公が、仲間とともに自らの過去と向き合いながら徐々に名を上げていく王道ビルドゥングスロマン要素が、平坦で難しいという印象を与えがちな政治劇に起伏を生み出し、キャッチーなストーリーという味わいになっていた。

 ゲーム冒頭に「作品内での表現は現実の政治、宗教、差別などに関して助長を促すものでは一切ありません。実在の事物との類似点が見受けられた場合も、意図したものではなくすべて偶発的事象に他なりません」と注意書きがあるため、アトラスの政治観・宗教観については深掘りしないでおくが、本作が何に対するメタファー=暗喩かというと、言うまでなく我々の生きる現実社会の分断だ。スタッフの過去作の『ペルソナ4』『キャサリン・フルボディ』では個人のセクシュアリティに対する雑な描写、『ペルソナ5』においては勧善懲悪では立ちいかない現代社会の問題を扱いつつ、怪盗団が正義という構造に落とし込まれた結果の歪んだ大衆のあり方が描かれ、辟易したプレイヤーも少なくないだろう。

 そうした現代劇を指向しながらオールドスタイル、ある種の素朴すぎる感性が目立っていたため、はっきり言って本作の主題である「選挙」について描き切れるのかと懸念していた側面もあった。だが、本作はファンタジーというメタファーで一枚壁をへだてながら、差別を受けているパリパス族がさらに忌み嫌われているエルダ族に攻撃的、いわゆる弱者がより社会的地位の低い側に対して高圧的な様子などのリアルな構造を持ち込んでいる。その結果、過去作よりも俯瞰かつモダンでありながら現実を思わせる描写で地に足のついた説得力が担保されていた。

 ただし、主人公がすべての種族を仲間にする意図は、幻想小説に描かれた種族差別の存在しない理想社会の体現として腹落ちしたが、それであれば主人公およびプレイヤーが体験する視点も公平であるべきだったと考える。王子の呪いを解くためにルイの傘下として潜入するという展開なので、プレイ視点がカオス側に偏りすぎていた。その結果、ルイ側の人物にはある程度同情できる余地がある一方、惺教は異教徒と社会的弱者を徹底的に排除し汚職と陰謀にまみれた腐敗構造そのもので、「これはルイも世界を壊したくなるだろう」と感じてしまうため、本作の世界で信仰され浸透しているという実感が持ちにくかった。バトリンやレラといったサブキャラとして惺教側にもある程度話がわかる人がいたように、パーティーメンバーにも惺教の教えに救われた背景などを持つ、惺教側の仲間が1人でもいれば「本当に現状の世界を壊してもいいのか」という葛藤をプレイヤー側がより一層味わえたのではないかと感じた。

ブラッシュアップされつつも新しさは感じられないシステム

 シナリオの描かれ方については集大成だと執筆したが、システム面もさまざまなアトラスRPGから引用されている。基本としては『ペルソナ3』以降取り入れられたカレンダー形式による制限日数内のタスク管理とシミュレーション要素に、「世界樹の迷宮」ベースのアーキタイプ(職業)などを組み合わせている。たとえばフォロワーシステム(従来のコミュ/コープ)は好感度がなくなり、どんな選択肢を選ぼうが上下するのは育成に必要なMAGだけで、数日後には次のイベントが用意されている。そのため効率的なランクアップのためにコミュのアルカナに合わせてペルソナを何度も召喚し直す手間がいらないなど、システムのブラッシュアップがされている。

 またカレンダー制が導入されていた過去作に比べ、物語の次の展開までの制限時間が緩く、パズルのように予定を組み合わせる必要がなくなったため、プレイヤー自身が主体的にスケジュールを組み立てやすくなった。しかし慌ただしさと並行して存在する、タスク管理をこなしていく面白さが失われたかというとそうではない。制限時間が緩いと話したが、自由時間がただ多いというわけではないのだ。

 物語を進めていくと、同時に各地方でクエストが発生することも多く、到着やダンジョン攻略の日数計算をしたり、移動時のみ発生するフォロワーイベントもあったりと、旅のさなかはなかなか忙しい日々を過ごすことになる。つまり最大効率を狙わなくてもよくなったが、クエストや移動中の専用イベントなどが多数存在するため、単なるステータス(王の資質)上げやダンジョン攻略ばかりを行うような薄く作業感が強い体験は減少したということだ。そして重ねた旅路の日数が、仲間との絆として徐々にプレイヤーのなかで形成されていくだろう。

 バトルは敵の弱点を突くことで行動回数が増加するプレスターンシステムを採用しているが、職業にあたるアーキタイプによって深みが増してしていると感じた。本作では「メガテン」および派生シリーズにおける、悪魔(ペルソナ)同士をかけ合わせる合体システムより、スキル編成の自由度が制限されている。その分アーキタイプの育成や合体技「ジンテーゼ」の組み合わせが重要で、新たな戦術を拡充したければフォロワーとの関係性を深めていくべきというモチベーションとして機能し、過去作よりもストーリー・シミュレーションパートと育成・バトルが有機的に連鎖しているように思えた。

 さらに仲間のストロールであれば戦士と軍師、ヒュルケンベルグであれば騎士と魔術師など、自らが担当するアーキタイプの履修条件がお手本としての成長方向を示しており、育成に迷う人にもゆるやかに動線を敷いているのが好感が持てた(もちろん従わなくてもよい)。さらにMP回復手段が希少アイテムのため、ダンジョン内で常に進むべきか退くべきかという選択を突き付けられる緊張感は「世界樹の迷宮」シリーズを彷彿とさせる。さらに「今日中にダンジョンを攻略しないと予定が崩れそう……」というスケジュール制だからこその葛藤も相まって、常に胃をキリキリとさせながら一歩一歩進む感覚は楽しかった。

 ただし、売りの1つであるフィールドアクションは、コマンドバトルの戦略性と両立するものではなく、あくまでオマケだと感じる。格上の敵には通用せず、逆にこちらは一回でも攻撃を食らえば容赦なく先制攻撃で一気にパーティーが瓦解してしまうのは、さすがにリスクとリターンが釣り合っておらず理不尽だと感じた。そもそも本作のアクション要素はいわば『ペルソナ5』において、格下の敵を即座に倒せる「瞬殺」にバリエーションを持たせただけのシステムで、戦略性あふれるコマンドバトルのようにアクション自体も楽しめるものではなかったのは少々落胆した部分でもある。

『メタファー:リファンタジオ』とは

 ここまで『メタファー』は、これまでのアトラスRPGの集大成だと話してきたが「あれ?」と思った読者も多いのではないか。そのとおり、もともと『PROJECT Re FANTASY』に期待されていた “「ペルソナ」でも「メガテン」でもない”というコンセプトがなかったことになっているのだ。さらに本作にはスタッフの過去作要素が各所に配置されており、たとえばアーキタイプでは仮面を付け替えて戦うマスクドダンサーは「ペルソナ」、モンスターを呼び出すサマナーは「メガテン」の引用だ。そしてジャックフロストをはじめとする悪魔そのものを召喚可能な「デビルサマナー」も存在するが、筆者としてはファンサービスとしてうれしく思う部分もありつつ、「ファンタジーの世界観で新たなRPGを作るのではなかったのか!」と正直ガッカリしてしまった要素でもある。

 当然『PROJECT Re FANTASY』発表時はコンセプト段階であり、長きにわたる開発期間で路線が変更されていったであろうことは重々理解している。そしてゲームの出来自体は現代JRPGの最高峰であり、アトラスが気になっている人に向けた入門作としても勧められる丁寧なまとめ方は、80時間かけて夢中にプレイしていた私自身がよくわかっている。だが、私が8年間待ち望み真にプレイしたかったのは、過去作の延長線上のゲームではなく、スタジオ・ゼロひいてはアトラスが作り上げた“新作RPG”だったのだ。だからこそ本作はアトラスRPGの集大成作を求めていたプレイヤーには理想的なタイトルで、筆者のように新しさ・斬新さを期待していた人とは齟齬を起こしてしまうかもしれない。そのためまだ購入していない方がいたら、自らがどちらの方向性を求めているのか見つめ直してみてもいいかもしれない。

 最後に、主人公たちが幻想小説から目指すべき理想を得たように、本作はプレイヤーがゲームから現実へ「なにか」を持ち帰ることを期待しているタイトルだと言える。その点で言えば、リリース時期には日本であれば衆議院議員総選挙、アメリカではアメリカ合衆国大統領選挙が実際に開催された。「FANTASY LIVES ON…(幻想は生き続ける)」というテーマどおり、「『メタファー』をプレイして政治について刺激を受けて主体的に考え出した」ユーザーは多いと思われ、プレイヤーの選挙意欲をエンパワメントするゲームとしては一定以上の影響は与えたのではないかと考えている。 そして差別や人間の多様性などに対しても本作から受け取ったメッセージを自らの血肉に変え、幻想を現実に影響をもたらさない無力な作り物にしないためにも、答えが出ないような問題にも個々のプレイヤーが考え続けていくことが問われている。そう思えた作品だった。

『メタファー:リファンタジオ』の物語と世界観とは? 「ペルソナ」「メガテン」との共通点と相違点

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