ラウールは日本映画の閉塞性を打破するメルクマールになる 若きカリスマが放つもの

若きカリスマ・ラウールが放つもの

 「ラウール」という男子名は世界的な見地から量るなら、一にも二にもラウール・ゴンサレス・ブランコのことを指す。元スペイン代表のフットボーラーであるラウールは、少年時代から世界最高の名門クラブ、レアル・マドリーで育成を受け、クラブ最年少記録の17歳4カ月でトップデビューを果たし、ワールドカップやチャンピオンズリーグなどで数々の伝説的瞬間を生み出した。

 そしていま、私たちの前にはもうひとりのラウールがいる。2019年1月に15歳でSnow Manに加入し、これによりSnow Manはそれまでの6人編成から9人編成へと拡大し、なかなか実現できなかったCDデビューへとこぎつけることになる。それからの直近5年間の快進撃は誰もが知るとおりである。9人中7人が30代というメンバー構成にあって、まだ21歳のラウールが圧倒的なカリスマ性を放っていることは、彼がきわめてスペシャルな存在であることを示している。

 わたしはラウールのにわかファンにすぎないことを白状しなければならない。Snow Manの楽曲を全曲聴いているわけでもない。ただ、ラウールの魅力を思い知らされてウォッチしていこうと思い立ったのは、2022年6月、「Yohji Yamamoto POUR HOMME」の2023春夏コレクションのランウェイに登場し、パリコレデビューしたラウールをライブ配信で目撃した時だった。「18歳のこの人には規格外の妖艶さがある。いずれ世界を征服する人材かもしれない」と直観したのだ。わたしは長年にわたりヨウジヤマモトのファンで、このブランドの一部門の服をほぼ毎日着て出歩いている人間だ。だから、ラウールがヨウジの服をどのように着こなして、どのように歩くのかを見た時に、敏感にその人物の才能を感じることができたのである。

 ラウールの最新主演映画『赤羽骨子のボディガード』(石川淳一監督)がこの8月に公開された。『週刊少年マガジン』(講談社)で2022年9月から連載開始された丹月正光の同名コミックの映画化。殺害懸賞金100億円をかけられた高校生・赤羽骨子と、彼女を護衛するために幼少期から特殊訓練を受けてきた23人のクラスメイトの学園アクションであり、何から何まで荒唐無稽、現実感を無視した徹底ぶりは同じ学園アクションのジャンルに属する『翔んで埼玉』(2019年)も凌ぐかもしれない。観る人によっては「なんだ、この茶番劇は!」という感想を持つことだろう。

 『赤羽骨子のボディガード』はスタッフもキャストも全員、茶番劇すれすれの世界観を守るために馬鹿なことを真剣にやり遂げている。この映画はこれでよいわけである。そしてこの世界の中心にいるのが、赤羽骨子(出口夏希)を守るクラスメイトのひとり、ラウール演じる威吹荒邦(いぶき・あらくに)なのである。身長192センチを誇るラウールはまさに威吹荒邦役にふさわしい。ただし単純な性格で純情、ひょうきんな威吹荒邦と、人見知りでストイックに芸を磨くラウール自身には、正反対と言ってもよいほどギャップがある。

 ラウールは、威吹荒邦役を引き受けた時の気持ちを次のように語る。

「自分の雰囲気と荒邦はかけ離れているんですが、わりと僕が0か100かの人間で力加減ができないタイプなんです。仕事の熱量もプライベートのリラックス感も極端に高いので、その考え方でいったら、この役ももしかしたらできるかもしれないと思いました」(公式インタビューより)

 主演第2作『赤羽骨子のボディガード』と、初主演映画だった『ハニーレモンソーダ』(2021年/神徳幸治監督)は、じつは非常に似かよった作品だ。どちらも漫画原作であり、世界観の中心はどちらもラウールが担っているものの、物語上の中心には彼の恋愛対象である少女が据えられている点で共通している。『ハニーレモンソーダ』ではいじめられっ子の同級生・石森羽花(吉川愛)をガードする守護者として三浦界(ラウール)が彼女の前に現れる。何事にも消極的で心を閉ざしていた石森羽花は三浦界の助力によって徐々に解放される。周囲の全校生徒たちは、物語上の中心たる女子生徒と彼女を騎士道精神で守護するボディガードの恋路を、応援したり邪魔したりしながら見守っていく構造をなしている。

映画『ハニーレモンソーダ』本予告

 この構造は『赤羽骨子のボディガード』でも踏襲されている。殺害懸賞金100億円をかけられた少女を、みんなで命を投げうってディフェンスする毎日にあって、最も騎士道精神を発揮させた威吹荒邦が恋の相手として浮上し、誰もがそれを無言のうちに是認していく。『ハニーレモンソーダ』の吉川愛も、『赤羽骨子のボディガード』の出口夏希も小柄かつ可憐なタイプの女優であり、守護者を演じるラウールとの身長差が非常に強調されている点も共通する。

 学園の群像劇におけるラウール/可憐な相手役女優とのツーショットにおけるラウール。『ハニーレモンソーダ』『赤羽骨子のボディガード』で反復されるこのふたつのシチュエーションが、ラウールの華麗なボディライン、長い手足、しなやかな身のこなしを強調している。これが逆に、相手役をたとえば河合優実のような高身長の女優が演じたとしたら、どうなるだろう? おそらく2作品ともまったく別の映画になってしまっただろう。

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