ふじきみつ彦の脚本は朝ドラと相性抜群? 『ばけばけ』で期待される“生活臭”とユーモア

ふじきみつ彦の脚本は朝ドラと相性抜群?

 2025年度後期に放送されるNHK連続テレビ小説の詳細が発表された。タイトルは『ばけばけ』。日本の怪談を世界に広めた明治初期の作家ラフカディオ・ハーン=小泉八雲の妻、小泉セツの人生をモデルにしたドラマとなる。

 物語は、ヒロインの松野トキが生まれ育つ島根県から始まるとのこと。自然豊かで由緒ある神社が点在する島根は古くから“神々のふるさと”と呼ばれ、どこか神秘的な雰囲気が漂う。この場所で育った漫画家・水木しげるは妖怪やお化けに魅せられ、のちに『ゲゲゲの鬼太郎』を生み出した。2010年度前期には、水木の妻である武良布枝の自伝的エッセイを原案とした朝ドラ『ゲゲゲの女房』が放送されており、『ばけばけ』もそれに近しい物語になるのではと予想できる。

 他にも主人公夫婦の歩みを描いた近年の朝ドラといえば、『マッサン』(2014年度後期)、『まんぷく』(2018年度後期)、『エール』(2020年度前期)、『らんまん』(2023年度前期)などがあり、いずれの作品にも前例のないことにチャレンジする夫と、まさに“病める時も健やかなる時も”並走する逞しい妻の姿があった。

 だが、今回は彼女たちとは少し異なるヒロイン像が打ち出されるのではないだろうか。というのも、本作で脚本を担当するふじきみつ彦は市井の人々に光を当ててきた作家だからだ。

 2009年から放送されているEテレの教育番組『みいつけた!』に作家として携わるふじきはNHKドラマも数多く手がけており、2022年には松坂慶子主演のドラマ『一橋桐子の犯罪日記』の脚本を担当。独居老人の桐子が、孤独死を避けるために、できるだけ人に迷惑をかけずに刑務所に入る道を模索する姿を切実に描いた。翌年手がけた、おもちゃ会社を舞台に総務部勤務の市川さん(森川葵)とその先輩・坂東さん(川崎鷹也)が織りなすヒューマンドラマ『褒めるひと 褒められるひと』も記憶に新しい。

 また、お笑いコンビ・阿佐ヶ谷姉妹のエッセイをドラマ化した『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(NHK総合)や、センスは抜群だけど、恋愛は不器用で全くモテない中年男の悲哀を描いた『デザイナー渋井直人の休日』(テレビ東京系)などが代表作として挙げられる。どの主人公たちも大それた夢など持っておらず、あるのはほんの一握りの望みだけ。そんな彼らの日常を覗くようなふじきの作品からは生活臭が匂い立つ。とても身近に感じられ、何気ない暮らしに転がっている幸せや人とのつながりが愛おしく、抱きしめたくなる物語たちばかりだ。

 今回、主人公のモデルとなる小泉セツも名前は残っているけれど、大きなことを成し遂げた人物ではない。ふじきも「何も起きない物語」「『夢は○○だけん!(島根言葉)』なんて一度も叫ばない朝ドラ」とコメントしており(※)、そこから浮かび上がってくるのはやはり“普通”のヒロインだ。劇的な展開はないけれど、日常で起こる小さなドラマを紡いでいく、ある意味、朝ドラらしくない朝ドラになるのではないだろうか。けれど、コントの脚本も手がけてきたふじきならではのユーモアが至るところにちりばめられ、ふふっと笑えて、心がぽかぽかした状態で1日を始められる。そんな物語を期待したい。

2025年後期朝ドラは小泉八雲の妻・セツをモデルにした『ばけばけ』 脚本はふじきみつ彦

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