『連続ドラマW フェンス』に詰まった“ドラマ”としての面白さ 沖縄を感じるリアルな手触り

『フェンス』沖縄を疑似体験させる没入感

 WOWOWで放送・配信されている『連続ドラマW フェンス』は、ライターの小松綺絵(松岡茉優)ことキーが、沖縄で起きた米兵による性的暴行事件の真相を追うクライムサスペンスだ。

 脚本は『アンナチュラル』(TBS系)や『MIU404』(TBS系)で知られる野木亜紀子。そしてプロデューサーの北野拓は、野木と共に『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』(NHK総合、以下『フェイクニュース』)を2018年に手掛けている。本企画にはさらに普天間出身であるWOWOWの高江洲義貴プロデューサーが加わった。

 根拠のない噂話や虚偽の情報がきっかけで起こるインフォデミックがもたらす社会の混乱を描いた『フェイクニュース』を手掛けた2人の新作が久しぶりに観られるということで、本作はとても楽しみだった。だが、舞台が沖縄で米兵の性的暴行事件を描いたドラマで、日米地位協定が物語に大きく絡んでくると知った時は、自分に理解できるだろうかと心配だった。

 物語冒頭、雑誌編集長の東諭吉(光石研)に「沖縄の歴史、どれくらい知っている?」と聞かれたキーは「昔は琉球だった」「明治時代に日本に併合されて、第二次世界大戦の終わりに、日本で唯一、地上戦になって、20万人以上? が死んだ」「日本が戦争に負けてアメリカに占領されて、沖縄はアメリカになった。1970年代に、ようやく日本に返還された」と答えたあと、「他には」と聞かれ、「さとうきび、シーサー、沖縄そば」と言い、最後に「知りませんよー」と答えるのだが、筆者が同じ質問をされたら、キーの何倍もしどろもどろになっていたと思う。

 だから、沖縄について何も知らない自分が観ても楽しめるのだろうかと不安だったが、そこはさすが野木亜紀子である。扱いの難しい社会的テーマを扱いながらも、本作は万人が楽しめるエンタメであろうと努めている。逆に言うと、社会的なテーマにしっかりと挑むからこそ「ドラマとしての面白さを手放してはいけない」と考えていることが、画面の隅々から伝わってくる。

 何よりそのことを強く現しているのが、主人公のキーの人物造形だろう。彼女はキャバクラ嬢出身のライター・バウ子で、事件を調べるために沖縄に向かった理由も、好条件の原稿料を払うという条件に惹かれたからだ。この、初めに「お金のため」という動機を描くことで、キーは視聴者にとって身近で感情移入しやすいキャラクターとなっている。

 キーは、沖縄で知り合った人々と関わる中で、沖縄の抱える特殊な事情と、日米地位協定の影響で米兵が公務中に事故や過失を起こしても日本の警察はまともな捜査ができないということを知っていく。そんなキーの姿を追っていくことで視聴者も、沖縄の内情を知っていく。沖縄が抱えている特殊な事情を丁寧に紐解き、そのしわ寄せが立場の弱い女性に向かっていく姿を見せる筆運びは実に明瞭で、沖縄の知識がない人にもゼロから現状を伝えようと、作り手が腐心している様子が観ていて伝わってくる。

 何より映像が魅力的である。少し歩けば基地のフェンスがあり、空を見上げるとオスプレイが飛んでいるという、米軍基地が日常の中に溶け込んでいる沖縄の風景を見事に捉えている。

 『連続ドラマW フェンス』で描かれる沖縄は、綺麗な空と海が強調された観光地的なものではなく、もっとリアルな空間だ。そのため、現在の沖縄で暮らす人々が感じている手触りを疑似体験できるような作りとなっている。

 つまり本作は、沖縄を舞台にした「ローカルクライムサスペンス」とでも言うようなドラマである。キーは事件を追う探偵で、彼女の行動を追うことで沖縄の内実を知ることができるというジャーナリスティックな物語は、一粒で二度美味しい作りだと言えよう。

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