2019年の年間ベスト企画
年末企画:荻野洋一の「2019年 年間ベスト映画TOP10」 多くの女性監督が充実した作品を発表
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優たちも紹介。映画の場合は、2019年に日本で劇場公開された(Netflixオリジナル映画含む)洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10本をセレクト。第16回の選者は、映画評論家の荻野洋一。(編集部)
1. 『イメージの本』
2. 『ノーザン・ソウル』
3. 『慶州 ヒョンとユニ』
4. 『幸福なラザロ』
5. 『こおろぎ』
6. 『ベン・イズ・バック』
7. 『マーウェン』
8. 『田園の守り人たち』
9. 『アトランティックス』
10. 『新聞記者』
2019年映画界を代表するモニュメンタルなツートップは『アベンジャーズ/エンドゲーム』と『ジョーカー』で間違いあるまい。このマーベル代表とDC代表のトップ下で巧みにポジショニングを取るのはタランティーノのリラックスさせる快作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』であり、これぞ栄光の逆三角形だ。しかし映画には元来、モニュメンタルなポジショニングからずらかってやろうという本能も備わっている。そうした本能の動きに導かれるままに2019年ベストを選び直すならば、様相は一変してしまう。ジャン=リュック・ゴダールの恐るべき新作『イメージの本』と共に、映画は早くも次の世紀へのステップを踏み出しそうなほどだ。
2位と3位にさして多くの観客を集めたとは言えないイギリス映画と韓国映画を挙げるのになんのためらいも感じないのは、ずらかろうとする本能に身をゆだねた時、映画は破廉恥なまでに輝きを増すからである。パンク=ニューウェイヴ・ムーヴメント勃興前夜の1970年代イングランド北部で巻き起こった異常なソウルブームと、ドラッグによるトリップ症状──『ノーザン・ソウル』(エレイン・コンスタンティン監督)。いわば外来文化に過ぎないソウルにここまで入れ込んでしまうイングランド人たちの狂気には、何か重要なものが胚胎する種子がひそんでいる。古代新羅王朝の旧都で一組の男女が欲望のあいまいな対象と化す『慶州 ヒョンとユニ』の張律(チャン・リュル)監督には、先に日本公開された『春の夢』(2016)同様、モニュメンタルな純正的ポジショニングとは無縁の、隙あらばずらかるぞという気風が漂う。
5位『こおろぎ』(青山真治監督)、10位『新聞記者』(藤井道人監督)の2本が日本映画。『こおろぎ』は2006年製作当時に一度見たが、2019年末にひょっこり一般公開となった。見るたび、山崎努と鈴木京香の怪物性にやっつけられていく快楽がある。これ以上くり返し見たら『こおろぎ』が知らぬ間に1位におどり出てしまうだろう。『新聞記者』についてはSNS上などで数多くの批判を目にした経験が、かえって同作をベストテンに投じようという動機となった。ふざけた作品だと断じるのはたやすいが、同作が孤軍奮闘の中で投じた一石に匹敵するものが果たして2019年日本映画界に何かあったのか、はなはだ疑わしい。