大人も楽しめる『劇場版 ウルトラマンオーブ』の魅力 50年続く人気シリーズは親子の“絆”も育む
2017年、放送開始50周年を迎えるウルトラマンシリーズ。ウルトラマンの名前を知らぬ50歳以下の成人男性は、この国にほとんど存在しないだろう。筆者も子どもの頃、テレビにかじりついて観ていた。
成長するに従い、ウルトラマンを観ることはなくなっていくが、結婚して子どもが生まれ、それが男の子だった場合には、再びウルトラマンシリーズを観る機会に恵まれ、“今のウルトラマン”に触れることになる。するとどうだろう。大人になってから観ても、その魅力に引き込まれ、子どもと一緒に楽しめるではないか。
3月11日より全国ロードショーされる、映画『劇場版 ウルトラマンオーブ 絆の力、おかりします!』は、そんな親子にとって非常に楽しみな作品だ。前シーズンのテレビシリーズ『ウルトラマンオーブ』の映画化なので、ずっと観ていた身としては尚更だ。
近年のウルトラマンシリーズは「異次元世界との繋がり」が、世界観の根底に流れている。現在テレビシリーズで放送中の『ウルトラマンゼロTHE CRONICLE』もそうだ。宇宙は一つではなく、何個もの宇宙が異次元の間で存在し、各宇宙をウルトラマンや怪獣たちが次元を超えて往来をする。同時進行のパラレルワールドが存在するところなど、昨年大ヒットした映画『君の名は。』にも通じていて、大人の視点でも興味深く楽しめる。かつての円谷プロ作品で描かれた世界とも通じていて、懐かしのキャラクターが登場したりするところも、大人世代にとってたまらないポイントだろう。
今回の映画の冒頭でも、現シリーズの主人公・ウルトラマンゼロが異次元からやってくる。『ウルトラマンオーブ』のひとつ前のシリーズの主人公・ ウルトラマンXが、一体化していた人間体・大空大地と異次元間で引き離されてしまったために、彼を探すところから物語は始まる。最新の3シリーズ の主人公の共演は、とても豪華だ。
異次元世界の基本構造に加え、ウルトラマンたち正義の「光」、怪獣や宇宙人たち悪の「闇」の対立構造も、ストーリーの上で重要なポイントとなる。ウルトラマンオーブの変身アイテム「オーブリング」は、光の力である歴代のウルトラマン2人を合体融合させる能力を持つ。その組み合わせによって様々な「ウルトラマンオーブ」に変身し、闇の世界の怪獣たちと戦うのだ。
一方、怪獣「闇」の世界側は、美を愛し、美しいもの、自らが気に入ったものなどを宝石化させ、永遠に自分のものとしようとする、宇宙魔女賊ムルナウが支配している。「闇」側もまた、宇宙で最も邪(よこしま)な者が手に入れるという「ダークリング」を使い、過去の怪獣を呼び出して合体融合させる。光の世界の概念と闇の世界の概念の対立構造は、物質文明へのアンチテーゼを描いているようにも見て取れ、非常に興味深い。
また、現実に起こった歴史的な事件を感じさせる描写にも、制作者側の意図が感じられる。最初に怪獣が現れ街を破壊していくシーンで、ビルの爆発箇所やビルの崩壊の仕方が、9.11のワールドトレードセンターと酷似しているのは気のせいだろうか? 3.11劇場公開で、サブタイトルに「絆の力、おかりします!」とあるのにも、メッセージが込められているのだろう。
実際、ウルトラマンオーブの人間体であるクレナイ・ガイは、各歴代のウルトラマンを「さん」付けで呼び、合体させることで力を得ている。過去から続く「絆」に敬意を払い、それを糧にしているのだ。逆に言えば、ウルトラマンオーブは絆の力で歴代ウルトラマンを合体融合させないと現れることができない、“本体がない”ウルトラマンでもある。過去なくして現在はないという設定もまた、深みを感じさせるところである。
さらに、闇の世界と光の世界の間に立つ「ジャグラス・ジャグラー」の存在も際立っている。敵なのか味方なのかわからない曖昧な彼の存在が、光と闇の二項対立だけで、物事は解決しないということを理解させてくれる。作中には当然ながら子ども向けシーンも多数あるのだが、視点を変えて観れば、SF特撮の「元祖」である円谷プロのウルトラマンシリーズのストーリーが、単なる子ども騙しなわけはないのだ。