限りある時間の使い方(再読)
限りある時間の使い方/オリバー・バークマン 著、 高橋 璃子 訳
(FOUR THOUSAND WEEKS by Oliver Burkeman, 2021)
2022年6月20日/291ページ
目次:長い目で見れば、僕たちはみんな死んでいる 現実を直視する 幻想を手放す 僕たちに希望は必要ない 有限性を受け入れるための10のツール
再読です。
時間をうまく使うことが人の最重要課題で、人生とは時間の使い方そのものであるとまえがきにありますが、どちらかといえば「時間の使い方」というよりも、実は「時間よりも大切なものに気づく生き方」を提案する本だと感じています。
時間を使うというと「やることリスト」や関連ツールが思い浮かびます。
そんな便利な道具を使うとどうなるか?
だけど実際に起こっていることは(略)増え続ける仕事量を、限られた1日の長さになんとか押し込める べく、みんな必死になっている。(5ページ)
まず、「やりたいこと」ではなく「やらなければならないこと」に必死になっていることに気付かされますね。加えて「やりたいこと」のために「やらなくてはならないこと」も多々発生しています。
そして筆者は、我々は仕事を減らすのではなく、限られた時間内に押し込めることに必死になるという選択肢しかないということも指摘しています。
だからこそ今の時代は「シンプル」が叫ばれていたりするのでしょう。
さらに筆者は、
生産性とは、罠なのだ。(14ページ)
と明言しています。
ですので、どれほど効率性を追い求めても、つぎつぎに新たにやるべきことが増えることによって忙しさに終わりはないといいます。
心の自由を得るための唯一の道は、「全部できる」という幻想を手放して、ひと握りの 重要なことだけに集中する ことだ。(57ページ)
これは仕事だけに限らないのでしょう。
アメリカに行きたい、ヨーロッパに行きたい、南の島に行きたい・・・。
行きたいところがたくさんあるとそれが義務感につながって、いつしか心の重しになっているのではないでしょうか。
自分が設定した目標にいつのまにかつぶされそうになり、そのために無理をして働いたりしているとしたら、本末転倒というものです。
どうやって心安らかに物事を やらない か。(88ページ)
やることよりもやらないことに心を砕く。
集中することができれば心の自由を得るための時間ができる。
しかし、そこにも罠があると筆者はいいます。
もしも夏休みが何度でも 無限にやってくる なら、そこに特別な価値はない。(79ページ)
これはどうなんでしょうか。
夏休みは無限にやってこないことを信じるということは、いわゆる「経営者」が広めたい考え方なのではないでしょうか?
そんな夢みたいなことを考えていないで必死に働いてくれ、というのが本音でしょう。
そして、話は「デジタルデトックス」に及びます。
デジタルな機器を持っていたら時間が無限に吸い取られてしまうという話です。
楽しいかどうかは関係ない。何ものにも束縛されないという 幻想 が、有限性の痛みをやわらげてくれれば充分だ。(130ページ)
「何ものにも束縛されない」ということには、いわゆる「旅行」という行動が当てはまりますね。
自分たちで決めた道を自分たちのペースで歩くことができます。
ところで、有限性の痛みをやわらげるという点に関連して、いわゆる中毒や嗜癖という現象は、必ずしも楽しくて、かつ、自分から求めてやっているものではないということが指摘されています。
つまり何か苦しい、不快なものから逃れるために習慣化してしまったものがほとんどだといいます。
ギャンブルなどがその代表例でしょう。
けれども、自分が楽しみにしていたことが、楽しくないこともあるといいます。
有名な観光地を訪れた方の例が紹介されています。
「実際にクレーター湖を前にしてみて、『ああ、これね』という気持ちになった。」(161ページ)
いわゆる「がっかり観光地」というやつでしょうか?
しかし、これには理由があると思います。
例えば「行きたい」という理由ではなくて「行かなくてはならない」という理由で訪問するとそうなるのではないでしょうか。
有名だから、珍しいから、貴重と言われているから、などなど。
自分の心から発せられる動機ではなく、他人の考えをそのまま反映した訪問先を選択するとそうなるのでは?
この筆者もオーロラを目の前にしてこう思ったそうです。
「ああ、これ、スクリーンセーバーで 見たやつ だ」(162ページ)