【社労士監修】退職届を受理してもらえないときの内容証明の使い方とポイント2つ
最終更新日:2021年10月13日
会社側と揉めていると、退職届を受理してもらえないこともあります。このような場合は、「内容証明郵便」で退職届を出すのがおすすめです。内容証明郵便ならば、会社に確実に退職届を受け取らせることができますし、提出した証拠も残ります。郵便局の窓口にて手続きができますので、退職届の受理で揉めているなら検討してみてください。
目次
退職届を受け取ってくれない場合は内容証明を使いましょう
退職届を提出すれば、その日から2週間経過後には辞めることが可能です。しかし、しつこく引き留めをする企業によっては、退職届を受け取らなかったり、提出しても受け取った覚えがないなどと言われてしまったりすることがあります。このような場合は内容証明を使いましょう。
会社側の都合で退職届の受理を拒まれることがある……
まず、社会人の常識として退職届は上司に直接手渡しが基本です。その後、上司と話し合って決めた日に退職をします。
原則として労働者には退職の自由が認められていますから、会社側の都合で退職届の受理を拒むことはできません。しかし、法律上はそうなっていても、退職届の運用については現場の管理者などが勝手な理屈をつけて受取を拒まれることがあるのです。
社内ルールにのっとって、手渡しをするのが理想ですが、執拗な引き留めにあっていて退職ができそうにない、退職届を受け取ってくれないといったことがあるならば、内容証明郵便を利用して確実に会社に退職届を受理させるようにしましょう。
内容証明とは?
内容証明郵便とは、「誰が」「誰に」「いつ」「どんな内容の手紙を出したのか」ということを日本郵便が証明してくれる郵便のことです。退職届の場合、自分が会社に×月×日に退職届を出したことを証明してくれます。
会社は退職届を受け取ったら2週間後には辞めさせなくてはならないと民法で決められています。内容証明郵便で会社に退職届を出せば、会社に到着後2週間後には辞めることが可能になるのです。
※参考:内容証明 – 日本郵便
どうして内容証明なら受理されるの?
まず、内容証明郵便は見た目は書留と変わりません。但し、封筒表面に「内容証明」と記載されています。
また、郵便物はまれに「受け取り拒否」をされてしまうこともあります。仮に封筒面に「退職届在中」などと記載していなかったとしても、会社が宛名を見て「××さんからの郵便だから、退職届かも」と警戒して、受け取らないこともあるでしょう。この場合には、郵便局がいったん持ち帰り、7日間郵便局で他の上、保管の上、相手方から連絡が来なければ、内容証明は差出人に返送されます。このとき、封筒表に「相手方不在」や「留置期間経過」などといったメモが貼り付けられています。
最高裁判所の判例では、このような場合には一定の要件のもとで「遅くとも留置期間が満了した時点で受取人に到達したものとみなされる」ことになっています。
会社として、「そんなものは知らない」とは言えなくなるのです。
そもそも民法97条では、「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。」とされています。
さらに、民法627条では「雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」となっています。たとえ郵便物が会社に到達した後に受け取り拒否をされたとしても、会社に書類が到達した時点で意思表示の効力が発揮されますから、いずれにせよ、辞めることができるのです。
このように内容証明なら、相手に確実に退職届を受け取らせることが可能です。ただ、円満退職したいなら、きちんと上司に退職届を手渡しした方がよいでしょう。引き留めで困っていたとしても、内容証明は最終手段と考えて、別の対処法を検討してみてください。
引き止め対処法はこちらでも詳しく紹介しています。
内容証明で退職届を送るメリットとデメリット
内容証明郵便について解説してきました。ここでは、内容証明郵便で退職するメリット・デメリットを再確認していきましょう。
内容証明で退職届を送るメリット
内容証明で退職届を出すメリットとしては以下のようなものが存在します。
- ブラックな職場でも確実に退職できる
- 無駄な交渉を続ける必要がない
- 2週間我慢すれば退職の権利が当然に自然発生する
- 退職届を出した証拠が残る
特に、2週間我慢すれば退職の権利が自然発生するのは大きなメリットなのではないでしょうか?
ブラック企業などで退職届を受け取ってくれない企業の場合、辞めたいと思いながらも、ずるずると働かされることが多いでしょう。
しかし、内容証明で送れば2週間経過すれば、民法によって辞める権利が発生しますので、必ず退職することが可能です。
2週間経過するまでは職場で嫌味を言われる可能性もありますが、この期間我慢しさえすれば、辞めることができるのです。
年次有給休暇の使い残しがあるならば、有休を使ってしまえばよいのです。有休は労働者の権利です。会社が労働者の有休消化を拒むことはできません。
このようにして退職での悩みから解放されるので、無駄な交渉の必要もなくなり、精神的に解放されるでしょう。
内容証明で退職届を送るデメリット
では逆にデメリットの方も見ていきましょう。
- 円満退職はできなくなる
- 有休消化を妨げられる可能性がある
- 社内で妙な噂を立てられる可能性がある
- ブラックな職場なら上司が自宅に押しかけてくる恐れがある
- 法律を無視して、退職届を取り下げさせようとする可能性がある
特に、大きなデメリットは円満退職ができない可能性があるということです。退職届を受理してくれない会社はかなりの問題がある会社であることがほとんどでしょう。
辞めることは労働者の権利であるにも関わらず、一方的に怒って、退職届を取り下げさせようとすることもあるはずです。
なお、残っている有休有給を消化しようとすると、拒んでくることもあるかもしれませんが、前述の通り有休は労働者の権利です。会社が拒むことはできません。もちろんこのようにして会社に行かないようにしても、執拗な電話があったり自宅まで押しかけられたりすることもあるかもしれません。社内であらぬ噂を立てられるといった嫌がらせも考えられます。
2週間の間、精神的に苦しい思いをする可能性があるといえるでしょう。
退職届の内容証明の作成方法と流れ
内容証明の郵便を送る機会はあまりないでしょう。実際に送るときに失敗しないためにも、退職届の内容証明の作成方法と流れを確認しておきましょう。
そもそも…内容証明は自分で作成できるものなの?
内容証明は自分で作成することができます。しかし、所定の形式などがあるので、事前にしっかりと確認しておくことが大切です。
準備するものやかかる費用
内容証明郵便を利用するには、同じ内容の文書が3通必要です。
- 会社に送る退職届(原本)
- 自分の保管用の退職届(謄本)
- 郵便局の保管用の退職届(謄本)
会社に送る原本は手元に残らないので、自分と郵便局用にコピー(謄本)を2通用意するということです。
内容証明郵便を出すには、通常の郵便と同じように『用紙』と『封筒』が必要です。3通用意するので、3通分の用紙と封筒が必要です。
用紙や封筒については、大きさや紙質についての指定はないので、どのような紙でも大丈夫です。手書きの場合には、内容証明書用の原稿用紙も販売されていますのでそれを利用しても良いでしょう。
内容証明の加算料金は440円 (2枚目以降は260円増し)です。一般書留で送る必要がありますのでその分の費用もかかります。ですので、費用としては、用紙や封筒の代金を含めて1,000円程度で済みます。
作成準備~提出までの流れ
用紙や封筒が準備できたら、以下の手順で作成していきましょう。
内容証明はどこの郵便局でも出せるのではなく、取り扱ってくれる郵便局が決まっています。あらかじめ差し出そうとする郵便局に確認しておいてください。
退職届を書く
退職届を用意した用紙に記入していきます。この際に注意しておきたいのは、謄本の書き方にはさまざまなルールがあるということです。
1枚の用紙に書ける文字数は「520字以内」と決まっています。
「一行に書ける字数」と「行数」が縦書きならば、20字×26行。
横書きならば、20字×26行以内・13字×40行以内・26字×20行以内という決まりがあります。
パソコンで作成する場合は、ワードで行数などをきちんと設定し、字数制限をオーバーしないように調整しましょう。また、手書きの場合は、「内容証明用の原稿用紙」を使うと間違いないでしょう。
封筒に宛名を記載する
封筒を1通用意して、封筒の表面に『受取人の住所・氏名』、裏面に『差出人の住所・氏名』を書きます。封筒に記載する住所と氏名は、退職届に書いた住所・氏名の表記に合わせましょう。
なお、『内容証明書在中』や『退職届在中』とは書く必要がありません。受け取り拒否されたくない場合には、会社と自身の住所だけで十分です。
また、郵便局では、書類内容のチェックがあるので、封筒は封をしてはなりません。
封筒・原本1部・謄本2部を郵便局に持っていく
封筒・原本1部・謄本2部の準備ができたら郵便局に持っていきます。郵便局で、これら3部に違いがないことを確認してもらったところで、封筒に封をして窓口に会社に送る退職届一通を差し出します。
謄本の1部を持ち帰って大切に保管する
発送手続きが完了したら、謄本の1部を郵便局から渡されるので、持ち帰って大切に保管します。
内容証明作成の注意点2つ
内容証明作成の注意点としては、以下の2つのポイントがあります。
退職交渉中に「内容証明で送る」などと言わない
内容証明で退職届を提出する前に、上司や人事担当の方と退職交渉をすることがあるはずです。
このときに、上司の態度などに腹を立てて、「退職届を受け取ってくれないのならば、内容証明で郵送しますよ」などと言わないことが大切です。
相手に過度に警戒されて、会社にあなたからの郵便をすべて拒否される恐れがあります。
封筒に「退職届在中」と書かない
封筒に退職届在中と書いてしまうと、会社がそのワードを見た時点で受け取りを拒否する恐れがあります。
封筒に、何かを記載したいと思うのならば、「親展」とだけ書き、中身が何であるか悟られないようにしましょう。(とはいえ、相手方が退職届ではないかと勘を働かせて受け取りを拒否するという可能性はあり得ます)。
退職はしたい。でも内容証明を送るのが怖い…そんなときは?
内容証明を出せば、会社に到着後、2週間経過すれば辞める権利が発生します。しかし、内容証明を送っても、退職を阻止しようと会社から嫌がらせをされたり、有給休暇の取得を拒まれたり、退職金を減らされたりすることもあるでしょう。
嫌がらせによって鬱になってしまい、転職活動に影響が出てしまうこともあるはずです。一方的な退職届の郵送なので、引け目を感じる可能性もあるでしょう。
このような場合は、退職代行業者への相談を検討してみるとよいでしょう。有給などの交渉をし、会社から本人に連絡しないように要請してくれます。
ただし、退職代行業者は、多くのサービスがあり、どこが自分に合っているのかわかりにくいはずです。以下で、利用した人の体験談なども交えながら、業者を紹介しているので、選ぶときの参考にしてくださいのようにしてください。
まとめ:退職届を受け取ってもらえないなら内容証明を活用してみよう!
内容証明を利用すれば、退職届を確実に会社に受け取ってもらえます。退職届を出して2週間が経過すれば、民法で辞める権利が発生するので、過度な引き留めにあっている人にはおすすめできます。
ただし、会社によっては退職届を取り下げさせようと嫌がらせをしてくる可能性もあります。また、有給休暇有給のを消化を妨げたり、退職金を減らしたりといった嫌がらせをする可能性もあるのです。
なるべく円満に、トラブルなく辞めたいならば、退職代行業者に依頼するのもおすすめです。きちんと会社を辞めるためにぜひ検討してみてください。
社労士からアドバイス
労働者本人が会社に対して内容証明を出す、というのは現実には相当にハードルが高いと思います。そもそも会社に出向いて直接退職届を出せないというのは、ある意味では異常な事態です。上司のパワハラなどの問題があったり、本人自身の精神的な不調といったことが原因かもしれません。
また、ご自分で内容証明を作るというのは、本文で解説したほかにも注意点が沢山あります。決して簡単な事ではありません。
慌てて自分で行動するのはいかがなものでしょうか。
退職代行業者や弁護士、社会保険労務士などの専門家に相談したり、都道府県労働局の総合労働相談コーナ等の公的な機関に相談するなど、一度、第三者のアドバイスを受けてみるべきでしょう。
監修者プロフィール
社会保険労務士 健康経営エキスパートアドバイザー玉上 信明 (たまがみ のぶあき)
三井住友信託銀行にて年金信託・法務・コンプライアンスなどを担当。
2015年10月65歳定年退職後、社会保険労務士開業。執筆・セミナーを中心に活動。
人事労務問題を中心に、企業法務全般や時事問題にも取り組んでいます。