昨日は台湾の某テレビドラマに関連した「ファンミーティング」のお仕事でした。ドラマに出演している俳優さんたちが来日して、ファンとの“互動*1”をしたり、フォトセッションをしたり、握手会をしたり……。これまでにも何度もこうしたお仕事をしてきましたが、なにせ華やかなエンタテインメントの世界のこと、いつも「私みたいなおじさんが舞台に出ていっていいのかしら」という不安が抑えきれません。
でもそこはそれ、ファンのみなさんの眼は舞台上の俳優さんやエンタテイナー性抜群の司会者さんにくぎづけなので、通訳者などまったく気になさらないはず(文楽や歌舞伎の黒子のようなものです)……と心に念じて舞台に出ます。それにまあ、ファンミーティング自体はとてもポップな雰囲気で、みんなで一緒に盛り上がろうという感じなので、こういうお仕事を初めて頂いた十年ほど前はともかく、今ではあまり緊張しなくなりました。
それよりもっと緊張するのは、イベントに先立って行われるメディア取材です。こちらは囲み取材や一対一のインタビューなどがあって、かなり細かい質問も出されるので、予習が欠かせません(まあどんなお仕事でも予習が八割・九割ですけど)。今回も全部で三十時間ほどあるドラマ全編を見て、ネットであれこれの情報を集めて本番に臨みました。
https://www.irasutoya.com/2016/12/blog-post_648.html
こうしたインタビュー通訳、先程パソコンのハードディスクを検索してみたら、最初に担当したのはもう十四〜五年ほども前のことでした。時が経つのは本当に早いです。またご本人を目の前にしてのインタビューの他に、芸能ニュースやバラエティ番組などでの発言を字幕にする仕事もずいぶんやりましたが、そのたびに感じるのは、台湾の俳優さんたち、それも年若いアイドルのみなさんが、いずれもかなりきちんとした話し方をされることです。
イベントの舞台上やバラエティ番組でのトークなどでは結構くだけたカジュアルな物言いをしていても、いざメディア取材とかインタビューの席になると、みなさんかなりきちんとした……というか、真面目なというか、ある意味「優等生的」というか、でもだからといって上っ面だけの薄っぺらい感じも少なく、あまり言いよどむこともごまかすこともなく、真正面から堂々と話されるのです。
もちろん、日本という「アウェイ」の外国に来ての発言だから多分に「よそ行き」のテイストは加わっているのかもしれません。通訳を介した会話だから、ふだんのノリが幾分かは抑制されるということもあるでしょう。例えば台湾の芸能ニュースで、台湾メディアの取材を受けている時の話し方を観察すると、「ホーム」での安心感もあるのか、多少はカジュアルな話し方に針が振れているような印象を持ちます。それでも基本、アイドルであろうと硬派の俳優であろうと、みなさんかなりロジカルにハッキリと自分の考えを述べるのです。
翻って日本のアイドルや俳優はどうかというと、このあたりの「訓練」、つまり話し方の訓練をあまりされていないような感じがします。もちろん個人差はありますが、なにかこうフィーリングというかその場のノリで感覚的なことを話し、あまりロジカルではない印象を持つのです。これはエンタテインメントの世界だけでなく、例えば野球やサッカーなどの選手に対するインタビューでも感じることです。
ただ、これも上述の状況とは逆に日本という「ホーム」での取材だから、多分にカジュアルになっているのかもしれません。日本のみなさんとて、海外で海外メディアの取材を受けるときにはそれなりに「よそ行き」になるのかもしれません。またここには主語が曖昧で、かつはっきりと言い切ることをどちらかというと避けたがる日本語の特徴が現れているのかもしれません。そこが英語同様に主語と動詞を先に出して「旗幟鮮明」にしたがる中国語との違いなのかもしれません。
さらに言えば、私にとって中国語は畢竟外語なので、そのぶんバイアスがかかっていることも考えられます。私は日本の映画やドラマに出てくる俳優さんの演技がとにかくリアリティがないので常々「毒を吐いている」のですが、これもまた自分が日本語の母語話者であるがゆえに、評価が厳しくなっている可能性がありますよね。
だから日本人はこう、華人はこう、と雑駁に決めつけることはできないのですが、かなり軽いノリのアイドルでも、正式なインタビューとなると「キリッ」とした面持ちで堂々とロジカルなことを述べる、述べることができるのはなぜなのかなといつも感じているのです。これはまた、常日頃華人留学生と接していても感じることです。小中学校や高校などで、こうした話し方の練習、あるいは意見表明の訓練を重ねているのかな? こんど留学生のみなさんにじっくり「インタビュー」してみたいと思います。
*1:interaction を意味する中国語です。ファンとの交流くらいのニュアンスです。