ss190930俺と隣の吸血鬼さんと泥んこのユニホーム
「朝夕涼しくなったよなぁ」
俺がぽつりとそう言うと
「そうですねぇ、秋ですね。
お昼に少し雨が降りましたけどね」
隣で散歩に付き合わせている吸血鬼さんが
答える。
そう、吸血鬼さん。
ひょんな事から知り合った俺達は、
俺が彼に食事提供(献血)をする代わりに
家事一切を引き受けてもらっている。
しかも、彼は食事(献血)をすると
目からルビーがでて、その分け前の半分を
俺にくれる太っ腹だ。
おかげで俺は、それまで勤めていたブラック企業と
おさらばして、定時定刻出社退社土日祝日有給全消化の
ホワイト企業に再就職。
しかも、吸血鬼さんの手作り料理でコンビニで命をつなぐ
生活ともさよならして、健康優良児と化している。
もちろん、そっちの方が吸血鬼さんにとっても喜ばしい
事なのでウィンウィンの関係だ。
そして最初に戻る。
「この辺りは緑が多いから散歩に最適ですよね」
「ああ、俺が詩人だったら何か創るんだが
あいにくその手の才能は無いからな」
俺は鼻の頭をかきながらそう答える。
「だったら詩集でも買ったらどうですか」
にこにこしながら答える吸血鬼さん。
「よしてくれよ。柄でもない。3秒で眠れる自信がある」
「ふふ、安眠剤代わりに買ってあげましょうか」
「俺は眠るの早いからいらねぇよ。
と、それよりあそこの公園で子供が一人でなんかしてるぞ」
「本当ですね。この小学生でしょうか。この時間はもう帰った
方がいいですね。声をかけましょう」
そこで俺達は公園の中に入って行った。
その子は独りで一生懸命サッカーの練習をしていた。
俺は声をかける。
「おい、坊主。もう暗くなったから危ない、家に帰れ」
すると少年は顔を上げて
「・・・今日、試合で負けたんだ。
だから駄目だった所を練習しているんだ」
暗くてよく見えなかったが、その子の着ている服は
泥だらけだった。
俺と吸血鬼さんは顔を見合わせた。
「それでも、おうちの人が心配しますよ。
携帯は持っていますか。
一度連絡をいれましょう」
吸血鬼さんが少年に提案する。
「おう、あともう少し練習させてくれって
言ってみろ。
俺達もつきあってやるから」
少年がハッと顔をあげた。
それから俺達は少年の練習に付き合った。
三人とも泥だらけになりながら。
そして、時間が来て別れた。
日はとっくに暮れている。
俺と吸血鬼さんは家への道を歩きながら
顔を見合わせた。
「あの子、将来プロサッカー選手になるかもな」
俺が言う。
「サインもらっておけばよかったですね」
「ああ、本当にそうだな」
「また、散歩しましょう。彼に会いに」
月が燦々と輝く道を進んでいったのだった。
了