AIで士業は変わるか? 【第19回】「ITの進化・AIの活用と会計事務所業界」 伊原 健人 – 税務・会計のWeb情報誌『プロフェッションジャーナル(Profession Journal)』|[PROnet|プロネット]
公開日: 2018/06/21 (掲載号:No.273)
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AIで士業は変わるか? 【第19回】「ITの進化・AIの活用と会計事務所業界」

筆者: 伊原 健人

カテゴリ:

AI

士業変わるか?

【第19回】

「ITの進化・AIの活用と会計事務所業界」

 

公認会計士・税理士 伊原 健人

 

最近、AIが話題となるケースが多く、人間に代わって迅速かつ正確な判断をしてくれるものとして期待されています。

テレビなどで最も目にするのは、車の自動運転でしょうか。AIがセンサーをもとに周囲の情報を収集・把握しながら、人間に代わって運転をしてくれるというものです。また、銀行の融資判断をAIが行ったり、会計監査における不正をAIが見抜く、というような見出しも見かけます。

 

1 ITの進化と会計事務所業界

これまでの会計事務所業界の仕事の内容や方法は、ITの進化とともに変化してきました。その昔は手で伝票を起こして手で集計していた作業が、パソコンの導入やソフト(システム)の開発によって、データさえあれば様々なものが自動的に集計され出来上がってくるようになりました。

この場合はデータの作成がポイントとなります。データを手で入力するのか、他のシステムなどから取り込むのか、データをいかに早く簡単に取得できるのかを考えることが大切です。データがあれば、消費税申告書などは会計ソフトが自動的に集計して作成してくれます。人の手は要りません。

会計データの入力という業務も、会計ソフトやシステム開発によって減少したものと思われます。

 

2 ITの進化とAIの活用

ただ、これらはITの進化であって、AIではありません。ITの進化なのか、AIの活用なのか、あまり区別せずに考えをめぐらせてしまいます(もしかすると、区別の必要はないのかもしれません)。

ITは今後も間違いなく進化を続け、業務の効率化がどんどん進み、会計事務所業界にとっては、人手不足を補ってくれるものになると思います。別の見方をすれば、会計事務所が行っている現行の業務自体は減っていってしまうとも言えます。

では、会計事務所業界では、AIはどのように活用されるのでしょうか。

例えば、売上システムデータや銀行データから自動的に仕訳データを起こし、決算書の作成や申告書の作成まで自動的にできるようにしていく、これはITの進化によるものです。データ連携やデータ集計の設定を詳細に行うことで、今後も間違いなく進んでいくことでしょう。

一方で、AIは知能ですから、状況を把握して自ら判断を行います。

例えば、クライアントから税務に関する質問がメールや電話で来たとします。このとき、ロボットがその質問を聞いて内容を把握し、「法人税基本通達の〇〇に取扱いが載っている」、または「国税庁のHPの〇〇に見解が載っている」など回答してくれるようになるというのは、そう遠くない将来に可能になるかもしれません。質問の内容が把握できれは,インターネット上にある情報を探し出してくれるのです。

すばらしいことではありますが、会計事務所は要らなくなってしまいます。会計事務所に質問する必要がなく、相談者が自分でAIに聞けばいいわけです。

 

3 過去の失敗・経験とAI

過去の失敗や経験から様々な判断をするような場合に、AIではどのように対応するのでしょうか。

この業界で仕事をしていると、失敗も含めた過去の経験が非常に役に立ちます。過去の経験を生かして、リスクを減らしながら業務をスムーズに行っていることが多いと思います。

もし、AIが過去の経験(過去データということになるのでしょうか)を記憶していて、それをもとにして即座に税務判断ができるようになると、それはもう人間と同じように考え判断しているわけで、完全に人に代わって仕事をしてくれるようになっています。

会計事務所では、ロボットを雇って作業をさせるだけになるということでしょうか。

 

4 AIの思考過程

ある事象に対してAIが何らかの回答を出した場合に、その回答に至る思考過程が不明ではないかという疑問が言われることがあります。状況を判断し、どのようにその回答に至ったのかをきちんと説明できないと、クライアントとの信頼関係をもとに業務を行っている会計事務所にとっては、大きな問題となります。

最適な回答を導き出しているとしても、どうしてそのように判断したのかが分からないと、その回答を信頼することができませんし、クライアントにそれを勧めることもできません。また、AIの出した回答を実行した場合に、それが結果的に上手くいかなかった場合の責任をどう考えるのかも難しい問題です。

会計事務所にとっては、AIがクライアントと直接やり取りをするというよりは、税理士のサポート役として上手く働いてくれるのかもしれません。

 

5 今後の会計事務所業界

正直なところ、AIがどこまで会計事務所の業務を行うようになるのか、筆者には想像がつきません。

ただ、インターネットや携帯電話・スマートフォンの出現によって、この20~30年の間にほぼすべての人の生活や働き方が大きく変わりました。劇的に変わったと言っても過言ではないと思います。それによって様々なことが効率化されてきました。

ITのさらなる進化とAIの活用によって、今後10年の間に働き方が再び大きく変わってくるように思われます。AIがどの程度活用されるのか、AIが現在の会計事務所の業務をどこまで代わりにやってくれるのかによって、会計事務所は大きく変貌していく可能性があります。

ただし、これは会計事務所業界だけの話ではなく、全ての業界に共通することのように思えます。

時代の流れはどんどん早くなっています(これを実感するとき、今後、世の中はどうなってしまうのか、という不安を感じることがありますが・・・)。今の時代は、世の中の流れに乗り遅れないように、頑張って着いていくことが大切なのかもしれません。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

AI

士業変わるか?

【第19回】

「ITの進化・AIの活用と会計事務所業界」

 

公認会計士・税理士 伊原 健人

 

最近、AIが話題となるケースが多く、人間に代わって迅速かつ正確な判断をしてくれるものとして期待されています。

テレビなどで最も目にするのは、車の自動運転でしょうか。AIがセンサーをもとに周囲の情報を収集・把握しながら、人間に代わって運転をしてくれるというものです。また、銀行の融資判断をAIが行ったり、会計監査における不正をAIが見抜く、というような見出しも見かけます。

 

1 ITの進化と会計事務所業界

これまでの会計事務所業界の仕事の内容や方法は、ITの進化とともに変化してきました。その昔は手で伝票を起こして手で集計していた作業が、パソコンの導入やソフト(システム)の開発によって、データさえあれば様々なものが自動的に集計され出来上がってくるようになりました。

この場合はデータの作成がポイントとなります。データを手で入力するのか、他のシステムなどから取り込むのか、データをいかに早く簡単に取得できるのかを考えることが大切です。データがあれば、消費税申告書などは会計ソフトが自動的に集計して作成してくれます。人の手は要りません。

会計データの入力という業務も、会計ソフトやシステム開発によって減少したものと思われます。

 

2 ITの進化とAIの活用

ただ、これらはITの進化であって、AIではありません。ITの進化なのか、AIの活用なのか、あまり区別せずに考えをめぐらせてしまいます(もしかすると、区別の必要はないのかもしれません)。

ITは今後も間違いなく進化を続け、業務の効率化がどんどん進み、会計事務所業界にとっては、人手不足を補ってくれるものになると思います。別の見方をすれば、会計事務所が行っている現行の業務自体は減っていってしまうとも言えます。

では、会計事務所業界では、AIはどのように活用されるのでしょうか。

例えば、売上システムデータや銀行データから自動的に仕訳データを起こし、決算書の作成や申告書の作成まで自動的にできるようにしていく、これはITの進化によるものです。データ連携やデータ集計の設定を詳細に行うことで、今後も間違いなく進んでいくことでしょう。

一方で、AIは知能ですから、状況を把握して自ら判断を行います。

例えば、クライアントから税務に関する質問がメールや電話で来たとします。このとき、ロボットがその質問を聞いて内容を把握し、「法人税基本通達の〇〇に取扱いが載っている」、または「国税庁のHPの〇〇に見解が載っている」など回答してくれるようになるというのは、そう遠くない将来に可能になるかもしれません。質問の内容が把握できれは,インターネット上にある情報を探し出してくれるのです。

すばらしいことではありますが、会計事務所は要らなくなってしまいます。会計事務所に質問する必要がなく、相談者が自分でAIに聞けばいいわけです。

 

3 過去の失敗・経験とAI

過去の失敗や経験から様々な判断をするような場合に、AIではどのように対応するのでしょうか。

この業界で仕事をしていると、失敗も含めた過去の経験が非常に役に立ちます。過去の経験を生かして、リスクを減らしながら業務をスムーズに行っていることが多いと思います。

もし、AIが過去の経験(過去データということになるのでしょうか)を記憶していて、それをもとにして即座に税務判断ができるようになると、それはもう人間と同じように考え判断しているわけで、完全に人に代わって仕事をしてくれるようになっています。

会計事務所では、ロボットを雇って作業をさせるだけになるということでしょうか。

 

4 AIの思考過程

ある事象に対してAIが何らかの回答を出した場合に、その回答に至る思考過程が不明ではないかという疑問が言われることがあります。状況を判断し、どのようにその回答に至ったのかをきちんと説明できないと、クライアントとの信頼関係をもとに業務を行っている会計事務所にとっては、大きな問題となります。

最適な回答を導き出しているとしても、どうしてそのように判断したのかが分からないと、その回答を信頼することができませんし、クライアントにそれを勧めることもできません。また、AIの出した回答を実行した場合に、それが結果的に上手くいかなかった場合の責任をどう考えるのかも難しい問題です。

会計事務所にとっては、AIがクライアントと直接やり取りをするというよりは、税理士のサポート役として上手く働いてくれるのかもしれません。

 

5 今後の会計事務所業界

正直なところ、AIがどこまで会計事務所の業務を行うようになるのか、筆者には想像がつきません。

ただ、インターネットや携帯電話・スマートフォンの出現によって、この20~30年の間にほぼすべての人の生活や働き方が大きく変わりました。劇的に変わったと言っても過言ではないと思います。それによって様々なことが効率化されてきました。

ITのさらなる進化とAIの活用によって、今後10年の間に働き方が再び大きく変わってくるように思われます。AIがどの程度活用されるのか、AIが現在の会計事務所の業務をどこまで代わりにやってくれるのかによって、会計事務所は大きく変貌していく可能性があります。

ただし、これは会計事務所業界だけの話ではなく、全ての業界に共通することのように思えます。

時代の流れはどんどん早くなっています(これを実感するとき、今後、世の中はどうなってしまうのか、という不安を感じることがありますが・・・)。今の時代は、世の中の流れに乗り遅れないように、頑張って着いていくことが大切なのかもしれません。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

AIで士業は変わるか?
(全20回)

  • 【第7回】 デジタルで実現する未来の会計監査
    加藤信彦(新日本有限責任監査法人 アシュアランス・イノベーション・ラボ 統括責任者、公認会計士)
    小形康博(新日本有限責任監査法人 アシュアランス・イノベーション・ラボ、公認会計士)

筆者紹介

伊原 健人

(いはら・たけひと)

公認会計士・税理士

昭和62年3月 東北大学 経済学部 経営学科 卒業
昭和62年4月 日産自動車株式会社 入社(経理部配属)
平成3年 税理士登録
平成6年 公認会計士第二次試験 合格(会計士補 登録)
平成10年 公認会計士第三次試験 合格(公認会計士 登録)

監査法人原会計事務所を経て、現在 鳳友税理士法人 代表社員

税務やM&A案件等、多岐に渡る経営コンサルタント業に従事すると共に、TAC株式会社では、多数の研修講師を担当し、各地の商工会議所、税務研究会主催研修講師など多方面にて活躍中。

【主要著書】
「勘定科目 逆引きコンパクト事典」(TAC出版)
「法人税の実務」(TAC出版)
「法人税別表4、5(一)(二)書き方 完全マスター」(TAC出版)

関連書籍

生産性向上のための建設業バックオフィスDX

一般財団法人 建設産業経理研究機構 編

図解&条文解説 税理士法

日本税理士会連合会 監修 近畿税理士会制度部 編著

CSVの “超” 活用術

税理士・中小企業診断士 上野一也 著

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資産税コンサル、一生道半ば

税理士 株式会社タクトコンサルティング会長 本郷尚 著
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