谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第29回】「国税通則法74条の9・74条の10」-事前通知の意義と例外- 谷口 勢津夫 – 税務・会計のWeb情報誌『プロフェッションジャーナル(Profession Journal)』|[PROnet|プロネット]
公開日: 2024/08/08 (掲載号:No.581)
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谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第29回】「国税通則法74条の9・74条の10」-事前通知の意義と例外-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

国税通則法構造手続

【第29回】

「国税通則法74条の9・74条の10」

-事前通知の意義と例外-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

国税通則法74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)

(納税義務者に対する調査の事前通知等)

第74条の9 税務署長等(国税庁長官、国税局長若しくは税務署長又は税関長をいう。以下第74条の11(調査の終了の際の手続)までにおいて同じ。)は、国税庁等又は税関の当該職員(以下同条までにおいて「当該職員」という。)に納税義務者に対し実地の調査(税関の当該職員が行う調査にあつては、消費税等の課税物件の保税地域からの引取り後に行うもの又は国際観光旅客税について行うものに限る。以下同条までにおいて同じ。)において第74条の2から第74条の6まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求(以下「質問検査等」という。)を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者(当該納税義務者について税務代理人がある場合には、当該税務代理人を含む。)に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする。

一 質問検査等を行う実地の調査(以下この条において単に「調査」という。)を開始する日時

二 調査を行う場所

三 調査の目的

四 調査の対象となる税目

五 調査の対象となる期間

六 調査の対象となる帳簿書類その他の物件

七 その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項

2 税務署長等は、前項の規定による通知を受けた納税義務者から合理的な理由を付して同項第1号又は第2号に掲げる事項について変更するよう求めがあつた場合には、当該事項について協議するよう努めるものとする。

3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 納税義務者第74条の2第1項第1号イ、第2号イ、第3号イ及び第4号イ並びに第74条の3第1項第1号イ及び第2号イに掲げる者、第74条の4第1項並びに第74条の5第1号イ及びロ、第2号イ及びロ、第3号イ及びロ、第4号イ及びロ、第5号イ並びに第6号イの規定により当該職員による質問検査等の対象となることとなる者並びに第74条の6第1項第1号イ及び第2号イに掲げる者

二 税務代理人税理士法第30条(税務代理の権限の明示)(同法第48条の16(税理士の権利及び義務等に関する規定の準用)において準用する場合を含む。)の書面を提出している税理士若しくは税理士法人又は同法第51条第1項(税理士業務を行う弁護士等)の規定による通知をした弁護士若しくは同条第3項の規定による通知をした弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人

4 第1項の規定は、当該職員が、当該調査により当該調査に係る同項第3号から第6号までに掲げる事項以外の事項について非違が疑われることとなつた場合において、当該事項に関し質問検査等を行うことを妨げるものではない。この場合において、同項の規定は、当該事項に関する質問検査等については、適用しない。

5 納税義務者について税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合として財務省令で定める場合に該当するときは、当該納税義務者への第1項の規定による通知は、当該税務代理人に対してすれば足りる。

6 納税義務者について税務代理人が数人ある場合において、当該納税義務者がこれらの税務代理人のうちから代表する税務代理人を定めた場合として財務省令で定める場合に該当するときは、これらの税務代理人への第1項の規定による通知は、当該代表する税務代理人に対してすれば足りる。

国税通則法74条の10(事前通知を要しない場合)

(事前通知を要しない場合)

第74条の10 前条第1項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第3項第1号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第1項の規定による通知を要しない。

 

1 はじめに

事前通知制度について、その導入の背景・経緯を含め、次のとおり、簡にして要を得た解説がされている(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1001頁)。

従来は、質問・検査の日時・場所・理由等を事前に相手方に通知ないし開示しなければならないかどうかについては、争いがあり、判例は消極に解してきた。これに対しては、「調査理由等の告知は、明文の規定をまたず憲法31条の解釈上当然に必要でこれを欠く質問・検査は違法である、と解することはできないとしても、質問・検査が公権力の行使であることにかんがみると、立法上・行政運営上その手続的整備の必要性は大きい」といった指摘が強くなされていた(例えば本書の第16版まで)。平成23年度改正では、この点につき、次の規定[=税通74条の9及び74条の10]が設けられた。

事前通知制度の導入は、行政調査手続一般との関係でも、次のとおり、高く評価されている(曽和俊文「税務調査判例の展開と行政調査論」論究ジュリスト3号(2012年)47頁、55頁)。

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国税通則法構造手続

【第29回】

「国税通則法74条の9・74条の10」

-事前通知の意義と例外-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

国税通則法74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)

(納税義務者に対する調査の事前通知等)

第74条の9 税務署長等(国税庁長官、国税局長若しくは税務署長又は税関長をいう。以下第74条の11(調査の終了の際の手続)までにおいて同じ。)は、国税庁等又は税関の当該職員(以下同条までにおいて「当該職員」という。)に納税義務者に対し実地の調査(税関の当該職員が行う調査にあつては、消費税等の課税物件の保税地域からの引取り後に行うもの又は国際観光旅客税について行うものに限る。以下同条までにおいて同じ。)において第74条の2から第74条の6まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求(以下「質問検査等」という。)を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者(当該納税義務者について税務代理人がある場合には、当該税務代理人を含む。)に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする。

一 質問検査等を行う実地の調査(以下この条において単に「調査」という。)を開始する日時

二 調査を行う場所

三 調査の目的

四 調査の対象となる税目

五 調査の対象となる期間

六 調査の対象となる帳簿書類その他の物件

七 その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項

2 税務署長等は、前項の規定による通知を受けた納税義務者から合理的な理由を付して同項第1号又は第2号に掲げる事項について変更するよう求めがあつた場合には、当該事項について協議するよう努めるものとする。

3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 納税義務者第74条の2第1項第1号イ、第2号イ、第3号イ及び第4号イ並びに第74条の3第1項第1号イ及び第2号イに掲げる者、第74条の4第1項並びに第74条の5第1号イ及びロ、第2号イ及びロ、第3号イ及びロ、第4号イ及びロ、第5号イ並びに第6号イの規定により当該職員による質問検査等の対象となることとなる者並びに第74条の6第1項第1号イ及び第2号イに掲げる者

二 税務代理人税理士法第30条(税務代理の権限の明示)(同法第48条の16(税理士の権利及び義務等に関する規定の準用)において準用する場合を含む。)の書面を提出している税理士若しくは税理士法人又は同法第51条第1項(税理士業務を行う弁護士等)の規定による通知をした弁護士若しくは同条第3項の規定による通知をした弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人

4 第1項の規定は、当該職員が、当該調査により当該調査に係る同項第3号から第6号までに掲げる事項以外の事項について非違が疑われることとなつた場合において、当該事項に関し質問検査等を行うことを妨げるものではない。この場合において、同項の規定は、当該事項に関する質問検査等については、適用しない。

5 納税義務者について税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合として財務省令で定める場合に該当するときは、当該納税義務者への第1項の規定による通知は、当該税務代理人に対してすれば足りる。

6 納税義務者について税務代理人が数人ある場合において、当該納税義務者がこれらの税務代理人のうちから代表する税務代理人を定めた場合として財務省令で定める場合に該当するときは、これらの税務代理人への第1項の規定による通知は、当該代表する税務代理人に対してすれば足りる。

国税通則法74条の10(事前通知を要しない場合)

(事前通知を要しない場合)

第74条の10 前条第1項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第3項第1号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第1項の規定による通知を要しない。

 

1 はじめに

事前通知制度について、その導入の背景・経緯を含め、次のとおり、簡にして要を得た解説がされている(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1001頁)。

従来は、質問・検査の日時・場所・理由等を事前に相手方に通知ないし開示しなければならないかどうかについては、争いがあり、判例は消極に解してきた。これに対しては、「調査理由等の告知は、明文の規定をまたず憲法31条の解釈上当然に必要でこれを欠く質問・検査は違法である、と解することはできないとしても、質問・検査が公権力の行使であることにかんがみると、立法上・行政運営上その手続的整備の必要性は大きい」といった指摘が強くなされていた(例えば本書の第16版まで)。平成23年度改正では、この点につき、次の規定[=税通74条の9及び74条の10]が設けられた。

事前通知制度の導入は、行政調査手続一般との関係でも、次のとおり、高く評価されている(曽和俊文「税務調査判例の展開と行政調査論」論究ジュリスト3号(2012年)47頁、55頁)。

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連載目次

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同「日税研究賞」選考委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)、『基礎から学べる租税法〔第3版〕』(共著・弘文堂・2022年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社、2023年)など。
 
  

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