ルガーP08についての覚書 その11 : Products ZEKE 切削ブログ
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ルガーP08についての覚書 その11

つい先日「X」で数名の方と打刻印の再生についてやり取りが有ったのですが、丁度J.R氏が書かれた「ルガーP08についての覚書 その11で、打刻印を取り上げたと言う事でw、J.R氏の書かれた日記を転載許可を頂き掲載させて頂きました。



今日のはかなりマニアックな話で、興味ない人には絶対面白くないですからね。念のため。

書店で今月号の「ガンプロフェッショナル」の表紙が眼に入った。
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 なんとも珍しく、ルガーだ。素晴らしい。


 以前も日記に書いたが、最近はプラスティックの銃ばかりで、
メーカー違ってもみんなグロックにしか見えないハンドガンばかりで、
わたしのような鉄製の銃を見ながら育った世代にはどうにも受け入れられない。


だから、珍しくも鉄製のちゃんとしたルガーが表紙と言うのは、それだけで胸がときめく。

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 よく見ると「Luger P08 1936」と出ている。


 「1936」ということは、1936年製のルガーP08か。
時期的にはモーゼル社製のトグル刻印が「S/42」のものだろう。



元々、ルガーのトグルには製造していたDWM社、エルフルト社のメーカーエンブレムが打刻されていた。

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DWM社。花文字でしゃれたデザインで、ルガーと言えばこの刻印がいちばん人気がある。

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 製造が追いつかなくなったために追加されたエルフルト社の刻印。 エルフルト社の王冠マークだ。



 第一次大戦が終了すると、ドイツは軍用の武器製造を禁じられたため、DWM社とエルフルト社は、わずかに認められた警官用に細々とルガーを作っていた。

 しかし、それでは儲からない。

 1922年にはDWM社は解体され、BKIW(Berlin Karlsluher industrie werke)社としてより小規模に再生された。
もう1社のエルフルト社はシムソン社に工作機器を売却して手を引いた。


 1928年、BKIW社はアドルフ・ヒトラーに近いクヴァント財閥グループに買収された。
1929年、せっかく残っているルガーの工作機械を活用するため、クヴァントグループでは旧DWM社傘下のモーゼル社工場に工作機械を移管して、やはり民間用に製造を始めた。
DWM社時代の完成品4000挺、DWM刻印済のパーツも大量にあったので、製造再開されたルガーP08にはDWM刻印がトグルに打たれている。

 やがてDWM社製パーツも使い尽くした1933年、アドルフ・ヒトラー率いるナチス党が政権を取ってひそかに再軍備を進め始めると、軍用のルガーがモーゼル社に発注された。この1934年の製造分からモーゼル社独自の刻印がトグルに打刻されるようになった。

 したがって、1929年から1933年頃までモーゼル社で製造されたルガーのトグルには「DWM」と打刻されていたが、1934年から製造されたモーゼル社製ルガーのトグルには政府から与えられた秘匿コード「S/42」か「42」が打刻されている。

 また、製造年もヴェルサイユ条約の関係で秘匿され、1934年の製造年秘匿コード「K」、1935年には製造年秘匿コード「G」とチャンバー上に打刻されていたが、
ヴェルサイユ条約を破棄した1936年からは堂々と製造年を「1936」と打刻し始めた。
以後、「1937」「1938」と製造年はチャンバー上に打刻され、最終製造の「1942」まである。

 なお、エルフルト社の工作機械を引き継いだシムノン社はユダヤ系のためにナチス政権から迫害を受けて、BSW社へ合併させられたが、シムノン刻印のルガーを1934年に1万挺だけ作って軍用として納品している。
さらにBSW社からルガーの工作機械を買い入れたクリーグホフ社は空軍用に13000挺ほどのルガーをクリーグホフ社刻印で納品している。



 以下にモーゼル社ルガー刻印を整理する。

 1929年から1933(あるいは1934年初め)まで、モーゼル社製造のルガーのトグルには「DWM」が打刻されていた。

 1934年から1942年まではモーゼル社の秘匿コード「S42」「42」、1941年頃からは「byf」とトグルに打刻されていた。

 チャンバー上には1929年から1933年までは製造年。1934年は秘匿コード「K」、1935年は秘匿コード「G」、1936年から1940年は4ケタの製造年、1941年と1942年は「41」「42」と下2ケタを打刻。


特に軍用としてモーゼル社に発注された1934年以降のルガーのチャンバー上製造年度とトグル上モーゼル社刻印は以下のような組み合わせになる。


1934年 K S/42

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 「K date」と呼ばれ、1万挺しか作られてないのでモーゼル社製軍用ルガーの中では人気が高い。
マルシンはこれをモデルガン化している。

1935年 G S/42

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 「G date」。57500挺が製造されたが、「K date」についで人気がある。


1936年 1936 S/42

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 ここから堂々と4ケタの製造年月をチャンバーに打刻している。


1937年 1937 S/42

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 ZEKEブランドで全真鍮モデルガンとして製作されたのはこれだ。


1938年 1938 S42

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1939年 1939 S/42
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1940年 1940 42
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この年からモーゼル社の秘匿コードが「42」になる。

1941年 41 42
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この年から製造年が下2けたになる。
 また、このあたりからグリップが木製からベークライト製プラスティックになる。

1941年 41 byf
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1941年の途中からモーゼル社の秘匿コードが「byf」になる。
 また、このあたりからマガジンボトムも銀色のアルミニュウムから黒いベークライトになる。
これにより、グリップとマガジンボトムが黒くなり、全身真っ黒のルガーが登場した。

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戦後、アメリカではこの時期のルガーを「ブラックウィドウ(黒衣の未亡人)」と呼び、特に人気があった。

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MGCは、トーマス・B・ネルソンの要望でこれをモデルガン化している。

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アメリカでのMGCモデルガン輸出販売を仕切っていたネルソンは
アメリカではブラックウィドウが売れると考えていたのでそう頼んだのだ。
ヨーロッパから集めた中古のルガーをアメリカで販売していたのも彼だ。
後に、スイスにあった工作機械を利用して再度ルガーを「モーゼルパラベラム」として
製造販売している。これについても、だいぶ以前、峰不二子と共に書いている。
(写真、左から、神保さん、ネルソン氏、タニコバさん。)


1942年 42 byf
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モーゼル社最終製造モデル。

 これを最後にモーゼル社でのルガー製造は終わり、ワルサーP38の製造へ移行した。
モーゼル社の129ミリショートフレーム、130ミリロングフレーム、
そしてモーゼルハンプについては以前、詳解しているのでここでは触れない。



 さて。

 「ガンプロフェッショナル」ではルガーの記事は久しぶりだ。

 いやあ、うれしい。第二次大戦の武器で育ったわたしたちの世代には、やっぱり、ルガー、ワルサーP38、モーゼルミリタリーだ。

 青黒い鉄の肌を見るだけでうれしい。エッジが立った鋼鉄製のレシーヴァー、メインフレーム。メカニカルな細部。

 プラスティックでぐしゃぐしゃしたグロック系のおもちゃみたいなやつらとは違う。

 これぞ、ハンドガンだ。こうじゃなくっちゃいけねえ。

 なんか、1970年代から1990年代の「Gun」誌を読んでいるみたいで、とにかくうれしい。

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しかも、メインフレームに打刻されたシリアルナンバーは「9337 m」であり、
各パーツに打刻された下2ケタは「37」はすべて一致していて、パーツ交換はなさそうだ。
仕上げもいいし、特に磨き直したような不自然な光沢もないし、素晴らしい状態だ。



 記事によれば、戦後アメリカのインターアームズ社から輸入されたもので、刻印が打たれているそうだ。

 インターアームズ社とは、先に触れたトーマス・B・ネルソンが設立した会社で、
当時ヨーロッパからルガーP08やワルサーP38など戦地帰りのGIに人気のハンドガンや長物を輸入して手広く販売していた。

 ルガーを眺めているだけで半日過ごせる。

 ぐふふ。

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ええのぅ、DWMの花文字。


 美しいのぅ。

 うーん。

 ・・・・・。

 あれ。

 あれれ。

 わたしは目が止まった。

 DWM ?

 DWMの刻印 ?

 だって、これ、1936年製だろ。

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チャンバーに「1936」って打刻されてるやん。


 でも、トグルには「DWM」って打刻されてる。

 1936年にDWM社で製造された ?

 そんなわけないやん。

 DWM社は1922年に解体されてる。

 1936年にルガー作ってるのはモーゼル社とクリーグホフ社だけど、クリーグホフ社は「DWM刻印」とは関係ない。

 だから、こいつはモーゼル社製ってことになるんだけどさ。

 おかしいやん。1936年にモーゼル社で製造されたルガーのトグルには「S/42」と打刻されているはずやん。

 えっ ? モーゼル社に残っていた「DWM社刻印」のパーツを使った ?

 いやいや、そんなん、とっくに1933年までに使い果たしていて、モーゼル社では自分ところ用に軍から指定された秘匿コードの「S/42」を打刻していたんだから、そんなわけないやん。

 同時に製造していた民間用じゃないかって ?


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いやいや、ちゃんとバレルの根元に横三列に並んで軍用プルーフマークがついてるよ。

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ドイツ軍の確かに受領したし検査したというマークだよ。


 1936年に軍用としてモーゼル社で作られたルガーP08だよ。

 だが、なんでトグルに「DWM社刻印」 ?


 実銃P08を握ったことも射ちまくったこともないのに、洋書だけの知識で言ってはなんだが、たとえば。


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わたしがいつもルガー調べるときに参照する「The Luger story(1995年出版)
何冊もルガーの本書いてるJhon Walterの比較的最後の頃の研究本だ。

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これには巻末の一覧の「Mauzer 1936-9 」の項目では「tgl(トグル)」欄に簡単に「S/42」とだけある。

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2010年に刊行された「The MauzerParabellum 1930-1946」という本。

注釈:余談だがこの本は現在絶版になっており、海外オークションでも今は15万円程度の値札が付く、
https://www.ebay.com/itm/315500563958?
弊社も勿論所有しているが米国ガンショーにて100ドル程度の頃に購入した。
酷い価格になると5000ドルもの値札を付ける輩がw
https://www.abebooks.com/9780982690307/Mauser-Parabellum-1930-1946-Analysis-Million-0982690304/plp


 DonRHallockJoopvandehantという超マニアックなコレクターが共同で執筆したものだが、
さすがにネットが普及してルガーの現物が取引されている現代の書籍だ。
1960年代から1980年代までの古典的なルガー本をはるかに凌駕する情報量で、
少なくとも第一次大戦後のモーゼル社製ルガーに関しては、
もうこれ以上の本は出ないだろうと思われる圧倒的な代物だ。
この中で、1930年代のモーゼル社製ルガーを各年ごとに現物を何挺も比較検証して
パーツ形状や刻印を徹底的に網羅している。


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1936年の項目でも代表的な2挺と他の個体を調査したパーツごとの特徴、
細かい刻印の差などの写真を比較掲載している。

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「圧倒的じゃないか。」


 凄い。本物のP08が触れない日本では考えられないほどの内容だ。


 もちろん。


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ここでも1936年製モーゼル社製ルガーは「ぜんぶS/42刻印」だと明記されている。
書体によって2種類あるが、少なくとも「DWM社刻印」なんかない。

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ルガー本体フレームに打刻されたシリアルナンバー「9337 m」は、
ちゃんとそのレンジに入ってるから間違いないだろう。

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数字が1000に達するとアルファベット順に振られるサフィックスナンバー「m」も字体はおんなじだ。


 少なくとも、メインフレーム関連は1936年モーゼル社製で間違いない。

 では、トグルの「DWM社刻印」、あの花文字は何なのか。

 トグルのパーツだけ花文字入りに取り換えた ?


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いやいや。ちゃんとシリアルナンバーの下2ケタ「37」は打刻されている。
これがすべて一致しているからマッチナンバーモデルとしてパーツ交換がない高価なモデルとして珍重されるのだ。



 よく見なさい、ちゃんと「37」ではないか。


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あれ。

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なんだ、この安いヤスリで乱暴に削ったような跡は。
これがモーゼル社の仕上げか。

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少なくとも戦前のルガーの仕上げは丁寧だぞ。

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戦争始まってから仕上げは落ちたけど、
全体に機械加工のまっすぐな研磨痕が残ってるから、
一部だけ斜めのヤスリがけの痕なんか残っちゃいない。



 ・・・・・。


 いやいや、トグル関係はもう一ヵ所シリアルナンバーが打刻してある。


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この、トグルパーツ群のいちばん後ろだ。

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見よ、ちゃんと「37」と打刻してあるではないか。

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あれ。

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なんだか、とても見にくい。はっきりと読めない。
それは打刻した部分がへこんでるからだ。「3」の下がへこんでて、見えにくい。
7」の裏もへこんでるんじゃないか。これは、どう考えても数字の下を一度削ってる。



 そもそも、打刻された数字の字体がちょっと違う。


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これはメインフレーム。ここだけは4ケタなので他と違う。大物パーツだからこれだけ別に打刻している。

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これは左サイド。ほとんどの細かなパーツはこの字体だ。組み立てながらコンコン打刻している。

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トグルのは細かな下2ケタパーツとは違う字体だ。細かいパーツ類とおんなじはずなんだが。




 すいぶん前にレア中のレアものであるスパンドウルガーのときに触れたが、安物の個体をベースにして、コレクターが欲しがる高価なモデルを複製するのは1960年代のアメリカではよくあった話だ。
もちろん現代では情報量が増えてその手のまがい物はすぐに見破られる傾向にはあるが、絵画の贋作と同様、完全になくなることはない。
たぶん、今でも技術は高度に発達して続いているのではないかと思う。

(注釈:贋作で有名な日本軍採用の菊ルガーなんてブツもこんな頃のマガイ物なんでしょうね。)

 恐らくである。

 このモデルは、1936年のモーゼル社製ルガーの、トグル部分だけをDWM社製に交換したのではないかと思う。
下半身は本物だ。
製造社の刻印が打刻されるルガーではもっとも華やかな部分、トグル関連のパーツのみ、そっくり交換した、と考えるのが自然だろう。

 ただし、パーツに打刻された下2ケタの数字は違ってしまうので、これを打ち換えねばならない。

 これは1960年代からルガーの贋作を作り続けてきたアメリカの長い歴史の中では基本中の基本であり、打刻するために字体を同じにしたプルーフマークや数字、アルファベットの打刻印は、今でもebayで堂々と売られている。


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金ヤスリでオリジナルの刻印を削り取る、あるいはドレメルで掘り下げて削り取り、これで打ち換えるのだ。

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これは金ヤスリでゴシゴシ削ってなるべく平らにしてから新たにガツンと数字を打刻したのだろう。

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これはドレメルで数字の部分だけ掘り下げて消し、その上から新しい数字を打刻したのだろう。


 なんでここはドレメルかと言うと、この部分、曲面になってるのである。
平べったい金ヤスリで削ると不規則な段がつくので、ワンポイントでドレメルの先端で削ったのだろう。
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ドレメルってこれね。



 ドレメルで数字だけ削ると、どうしてもその部分がくぼんでしまうので、贋作見慣れている人たちにはすぐバレる。


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これは今でも高価なスパンドウルガーの贋作で、プルーフマークを再打刻しようとしてドレメルで削っている。

これはやりすぎですぐわかるが、この程度の代物は1960年代には多かった。
少なくとも1970年代にはドレメル使用は既に贋作用再打刻の常套手段として認識されているから、現代においてはよっぽどのバカな素人以外はやらない。
と、いうことは、このナンバーを打ち換えたのは、かなり以前の話。たぶん、1960年代から1970年代じゃないのかと思う。


 トグルの上の乱暴なヤスリがけとその仕上げも、あまりに幼稚だ。こんな横へのやすり痕を残して平気なんだから、その贋作の腕も推して知るべしだ。

 真面目にダマすつもりなら、もう少し、丁寧に番手を上げて細かい紙やすりで仕上げて、最後はコンパウンドで磨くくらいのことはしなくちゃならない。

 これらの痕跡からも、かなり以前の仕業だと推定できるのである。

 記事にあるように、これにはインターアームズ社の刻印があったというから、1960年代から1970年代にかけて、ヨーロッパに残っていたルガーをインターアームス社が回収し、多少仕上げ直してアメリカへ輸入、当時は今よりも熱かったルガーコレクターたちに販売していた頃のものだろう。


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196612月号の「American Rifleman」の広告。

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ルガーを60ドルで売ってる。どこの会社製だ、刻印がどうだ、とか関係ない、「ルガー欲しい人」向けだ。



 この時代に、トグルの交換とナンバー刻印の打ち直しが行われた可能性は高い。


 ナンバー打ち換えの痕跡が1ヵ所ならともかく、レシーヴァーからフレームからたくさん打刻はあるのに、よりによってトグルの打刻で2か所、妙な痕跡がある、という点で、これは「真っ黒」だと判断せざるを得ない。


 いったい誰がやったのか。

 まず考えられるのはインターアームズ社。モーゼル社製1936=S/42モデルのトグル部分にダメージがあったので、健全なレシーヴァーを生かしてトグル部分だけ交換した。たまたまそれが「DWM社刻印」だった。広告のようにもたかだか60ドル(当時のルガーとしても安い)で売るのでこだわらない。


 もうひとつは、インターアームズ社が「DWM社刻印の方が人気がある」と考えて、あえて傷もない「S/42トグル」を外して、「DWMトグル」に交換して販売した。
確かにルガーの中で人気があるのは今でも「DWM社刻印」モデルだろう。販売価格を上げるためにそうするのも容易に想像できる。


 さらに考えられる、というより、いちばん可能性の高いのは、インターアームズ社はそのまま「S/42トグル」として輸入したが、取扱業者がもっと高値で売ろうと、手持ちの「DWM社トグル」に交換して販売した。

 前述のように1960年代は特に熱狂的なルガーコレクター相手に贋作がひんぱんに登場した時代だ。

 まだ情報量が少なかったから、ガンショーなどで「お客さんお客さん、あなただけにこの貴重なルガーを売ってあげますよ。」とささやく悪徳業者は多数いたと思われる。
誰かが「明日のガンショーに間に合わせなくっちゃ。」と急いでガリガリ削って、手持ちのスタンプで字体もかまわずにダンダン打刻し、「こんなもんだろ。」とガンブルーをブッかけた。

 これらのいずれかではないのかなあ、と50年以上経過した今、わたしは推測するのである。

 これ以上は、素人のわたしとしては書くのをやめておくが、今までも日記で何回も触れてきたように、ルガーは奥深い。
人を引きずり込む沼のようなものだ。一度ハマると脱出しようにもどんどんハマり、抜け出せない。


 いずれにせよ、久しぶりにルガーを取り上げていただいたのは大変うれしい。ありがたいことだ。ルガーの素性なんかいいや。

 ああ、ルガー、ルガー、ルガー。


 またルガー風邪を引いたような気がする。 


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(注釈:これは弊社製真鍮削出しモデルガンP.08@4&8インチ)



注釈:記事を読んで正直な感想を述べると、WW1戦後製造とハッキリわかる「K&G製造年ダミー以降の1936レシーバー」に「DWM刻印トグル」が付いてて、これがガッチャマンだと気が付かずに?逸品だ!と表紙に掲載してしまうライター&編集者レベルが「プロフェッショナル」なのか(^^;と残念に思いました。


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by products-zeke | 2024-09-02 09:41 | 雑記・忘備録 | Comments(0)

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