前回のM29@6.5インチの感想を日記で書いていただいたJ.R氏に、改めてM29@8-3/8インチについて書いて頂きましたので、その日記を転載させて頂きました。
「M29@8-3/8インチ」は11月中の発売です。研磨都合で2回の分納になります。ハンマー&トリガーセットは別売りです。
銃を欲しくなったトラヴィスは、仲間から紹介されて、許可証なしで銃を売るガン・ディーラーの"イージー"アンディを紹介された。
「44マグナムはあるかい ? 」
噂に聞いた強力なハンドガンを欲しいトラヴィスは、
アンディに尋ねる。
「あるけど高いよ。」
アンディがでっかいトランクを開くと、
そこには様々なハンドガンがぎっしり詰まっていた。
言わずと知れた、1976年の映画「タクシードライバー」だ。
この映画が、当時の日本の青少年たちに、どんな革命的かつ壊滅的な影響を与えたかは、リアルタイムに体験していないと、絶対に皮膚感覚として理解しえないだろう。
1976年「タクシードライバー」公開の少し前。
ちょうど1971年から1972年にかけての「ダーティーハリー」「ダーティーハリー2」と、昭和46年規制第一次モデルガン規制によって生まれたMGC製プラスティックモデルガンの44マグナムの発売。当時の日本の刑事ドラマの登場人物たちが一斉に44マグナムを握って射ちまくりだしたこと。娯楽の少ない当時、金属モデルガンには手が出なかった中高生たちが、安いプラの44マグナムには手が届いたこと。
それらが混然一体となって、
1970年代初めの日本中にマグナムブームを生みだしていた。
MGCは、1972年(昭和47年)に発売したハイウェイパトロールマンに続き、6.5インチバレルを持つ44マグナムを発売した。当初は6.5インチのみで、しかもマグナタイプの小さいグリップがついていたので、正直イマイチで、みんな金属コンバットマグナム用のオーヴァーサイズグリップに交換していた。
マグナムマグナムマグナム。
「マグナム44(まぐなむよんじゅうよん)」と俗称された当時。
もう、ディティクティブやチーフスペシャルなんぞ、
みんなどっかへすっ飛んでしまった。
より長い銃身のカッコいい8・3/8インチはMGCも発売していなかったので、どうしても欲しいなら、継ぎ足しで伸ばしたバレル付きのTMG製貫通シリンダー付後撃針カスタムしかなかった。
でも、MGCがそのままで黙っているわけがない。
ようやくMGCから、8インチが発売される。
まだ、8インチでも「ダーティハリー」がキャラクターだった。
そして、その直後の1976年。
「タクシードライバー」が台風のように
周囲のすべてを蹴散らしながらアメリカからやってきた。
突如、あのハリー・キャラハンでさえ健全に見えてしまう、
より青少年に身近な心象風景を持つダークヒーローが現れたのである。
「ふはははははは。」
「この街は腐っている」「ひどい臭いで頭が痛い」などと、ブツブツつぶやく様子が、退廃的なものにあこがれる、現代でいうところの中二病にかかりやすいおバカな中高生たちの脳髄を直撃したのだ。
わたしは劇場で44マグナム8インチを観て、その迫力に驚愕した。コーフンして家に帰ったわたしは、それまで、6インチに比べてあまり握らなかった8インチを引っ張り出すと、鼻息も荒く、壁へ向けて構えた。
「ダーティーハリー」のマネをするには外に出て44マグナムを構えなければならない。しかし、「タクシードライバー」なら、自分の部屋に閉じこもって44マグナムを握りしめながら日記を書くか、自分専用の小さいブラウン管TVを観ていればなりきれるのである。
今の欝々と、そして漠然とした不満と不安を抱える高校2年の自分そのものではないか。
そして、MGCの44マグナム8インチを握れば、劇中のトラヴィスになりきれるではないか。
「頭が痛くなる。」
「この街は腐ってる。」
なんて、アブない高校生だったことだろう。
わたしは、このロバート・デ・ニーロが44マグナムを構えたMGC製作の44マグナム8インチ用大型ポスターを部屋に張り、まだ当時はアメリカ製の実物のホルスターなんか買えないから、しかたなく先っぽの開いたフリーサイズの安い玩具協同組合のショルダーホルスターを上半身裸の上につけ、不敵に笑いながらMGC製44マグナムを構えたのである。
いや、笑うなかれ。日本中でいったい何百人のトラヴィスがMGC製44マグナムを上半身裸で構えたと思ってるんだ、そんな馬鹿なと笑うあんたは。
アンディが開いたトランクには、
美しいブルーフィニッシュの
S&WM29の8・3/8インチが寝そべっていた。
サイドプレートのフレームのはまり具合が、実に美しい。
既にトリガーガード前のスクリュウはなくなっているタイプだ。
カメラは舐めるようにそのスラリと長い銃身を追う。
どこの映画用銃器会社で借りたのか、マズル周辺のブルーが落ちていて、
かなりホルスターから抜き差しした代物だ。
裏ガンディーラーを演じるのはスティーヴン・プリンス。監督のマーティン・スコセッシの友人だ。実際に重度の麻薬中毒だった経歴があり、この映画の2年後、「American Boy: A Profile of Steven Prince」という、彼を主人公としたドキュメンタリーを撮影している。ちょっと病的な雰囲気は、自身のそれまでの体験を醸し出している。素人には絶対出ない。
左利きのようで、左手でシリンダーを振り出す。そして・・・・・。
右手で、「チャーッ」とシリンダーを回す。
わたしは、この瞬間、暗い劇場の中で背筋がゾクッとした。
カチャッとハンマーを起こす。もう、コークではないが、
きれいな木目のグリップがついている。
ずいぶん慣れた手つきで、親指でハンマーを押さえながらトリガーを引き、
静かにハンマーを落とす。この一連の動作は、
演ずるスティーヴン・プリンス自身が只者でないことを明確に示している。
プロの俳優として、何度も何度も練習したのか、あるいは実際に扱い慣れていて、
ごくごく自然に演じ演じたのか。
そして、シリンダーを開くと、再び「チャーッ」とシリンダーを回転させ、
素早くフレームへ閉じる。
ここでも、わたしは背筋がゾクゾクッとした。
「Look at that. That's a beauty. 」
これは、絶対扱い慣れている手つきだ。演技として練習したのなら、俳優としてたいしたものだが、本質的なところは、自然ににじみ出てしまう。わたしは、スティーヴン・プリンス自身が銃の扱いには恐ろしく慣れていると感じる。この後、アストラ・コンスタプルを見せるときも、効果音がかぶさっているのでわかりにくいが、左手でロッキングボルトのサムピースをひっかけて引いて、ハンマーをコックしているようにも見える。
慣れない手つきで受け取るトラヴィス。
アンディのマネをしてシリンダーを開き・・・・・。
「チャーッ」「チャーッ」と二度もシリンダーを回す。
わたしは、三たび、ゾクゾクゾクッとした。
アンディは「ハーレムに持っていけば500ドルで売れる。」と言う。字幕では単に「黒人」としているが、原文では「I could sell this gun to some jungle bunny in Harlem for 500 bucks.」と言っており、「jungle bunny」という黒人に対する蔑称を使っている。「bucks」は1ドルを表わすスラング。売人だけあって、スラングばかりだ。
窓の外に狙いをつけようとすると、
長い銃身がアンディの顔の前を横切り、
彼はスッと顔を後ろへ引く。
自然な動作だ。
ダブルで空射ちする「カッシーン」と実に素晴らしい効果音が響く。
わたしは映画での効果音をいろいろ聞いてきたが、
このときの空射ちの効果音に勝てる音はない。
ただし、ここでほんとに空射ちしているかどうかはわからない。
画面では隠れて見えないからだ。
「How about that ?」
ここで。
カチャッとかすかに効果音が入り、
トラヴィスがハンマーを起こしたように思えるのだが。
次のショットではハンマーは寝ている。起こしていない。
そして、アンディが44マグナムに手をかざした瞬間、再び「カッシィーン」と素晴らしい空射ち効果音が入るので、わたしはずっと、遠景ショットでハンマーを起こして、ここでトリガーを引いたものだと思い込んでいたが、今回細かく分析してみると、実はこの瞬間、ハンマーは起こしていないし、ダブルでトリガーも引いていないのがわかった。
だから、先ほど窓へ向けて構えていたときの「カッシィーン」という効果音も、実は後から入れたのであり、この一連のシーンでは、実際には一度も空射ちしていないのではないかな、と思う。
編集段階で空射ち音を入れた方がいいと気づき、音だけ入れたのではないか。この後のエスコートやアストラ・コンスタブルはスライドを引いて実際に空射ちしているように見えるから、44マグナムも合わせたのかもしれない。
それでも、この「カッシィーン」という金属的な効果音は実にいいのである。
シリンダーを回す「チャーッ」と、空射ちの「カッシィーン」。
馬鹿な高校生は、この二つの音でイカれてしまったのだ。
だがー。
ざんねんなことに、家でMGC44マグナムを握って同じことをしても、ダメなのである。所詮、プラスティックだ。シリンダーはスカスカに軽い。イチローに「片手でシリンダーを振り出すのは牛のクソのやることだ。」と書かれても、カッコいいからマネする。しかし、軽いプラのシリンダーは、うまく出ない。重いカートリッジを入れて初めて、少し出てくるが、ネバッこいのでダメだ。
ましてや、軽いシリンダーは、映画のように「チャーッ」なんて全然回らない。
空射ちしても、音は「スカン」とイマイチだ。
MGC金属製コンバットマグナムで試したが、シリンダーのセンターが狂ってるのか、回らない。CMCもダメだ。だいたい金属製のくせして、空射ちの音もショボい。
だいぶ後で、コクサイの44マグナムでも試したが、ちゃんと回らないし、やっぱり空射ちの音がダメだ。なんなのだ、これは、と思った。もちろん効果音だし、モデルガンなんだからしかたないのか、「チャーッ」「カッシィーン」ができないのかー、と嘆いてから、数十年が経った。
そして。
月日が流れ。
今年の正月に金属モデルガンの絶滅を知らせた日記で取り上げた、
Products ZEKE/ホビーフィックス製モデルガンの44マグナム、
その8・3/8インチ版である。
それは、まさに「タクシードライバー」の中で現れた神々しいまでの44マグナムだ。今回は表面仕上げを岩手のヴェテラン磨き職人が丹念に手仕上げで磨いているので、美しい。
ZEKEではこの仕上げを「プレミアム・エディション」と呼ぶそうだ。
サイドプレートも、見事に面一となっている。トントン叩かないと外れない。
長い。これを観てから6.5インチを見ると、4インチに見える。
そして、だ。
「チャーッ」
「チャーッ」
感涙あふれる。見事に回る回る。
ZEKE注!!
8-3/8インチはトラヴィスのマネが出来る様、
プレミアム・エディションでは研磨段階にて調整し、
シリンダーを「チャーッ」っと回せる仕様にしています。
8月の半ば、まだ試作段階のこれを見せてもらい、
「チャーッ」「カッシーン」をやったら、もうダメだ。
「これ、いつ出るの ? 」
「まだ、磨きも始まってないし、量産には時間かかりますね。」
「持ってっちゃダメですよ。」
「これでいい。」
「何言ってんですか。磨きの調子を見るために作った見本ですよ。」
「いや、これでいい。持って帰りたい。いくら ? 」
「いやいや、まだもう仕上げを変えた二つしかできてないんで。」
「これ、これがいい。ガマンできない。」
「渡さないと、ここで歯を磨くぞ。」「パンツ脱ぐぞ。」「会社の前でうんこするぞ。」
まるで「マックQ」でイングラムを見たジョン・ウェインのように、矢も楯もたまらず、まだ2挺しかない調整中の試作品のうち一つを、半ば強奪するように持ち帰ってきてしまった。(ZEKE注!この日記・レポートを書く事が条件で、試験販売を致しました。)
それ以来2ヵ月、わたしの心は高校2年に戻り、
毎日毎日「チャーッ」「カッシーン」「チャーッ」「カッシーン」をやっているのである。
やはり、金属製モデルガンはいいのである。質感が違う。いくら表面仕上げがよくても、プラスティックではこの圧倒的な操作感は出ない。亜鉛合金でなければ、この重さ、冷たい感触、共鳴する操作音は生まれない。
ただひとつ残念なのは、高校のときのように、みんなが寝静まった夜中、裸の上半身にショルダーをつけて44マグナムを構える勇気が、もうわたしにはないことだ。
今ではこの素晴らしい金属製44マグナムもあるし、ビアンキのX15やサファリランドのショルダーもあるんだけど、高校生当時の体重54キロの素晴らしく痩せた体格と違い、30キロも肉がついてしまった今、そんな無様な姿で鏡の前に立ち、自ら見るのは忍びないのである。
しかも、眠りの浅い妻が水を飲みに降りてきてしまったりすると、気配に気づいてショルダーを外そうにも、脂ぎった体にキツキツで張り付いた革製ショルダーホルスターはすぐには外れず、めっきり寒くなってきたこの真夜中に、怒声と共に家を追い出されるのは間違いないのである。エロ動画を観ているところを目撃されるよりもキツいお仕置きが待っている。
だから、怖くてできないのである。
最近、「アイリッシュマン」を観て、デ・ニーロがいろいろ並んだ銃の中から選ぶシーンを見て、絶対、「タクシードライバー」のこのシーンを意識してるよなあ、と思った。