「ホエン・ア・チャイルド・イズ・ボーン (When a Child Is Born)」 ジョニー・マティス(Johnny Mathis)(1976)〜「哀しみのソレアード」についても - まいにちポップス(My Niche Pops)

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令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングのエピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”なものになってしまったのかもしれませんが、みなさんの毎日の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出なども絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ホエン・ア・チャイルド・イズ・ボーン (When a Child Is Born)」 ジョニー・マティス(Johnny Mathis)(1976)〜「哀しみのソレアード」についても

 おはようございます。今日もジョニー・マティス。「ホエン・ア・チャイルド・イズ・ボーン (When a Child Is Born)」です。

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A ray of hope flickers in the sky
A tiny star lights up way up high
All across the land, dawns a brand new morn
This comes to pass when a Child is born

A silent wish sails the seven seas
The winds of change whisper in the trees
And the walls of doubt crumble, tossed and torn
This comes to pass when a Child is born

A rosy hue settles all around
You've got the feel you're on solid ground
For a spell or two, no one seems forlorn
This comes to pass when a Child is born

And all of this happens because the world is waiting
Waiting for one child
Black, white, yellow, no-one knows
But a child that will grow up and turn tears to laughter
Hate to love, war to peace and everyone to everyone's neighbour
And misery and suffering will be words to be forgotten, forever

It's all a dream, an illusion now
It must come true, sometime soon somehow
All across the land, dawns a brand new morn
This comes to pass when a Child is born

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希望の光が空に瞬き
小さな星がずっと高いところを照らす
あらゆる場所に、まっさらな朝が訪れる
それは実現する 一人の子供が生まれるときに

静かな願いが七つの海を渡り
変化の風が囁くように木々を揺らす
疑いの壁は崩れ去り、粉々になる
それは実現する 一人の子供が生まれるときに

薔薇色がまわり中に広がり
あなたはしっかりと大地に立っていると感じる
しばしの間、誰もが絶望を忘れる
それは実現する 一人の子供が生まれるときに

そして、これらすべてが起きるのは
世界が待っているから 一人の子供を待っているんだ
黒人か白人か黄色人種か、誰も知らない
しかしその子供は成長し、涙を笑顔に変え
憎しみを愛へ、戦争を平和へと変え
すべての人を仲間に変える
そして悲惨と苦しみは永遠に忘れられる言葉になるだろう

すべてが夢、幻想 今はまだ
でもいつか必ず、それを実現しなくては
あらゆる場所に、新しい朝が訪れる
それは実現する 一人の子供が生まれるとき (拙訳)

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 この曲のオリジナルは、イタリアのボーカル・グループ、ダニエル・センタクルス・アンサンブル(Daniel Sentacruz Ensemble)が1974年にリリースした楽曲「哀しみのソレアード(Soleado)」です。ちなみにSoleadoとはスペイン語で”Sunny"の意味だそうです。

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 歌詞のないスキャット(コーラス)の歌だったんですね。そしてこのメロディの原型はダニエル・センタクルス・アンサンブルの中心メンバー、チロ・ダミッコ(Ciro Dammicco)が1972年にリリースした「Le rose blu」が元になっています。

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 こちらは歌詞付き、しかも展開部がありますね。この曲のAメロを使ってインストにアレンジし直したのが「哀しみのソレアード(Soleado)」だったというわけです。この曲の入ったアルバムも日本ではCD化されていて最初は「ローズ・ブルー」、次の発売では「青いバラ」という邦題がついています。

歌詞はこんな感じのようです。

青いバラなんて一度も見たことがない 愛とは何か、君には分かるだろう でも僕には分かるんだ、もうずいぶん長い間 君の瞳の中に、僕自身を見つけられなくなったことを”

 さて、この曲がヒットすると、パーシー・フェイスポール・モーリアフランク・プゥルセルといったイージー・リスニングのアーティストに取り上げられますが、同時に世界中で歌詞をつけられて”歌もの”としても大人気になります。

 チロ・ダミッコ(筆名はザッカール Zacar)が”歌もの”だったのをわざわざインストにしたのに、今度はいろんな人たちから歌詞をつけられることになったんですね。

 日本でもメジャーな曲になりました。今年で還暦になった(!)僕の世代では、この番組の記憶が大きいですね。

 人気バラエティ番組「カックラキン大放送」のエンディングです。

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 当時はこれを見てもなんとも思わなかったのですが(笑、久しぶりに見るとなんかすごい郷愁を感じてしまいます、、、これは1980年ごろですが、もう少し前、子供の頃に何かのドラマでもこのメロディを聞いたことがありました。

 調べてみたところ、1974年末から75年3月まで放送されていたフジテレビ系の「春ひらく」というドラマの主題曲としてダニエル・センタクルス・アンサンブルのオリジナルが使われていました。また、主題歌として日本語詞のついたものを西城慶子というシンガーが歌っていたようで、歌詞を布施明が書いていました。

「いつわり欺しあい 傷つき憎み合う もうそんな世界には別れは惜しまない、、

 人生の荒波に負けたと言われても ただ私は胸を張り 背を向けていくでしょう」

 全く偶然ですが、前回このブログでご紹介した「I'm Coming Home」と似た設定の歌詞なんですよね。

 確証はないですが、日本語の歌詞がついた「哀しみのソレアード」の一作目はこの西城慶子のヴァージョンじゃないかと思われます。 

 そして、これをいち早く取り上げたのが野口五郎でした。彼のファンの方のサイトによると西城慶子がシングルがリリースされた同じタイミングだと思われる、1975年3月にはライブで歌っているんですね。同年リリースのライブ盤に収録されたのち、翌年あらためてスタジオ録音もしています。

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 野口のファンサイトを見ると、野口が布施明から歌詞を書いたから歌ってほしいと言われた、というようなことをMCで言っていたという記述もあるので、西城慶子の録音の話より前に野口にこの曲を聞かせていたのかもしれませんね。

 これは全く僕の推測ですが、そう言う経緯もあれば野口にとっても思い入れはある曲だったはずで、「カックラキン大放送」のエンディングにこの曲を使うことになったのは野口サイドの提案で、ただ歌詞がシリアスでバラエティ向きじゃなかったので番組用に新たに書き下ろしら、そんな気がします。

 ちなみに、布施明本人が録音したものはなさそうですが、YouTube西城秀樹と歌っている動画を見ることができます。

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 このヴァージョンとは別に日本ではシャンソンのスタイルで歌われる流れもあるんです。これはフランスのシャンソン・シンガー、ミレイユ・マチューが1975年にフランス語で歌ったことがルーツになっているようです。タイトルは「On ne vit pas sans se dire adieu」、人はさよならを言わずに生きていくことはできない、という意味のようです。 

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 そして、日本では山川啓介が日本語詞を書いていて、由紀さおりや佐々木秀実、浜田真理子などが取り上げています。70年代に山川啓介の日本語詞でフランシス・レイの曲を歌っていたこともある由紀さおりが、このヴァージョンのルーツかなとも思ったのですが、その当時の録音の音源は見つけられなかったです(YouTubeやサブスクで聴けるのは2009年の録音)。

 今のところ、僕の推測ではこのヴァージョンのルーツは岸洋子じゃないかと思っています。彼女もまた、山川啓介と交流があり彼の日本語詞で洋楽を歌っていますし、シャンソンのレパートリーも多かったので、シャンソンを歌う人たちへの影響もあると思えたからです。

 岸洋子の音源はYouTubeになかったので、佐々木秀実のカバーを。

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 ネットやYouTubeを見る限りでは、日本ではシャンソンのレパートリーとしての「哀しみのソレアード」が一番歌い継がれているように思えます。

 さて、この曲のカバーを世界で最初にヒットさせたのはドイツのシンガー、マイケル・ホルムだったそうです。そして彼はオーストラリアのソングライター、フレッド・ジェイ(Fred Jay)による英語詞のヴァージョンも1974年にリリースしました。そのタイトルが「ホエン・ア・チャイルド・イズ・ボーン 」だったんです。そして全米ビルボードチャートで53位まで上がっています。

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 そして、1976年にこれをカバーしたのが、ようやく登場しました(すみません!)、ジョニー・マティスです。

 彼のヴァージョンが12月にイギリスで3週間にわたってナンバーワンになり、その年最大のクリスマス・ヒットになったんですね。それまで、彼はイギリスでは本国アメリカほどの人気はなかったですし、アメリカでも長いことヒットは出ていませんでした。しかし、この曲だけ突如大ブレイクしたのです。そして、これ以降、英語圏では「ホエン・ア・チャイルド・イズ・ボーン 」はクリスマスの定番曲になっていきました

 現在Spotifyでは一番聴かれているジョニー・マティスの曲はこの「ホエン・ア・チャイルド・イズ・ボーン 」です。彼の一番の代表曲にもなっているんですね。

 ちなみにこの崇高な英語詞を書いたフレッド・ジェイという人は、この後、当時大人気だったイギリスのグループ、ボニーMの共作者としても活躍しています。この有名な曲も彼の共作曲です。

「怪僧ラスプーチン

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 相当な”振れ幅”ですね(笑。しかし、ボニーMは1981年リリースのクリスマスアルバムで「ホエン・ア・チャイルド・イズ・ボーン 」を取り上げ、この曲の知名度を上げるのに貢献しています。

 21世紀入り、アンドレア・ボチェッリ、サラ・ブライトマンイル・ディーヴォスーザン・ボイルなどクラシカルな曲を歌う錚々たるシンガー達が取り上げたこともあり、クリスマスの曲としての不動の地位を得ました。また、この曲を讃美歌や古くからあるクラシックの楽曲じゃないかと思ってしまう人も少なくないようです。

 実はこちらのヴァージョンにも山川啓介が日本語詞をつけています。「ソレアード〜子供たちが生まれる時」というタイトルで、フレッド・ジェイの歌詞にかなり忠実な内容になっています。

 ちなみに、山川が書いたシャンソン系のヴァージョンも歌っていた由紀さおりが姉の安田祥子とこの歌詞で歌っています。

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 青いバラを歌った失恋ソングがコーラス曲になり、そこからイージー・リスニングになり、シャンソンが生まれ、クリスマス・ソングとして世界中に定着していく。数多あるポピュラー・ソングの中でもかなりレアなプロフィールを持った曲なんですね。

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