『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』を葛藤しながら読みました - プール雨

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幽霊について

『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』を葛藤しながら読みました

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 ハロオタ人生も長くなりまして、いつも後ろめたさを感じています。青少年保護育成条例的に、労働基準法的に実際問題ダメなことを黙認しているんじゃないか、そしてこの表現自体有害なのではないかという疑いがいつも頭の半分くらいを占めています。さらに、「私結局、自分の性欲で求めているんじゃないか」という疑いがあり、一刻も早く足を洗いたいと願いながらもうこんなになってしまいました。

 『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』は九人の執筆者がアイドルという仕事について、アイドルを「推す」ということ自体について、そしてアイドルのいる社会について葛藤を露わにしたものです。

 第一章を飾るのは編者でもある香月孝史による「絶えざるまなざしのなかで」。アイドルをめぐるメディア環境について書いたものです。具体的にはアイドルの日常すらもドキュメンタリーとして消費対象になってしまうことについてで、SNS などでアイドルたちは「素」を演じ、エンタメとして「日常」を提示しています。そこには受け手の振る舞いも影響し、ファンの反応にアイドルが応じることもあり、息苦しいほどの往還があります。

 これを「営業の一環」と考え、そこに表れるものを演技やキャラクター構築としてきっぱり現実と分けられるのなら問題は明解で、ファンは表現として受けとめればいいし、会社はそこに生じる作業に業務として対価を支払えばいい。

 でも事はそう簡単ではなく、そこには生身をもつ人間がいて、心があります。しかもまだ若い。そのことを考えると、終日「日常」を差し出すというのはいかにも過酷な話です。

 こんな状況で、どうしたらアイドル本人も、アイドルのいるこの社会も健康を保てるのか。

 つばきファクトリーというグループのメンバーがプライベートで SNS に愚痴をこぼしていたのが流出してしまったことがありました。これまでにもアイドルの裏アカが流出して話題になることはありましたが、そのときは「誰が流出させたか」といったことまで含めて、ファンの間では大きな話題になっていました。結局、彼女はグループを辞めることになり、私は「変なの」と思ってました。流出した書き込みは、まさにつばきファクトリーが歌っていたようなことで、「あ、つばきファクトリーってドキュメンタリーだったのか」と思いましたし、ハロプロの曲は多かれ少なかれそういう面があるのかなと思いました。


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 ハロプロは歌詞が唐突でこなれない曲が多いので、時には参照元になっている事実があるんだろうなという印象とぴったり合う事件でした。

 このときの一部ファンの保守的な態度には今もびっくりしています。アイドルは清廉潔白で、日常を犠牲にして舞台に立つものだという考えが当然のものとして行き交うのを見ると、アイドル歌手がいるこの社会のいびつさについて考えずにはいられませんでした。

 たとえばある一人の女性が小学校 6 年生くらいでアイドルの卵になり、レッスンを受けて中学校 2 年生くらいでデビューして、20 歳前後まで活動したとして、その間ずっと恋愛禁止で、日常の挙措においてはこの社会で受け入れられる程度の逸脱めいたものを見せながら(そうでないと「おもしろくない」と言われるから)、基本的にずっとストイックな勤労生活を送り、その間常に会ったこともない人たちからジャッジされ続けるという現実の過酷さを考えると、とても「やっていいこと」とは思えません。

 Berryz工房 の菅谷梨紗子はアイドルとしてやってきたことを振り返ると、「楽しいことも嬉しい事もいっぱいあったけど、辛い事の方が多かった」と書いています。「そういうこと言うなよ」というファンもいたこの言葉ですが、ファンとしては真っ向から受けとめなければならない言葉と事態だと思います。彼女が「辛い事の方が多かった」と書いたときから、状況はよくなっているのでしょうか。

 私がアイドルに求めるものは単純です。できれば高校を卒業するまで、最低でも義務教育中はデビューなんてしないでほしいし、露わにするなら身心や生活ではなく、歌いたい言葉について、好きな音楽について露わにしていってほしい。健康に、創造的に暮らして欲しい。そして、野宮真貴原田知世中谷美紀NegiccoPerfume のようにアイドルの枠組みを融解させていってほしい。枠組みを維持することに努めるのではなく、どんどん個別具体的な単独のものになっていってほしい。

 『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』にもどると、第二章に「推す」ということの*1営みについて「家父長的性愛規範の攪乱」と「家父長的性愛規範の維持」の二方向が示されていて、実際ファンもこの点で引き裂かれていると思う。それは一人の人の中でも起こるし、ファン全体でも起きている。ハロプロの曲は全体に異性愛主義と男女二元論に関しては保守的で、歌詞に登場する恋の相手は男子で、その人はチャラチャラでオラオラなことが多く、聞き手は描かれている内容について「デートDVだ、ヤバい恋人だ、と内心思いながらも(中略)『主人公の』楽しさに乗っかるかたちで高揚してしまう」(いなだ易「『ハロプロが女の人生を救う』なんてことがある?」『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』p.82)ことがままある。一曲だけ取り上げて耳をかたむけると「うーん」と思うようなことが多い。それが二時間なら聞けてしまうのは、アイドル本人たちの存在感や、解釈の多様さに幻惑されるからだ。現場で起きているのはせいぜいが「幻惑」だが、そこにハロプロが現状閉じ込められている狭い狭い枠組みを融解させるものが生じていると信じたい。モーニング娘。誕生から 25 周年、ハロプロからはフェミニストも誕生しているし、OG たちの活動は多彩だ(芸能界を辞める人も含めて)。当然、それを見ているファンの側も一枚岩ではない。

 昔々、SMAP というアイドルグループがいて、メンバーの木村拓哉は恋人がいることを隠さず、番組で相手とどこに行ったとか、これこれこういうことを言われたとかオープンにしていました。初代モーニング娘。には、こないだまで会社員で、*2スナックでアルバイトもしていました、ということをオープンにしているメンバーだっていました。あのときの未来に今いるとは思えない。思えないけれども、アイドルという職業の多様さは現実に大いに後退し、奇妙に息苦しくなってしまっている部分があって、そこを解きほぐすのをアイドルたちだけに担わせておくのはどうなのかな。ファンの側もがんばローと思える『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』でした。おすすめです!

 ところで、この本は江古田にある書店百年の二度寝さん*3主催の読書会で読みました。そのとき、「ハロプロを知らない人におすすめできるハロプロ曲は?」と聞かれて「ない」と答えてしまったのですが、ありました、ありました。本日はそれを紹介しておわります。ではでは。


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🎧 おわり ♪ 

*1:2022年10月4日、「ことの」を削除しました。

*2:2022年10月4日、読点を挿入しました。

*3:百年の二度寝さんは古書にかぎらず広く本を扱っています。ZINE、雑貨もあるよ!