2020年12月反社会学講座ブログ
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今年、コロナ禍で困ったこと

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。これまで何度も書いてますけども、私は片方の耳がほとんど聞こえません。私の正体が○○さんとか推理してる迷探偵をネットでときどき見かけますけど、その○○さんも片耳が難聴なのですか? そこを確認すれば、私とは別人だとわかりそうなものですが。まさか、私が難聴のフリをしてるとでも?

 片方だけ聞こえなくなっても、聴力が半分になるわけではありません。両耳とも聞こえてたときの7割ぐらいは聞こえてると思います。ただし、それは周囲が静かな場合に限られます。周囲に雑音があると途端に聞こえづらくなるから不便です。
 カクテルパーティー効果というのをご存じのかたも多いでしょう。パーティー会場のような周囲がざわついてる場所でも、目の前のひとの言葉だけを聞き取って会話ができる能力のことで、健常者はほとんど全員が無意識にやってます。でも自分でもビックリしたのですが、片耳だけしか聞こえなくなると、この能力が失われてしまうんですよ。目の前の会話相手が小声でしゃべっていて、となりの関係ない他人が大声でしゃべってると、となりの大声に目の前の小声がかき消されてしまいます。不要な音をミュートできないんです。

 たぶんみなさんは一度も意識したことないだろうけど、スーパーやコンビニの店内って、けっこう騒がしい。客の話し声や店内のBGMなど、雑音がたくさんあるんですが、みなさんは無意識にそういう騒音を脳の中でミュートしてるから気にならないんです。
 困るのは会計のとき。そういう周囲の騒音がジャマをして、目の前の店員の言葉が聞き取れないことがよくあります。いちいち聞き返すのも面倒だから、ポイントカードお持ちですか、とか聞いてるんだろうなと予測して適当に受け答えしています。
 今年はコロナ対策で、店員がマスクをして、客との間にはビニールシートみたいなのが吊されるようになったので、いままで以上に聞き取るのがむずかしくなりました。

 レジ袋の質問に適当に答えてると、罠にはまることがあります。経験上、大多数の店員は「レジ袋は必要ですか?」と聞いてくるんで、よく聞きとれなくても、レジ袋の質問だなと思ったら「いいえ」と答えます。
 ところがたまに、「袋はお持ちですか?」と変化球投げてくる店員がいるんですよ。いつもの調子で「いいえ」と適当に答えてしまうと、袋を持参していないことになり、レジ袋をカゴに入れられてしまいます。そこであわてて「レジ袋、要らないです」と訂正するはめに。

 数日前に新宿の紀伊國屋書店に行きました。あそこはいまどき珍しく、エレベーターガールがいるんです。で、私がエレベーターに乗ろうとしたら、ガールがなにか私にいってるんですけど、聞こえない耳の側から話しかけられたからわからない。
 なんだろう? エレベーター内を見るとすでにそこそこ乗客がいたので、満員だから次のにしろといってるのかと予測して、ドアの前で立ち止まりました。これでよろしい? とガールの顔をうかがうと、「リュックを降ろしてください」といわれました。
 あ、混んでてジャマになるからってことね。これはさすがに予測できませんでした。
[ 2020/12/28 20:27 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

だから笑いはむずかしい

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。晩年の立川談志が落語のまくらで、こんな毒を吐いてました。東京の落語家は人情話ばかりやりたがるけど、あんなもん、誰だってできるんだ、泣くツボはみんな同じだから。笑いのツボはひとそれぞれだから、笑える話をするほうが、ずっとむずかしい。
 まさにそれを実感したのが、今年のM-1でした。唯一、もう1本のネタを見たいなと思ったニューヨークは最終決戦に残れず。
 世間の一部では、優勝したマヂカルラブリーのネタが漫才なのかどうかで議論になってます。プロの芸人のあいだでは、漫才かどうかなんて定義はない、おもしろければいいんだ、と擁護する意見がわりと優勢なようです。
 私もその意見に大筋で賛成なのですが、ただ困ったことに、私はM-1のマヂカルラブリーのネタでちっとも笑えなかったんです。以前他の番組で見た、ラップバトルのネタがすごくおもしろかっただけに、今回のあのネタ、なんなの? どこがツボなの? って感じで。
 なんでかなと考えたんですが、長すぎるんじゃないですか。30秒とか1分くらいのショートネタだったら、こういうのもおもしろいよね、と納得したのかもしれません。でも、なんの展開もなしに4分間ずっとふざけた動きだけだと、後半はつまらないギャグマンガの実写版を見させられてるようで、完全に退屈な時間になってしまいました。

 そんなことを考えてたら、本当におもしろいギャグマンガに出逢えました。先日、書店の前を通りかかると店頭に、「このマンガがすごい」のコーナーがあって、ああそんな時期か、と足を止めました。日頃、マンガとアニメの情報には自分からアンテナを張ってないもので、そういうランキング企画や知人からのおすすめなどで作品を知ることがけっこう多いんです。
 で、今回オンナ編の1位が『女の園の星』。もちろん、作品も作者もまったく知りません。よくわからないけど、表紙の絵だけからもただならぬ雰囲気を感じたので、ネットで試し読みをしたら、最初の数ページだけでもおもしろい。これは! と単行本を読んだら、久々にギャグマンガ界に天才が出現したんじゃないかと思いましたね。
 この作者の和山さんですか、ひとつひとつの笑いのセンスも抜群ですが、それだけでなく構成力にも秀でてます。1回の話がけっこう長めのエピソードとして成立してて、何度も笑えます。
 女子高で教師をしてる星先生が主役で、最初は、まともそうな彼がツッコミ役なのかと思ったのですが、じつは星先生もかなりの変人で、ボケ体質。学級日誌の備考欄で生徒たちが毎日絵しりとりをしてるなんてのは、ホントにありそうな話で、それだけでもけっこう笑っちゃうのですが、そこで自分が生徒にいじられてることに気づかず悩み続ける星先生の姿を描くことで笑いを重ね、最後のオチも気が利いてます。
 マンガ家志望の生徒の作品を同僚と一緒に読んで批評する回では、マンガの内容のカオスな展開に笑いっぱなし。
 もう、脱帽。優勝。1位であることになんの異存もありません。
 でも、多くのひとがおもしろさを認めたこのマンガだって、全然笑えない、どこがツボなんだ? というひとが、きっといるはずなんですよ。だから笑いはむずかしい。
[ 2020/12/27 17:07 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告