こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。晩年の立川談志が落語のまくらで、こんな毒を吐いてました。東京の落語家は人情話ばかりやりたがるけど、あんなもん、誰だってできるんだ、泣くツボはみんな同じだから。笑いのツボはひとそれぞれだから、笑える話をするほうが、ずっとむずかしい。
まさにそれを実感したのが、今年のM-1でした。唯一、もう1本のネタを見たいなと思ったニューヨークは最終決戦に残れず。
世間の一部では、優勝したマヂカルラブリーのネタが漫才なのかどうかで議論になってます。プロの芸人のあいだでは、漫才かどうかなんて定義はない、おもしろければいいんだ、と擁護する意見がわりと優勢なようです。
私もその意見に大筋で賛成なのですが、ただ困ったことに、私はM-1のマヂカルラブリーのネタでちっとも笑えなかったんです。以前他の番組で見た、ラップバトルのネタがすごくおもしろかっただけに、今回のあのネタ、なんなの? どこがツボなの? って感じで。
なんでかなと考えたんですが、長すぎるんじゃないですか。30秒とか1分くらいのショートネタだったら、こういうのもおもしろいよね、と納得したのかもしれません。でも、なんの展開もなしに4分間ずっとふざけた動きだけだと、後半はつまらないギャグマンガの実写版を見させられてるようで、完全に退屈な時間になってしまいました。
そんなことを考えてたら、本当におもしろいギャグマンガに出逢えました。先日、書店の前を通りかかると店頭に、「このマンガがすごい」のコーナーがあって、ああそんな時期か、と足を止めました。日頃、マンガとアニメの情報には自分からアンテナを張ってないもので、そういうランキング企画や知人からのおすすめなどで作品を知ることがけっこう多いんです。
で、今回オンナ編の1位が『女の園の星』。もちろん、作品も作者もまったく知りません。よくわからないけど、表紙の絵だけからもただならぬ雰囲気を感じたので、ネットで試し読みをしたら、最初の数ページだけでもおもしろい。これは! と単行本を読んだら、久々にギャグマンガ界に天才が出現したんじゃないかと思いましたね。
この作者の和山さんですか、ひとつひとつの笑いのセンスも抜群ですが、それだけでなく構成力にも秀でてます。1回の話がけっこう長めのエピソードとして成立してて、何度も笑えます。
女子高で教師をしてる星先生が主役で、最初は、まともそうな彼がツッコミ役なのかと思ったのですが、じつは星先生もかなりの変人で、ボケ体質。学級日誌の備考欄で生徒たちが毎日絵しりとりをしてるなんてのは、ホントにありそうな話で、それだけでもけっこう笑っちゃうのですが、そこで自分が生徒にいじられてることに気づかず悩み続ける星先生の姿を描くことで笑いを重ね、最後のオチも気が利いてます。
マンガ家志望の生徒の作品を同僚と一緒に読んで批評する回では、マンガの内容のカオスな展開に笑いっぱなし。
もう、脱帽。優勝。1位であることになんの異存もありません。
でも、多くのひとがおもしろさを認めたこのマンガだって、全然笑えない、どこがツボなんだ? というひとが、きっといるはずなんですよ。だから笑いはむずかしい。
[ 2020/12/27 17:07 ]
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