2019年07月反社会学講座ブログ
FC2ブログ

反社会学講座ブログ

パオロ・マッツァリーノ公式ブログ
反社会学講座ブログ TOP > 2019年07月

一長一短の夏ドラマ

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。今期のドラマはどれも一長一短という感想を持ったのですが、それは悪口ではありません。長短あるのは個性がある証拠。長も短もなく、可も不可もないってのが、なによりつまらない。

『監察医朝顔』
 初回、本筋の事件は1時間であっさり終わり、残りの30分どうするのかと思ったら、朝顔の家庭事情が描かれます。母親の不在や、刑事である父が現場の証拠品捜査に異常に熟練してること、朝顔の遺体との向き合いかたなど、前半で何げなく張られていた伏線が回収され、そういう理由があったのかと腑に落ちます。それをナレーションや説明ゼリフに頼ることなく、映像と普通の会話だけでわからせてるのが素晴らしい。初回だけで単発ドラマや映画だったとしても成立してる完成度。それだけに、医学ミステリのネタがいまひとつなのが惜しい。

『Heaven?』
 以前、『チャンネルはそのまま!』について、ミニシリーズだからテンポのいい作品になったが、ワンクールに延ばしたらダラダラしたかも、と書きました。『Heaven?』はまさにその悪い方向に行ってそう。2話のシェフと社長のエピソードって全然おもしろくなかったんだけど、原作にありましたっけ? 少なくとも時間延長してまでやるネタじゃないでしょ。ヘンに感動とかを狙わず、シチュエーションコメディに徹するべき。

『ルパンの娘』
 コメディとはいえ、ここまでリアリティをガン無視して、すべてがありえない話を確信犯的にやれるのは、凄い肝っ玉ですねえ。マジメな批評は無意味です。見るか見ないかは好き嫌いで決めてください。さすがに同じノリを最後まで続けたら飽きられるのは確実なので、どこかの時点で展開を変える用意をしてるはず。とことん攻めてほしいものです。

『ボイス』
 1話完結の刑事ものやミステリが主流になってますが、せっかく連ドラでやるのなら、盛り上がったところで来週に続く、このあとどうなるんだろう、ってのを見たいなって欲求に応えてくれる作品。猟奇的な犯人像がステレオタイプすぎるところが若干シラケますけども、主役ふたりの正義の熱量が異様に高いので、極悪な犯人をぶつけないと釣り合わないのかな。

『凪のお暇』
 安アパートにひとり暮らしで、自分ひとりが食っていくのに困らないだけの仕事しかしないという不埒な生きかたをしてる私は、まさにずっとお暇をいただいてるようなもの。このまま老いさらばえていくのではと凪が不安になるところは、身につまされました。
 これもとてもよくできてるドラマです。高橋一生さんがすげえイヤなヤツを楽しそうに演じてるのもいいですね。全体的には合格点ですが、なにかもの足りなさをおぼえたのも事実。主人公が控えめなキャラだからでしょうかね? とりあえず、次回も見て確かめます。
[ 2019/07/23 13:49 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

パオロの部屋

 こんにちは、パオロの部屋です。本日のお客様は、日本人客のマナーの悪さに耐えかねて日本人お断りにした石垣島のラーメン屋に批判の電話をかけたひとです。ようこそ。さっそくですが、批判した理由をお聞かせいただけます?
「日本人客がすべてマナーが悪いわけじゃないでしょ。だから日本人を一律で締め出すのはよくない」
 まあ、それでわざわざ電話をおかけになって……。ずいぶんヒマなんですのね。あなた、お仕事はなにされてるの?
「オレのことは関係ないでしょ。それより、中途半端に徹子の口ぶりをマネするのやめて」
 やめます。日本では賃貸物件を外国人と老人には貸さないことにしてる大家がたくさんいますけど、それもやっぱり一律で締め出してます。部屋を壊したり近所迷惑をかけたりする外国人と老人は一部にすぎないのに、全員に部屋を貸さないってのはよくないですね。そういう大家にも批判の電話をかけましたか?
「かけてませんけど」
 では、社会の公平性と正義を守るため、外国人や老人というだけの条件で賃貸物件を貸さないことを禁じる法律を作り、違反した大家に懲役刑を科すのはどうでしょう。あなたなら賛成してくれますよね。
「そこまでは……だって部屋は大事なものだから、大家には客を選ぶ権利があるんじゃないの。それを法律で縛ったら、部屋を貸すひとがいなくなってしまう」
 おや? ずいぶんと大家には同情的ですね。ラーメン屋にはあんなにキビしかったのに。なるほど、あなたの考えでは、ラーメン屋ごときが客を選ぶのは許されないが、不動産のオーナーである上級国民の大家には客を選ぶ権利があると。あなたは職業差別・階級差別を容認するのですね、それがあなたの正義ですね。あなたはレイシストですね。
「うるせえな! 気に食わないなら、他の部屋を借りればいいじゃねえか!」
 そう! 私がいいたいのは、まさにそれなんですよ! 島にある飲食店はそのラーメン屋だけじゃないんでしょ? ラーメン屋に入店を断られたら、べつのラーメン屋か飲食店に行けばいいだけの話です。私だったらそうします。苦情の電話をかけるなんて、時間と電話代のムダでしかないでしょ。バカらしいと思いません?
「……」
 現実のよのなかには、一律な条件で客を規制してる例はけっこうありますよ。いちげんさんお断りとか、会員制みたいな店があるけど、その存在は黙認されてるじゃないですか。それはなぜですか?
 外国人や老人に一律に部屋を貸さない大家の存在も厳密にいえば差別なのに、黙認されてるのはなぜなのか、わかりますか?
「さあ?」
 それは客が他の店や部屋を選ぶことができるからです。外国人や老人に部屋を貸す大家も存在するからです。まさにさっきいったように、べつの部屋を借りるという選択ができるなら、貸さない大家が損をする可能性がある。だから黙認されるわけです。もしも、外国人や老人が部屋を借りることが非常に困難になったら、そのときは差別を禁じる法律が必要になるでしょうね。
 ラーメン屋だって同じです。島にある飲食店がその一軒だというなら、客を選ぶことは許されません。仮に、島全体の飲食店が結託して、すべて日本人お断りとしたら、それも問題です。
 件のラーメン屋は、断った客が他の店に行って自分が損をすることを承知の上でやってるわけです。客が店を選ぶ自由も尊重しています。ですから、店主の日本人お断りというやりかたは、黙認されるべきです。むしろ、売上が減るのを覚悟の上でやってるのだから、まさにあれは日本人が大好きな「自己責任」じゃないですか。
「自己責任か! オレは三度の飯より自己責任が好きだ! 彼はなんて立派な店主なんだ!」
 あ、放送時間がなくなってきました。またお会いしましょう。
「ルールル ルルル ルールル」
 歌わなくていいです。
[ 2019/07/17 20:01 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

アニメをあまり見ない私がハマった『進撃の巨人』シーズン3

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。4月期のドラマでおもしろかったのは、『チャンネルはそのまま!』と『デジタルタトゥー』。どちらもミニシリーズだったというのは偶然でしょうか。ドラマの視聴形態が多様化してきたいま、ワンクール10~12話ってフォーマットにこだわる必要は、もうないのかも。

 今期私が毎週楽しみにしてたのは、ドラマでなくアニメ、『進撃の巨人』シーズン3でした。劇場版総集編の出来のよさに感心して、シーズン2からテレビシリーズも見るようになったのですが、シーズン3の後半は圧巻。絶望的に不利な状況下での戦闘で、兵団のメンバーが、次々と魂をえぐられるような選択と決断を迫られます。毎回、見てて疲れました。
 これ、脚本家チームの貢献度が高いんじゃないですか。私は原作マンガは4巻くらいでやめてしまいました。話がだらだらしててつまらないと感じたからですが、その後アニメ版を観て作品の印象がガラッと変わりました。たぶん原作マンガの冗長気味な構成が、アニメではかなり手直しされてるのでしょう。

 もうひとつ『進撃の巨人』で評価すべきは、戦闘はかっこよく描くけど、戦争は美化していないところです。戦争の無慈悲で非人間的な側面も、ちょいちょい織り交ぜてくるあたりに冷静な理性を感じます。
 シーズン3の最終話には、そのあたりの姿勢が色濃く出てました。戦死した兵士の仲間が、あいつは死ぬ瞬間、この戦闘に参加したことを後悔してたはずだ、みたいなことを口走ります。これ、フィクションであっても、なかなかいえない、いわせられないタブーです。
 現実の世界でも、戦死した兵士はすべて国家のために喜んで死んでいった英雄にまつりあげられてしまいますし、それは多くの場合、フィクションの世界にも継承されてます。
 でも実際にそんなヤツいるのかよ、って思いますね。おそらくほとんどの者は、おのれの不運を呪い、怒り悔やみ泣きながら死んでいくのではないですか。それこそが人間というものです。なのにそれを指摘すること自体、タブーとしてはばかられます。

 ネタバレで興を削ぎそうなので詳しい経緯は書きませんけど、敵を全部殺せば俺たちは自由になれるのか……? とエレンがつぶやくラストで総毛立ちました。自由のためと信じて戦ってきたのに、戦争は報復の連鎖を生む無間地獄でしかないことに気づいてしまった彼は、このあとどんな選択をするのでしょうか。

 来年は、オリンピックよりも『進撃の巨人』ファイナルシーズンのほうが楽しみです。
[ 2019/07/06 17:40 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告