こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。ヘビーな話題が続いたので、久々にドラマ評を。
序盤の段階でのベストは『高嶺の花』。このヒリヒリした感じ。紙やすりでこすり合うような人間関係。芸術家の狂気なんかも描いて露悪的と思われそうですが、そのむこうにエンタメ的なヒューマニズムが透けて見えるあたり、いかにも野島伸司「らしい」作品だと私は思いますけど。
わかりにくいだの、気持ち悪いだのという声があるようですが、えっ、この程度で? そのひとたちは『高校教師』を観てないのかな。あれ、純愛ドラマのふりをした、とんでもなく気色悪い変態ドラマですよ(ほめてます)。
そういえば、4年前に野島さんが脚本を書いた『プラトニック』。やたらと映画やドラマで乱発される「難病で死ぬ感動話」の裏に潜むエゴイズムをひんむいて見せた秀作なのに、さっき調べたら、DVD化とかまったくされてないみたい。主演が堂本剛さんと中山美穂さんですよ。難病の少女を演じてたのは、いま朝ドラ主演の永野芽郁さんですよ。なんで幻の作品になっちゃってるんだろ?
2位と3位は決めがたいので、同率2位ってことで社会派の2本を。
ひとつは、『透明なゆりかご』。いきなりしょっぱなで、日本人の死因の本当の第一位はガンでなく、人工妊娠中絶である、とボディブローをくらわされます。なるほど、胎児も死者とみなせば、そうなるわけですね。中絶ってそんなに多いのか、と愕然とします。
イラストタッチの原作マンガ(1巻だけ読んでみました)と違い、実写だと生々しくなりすぎやしないかという懸念があったのですが――中絶した胎児のかけらを容器に入れて業者に渡すところとか――、そのへんはうまく調整してるようですね。
もう一本は『健康で文化的な最低限度の生活』。こちらの原作は未読です。まあ、視聴率的に苦戦するだろうなとは予想できました。生活保護と聞くだけで悪人か怠け者と決めつけるようなひとたちは、はなからこんなドラマを観ないでしょうし。
じつは私も期待してなかったのですが、予想以上によくできてます。なにがいいって、「普通」なのです。感動や共感を必要以上に押しつけてこない。吉岡里帆さんの演技も普通ですが、それでいいです。脚本も演出の方針もまちがってません。なぜなら、このドラマが伝えようとしているのは、生活保護受給者も担当する職員たちも、みんな普通のひとなのだ、という点なのですから。
で、評価に迷うのが『この世界の片隅に』なんですよねえ。決して駄作ではないんですが、原作マンガのファンとしては、とまどう個所も多いので。
こども時代に、一緒に人さらいにさらわれた相手が後のダンナになると、ドラマではそういう設定で確定しちゃってますけど、これは原作ではほのめかすだけなんです。人さらいの犯人も毛むくじゃらの怪物のように描かれていて、もしかしたらすずの白昼夢だったかもしれない。夢と現実の狭間にあるエピソードのはずなのに。
ばあちゃんちの座敷わらしも同様に、こども時代のファンタジーなんですよ。なのにドラマでは、座敷わらしのような女の子がのちに女郎になって、ダンナが客になるという、あまりにも偶然が重なる設定なのでシラけます。原作マンガをそう解釈してるひとがいるとネットで知ったとき、それは深読みしすぎだろう、と一笑に付したのですが、なんとドラマでは採用されてました。
[ 2018/08/09 22:00 ]
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