2017年10月反社会学講座ブログ
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夏・秋ドラマ評

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。テレビの選挙特番なんか見てもおもしろくないし、雨でレンタル屋にも行けないとなれば、録画しといた映画やドラマを見るにかぎります。
 夏ドラマでよかったのは『コードブルー』でした。仕事が一人前にできるようになり、部下を指導する立場についた世代を主役にした点をなにより評価します。成長よりも結果を求められる中堅の悩みや葛藤をきちんと描いていて、医療ものとしても、人間ドラマとしても見応えがありました。ここ数年のマンガやドラマで目立った、新人が壁に当たって乗り越え成長していく、ってパターンは飽きました。同じような話を使い回して違う業界でやってるだけみたいで。

 はじまったばかりの秋ドラマですが、今期は豊作ですね。
 1、2話を見た時点でのベストは、ダントツで『監獄のお姫さま』。私はなるべく事前に詳しい情報を仕入れずに見るようにしてるのですが、それで正解。初回はハイスピードで進む誘拐事件から、彼女たちの目的はなんなのか、なんでお姫さまなのかなど、提示されたナゾが次々にほどけてきて、期待値をマックスに上げたところで次回に続く。もう次回を見ないわけにはいかないじゃない。うますぎる。連ドラとして理想的な流れです。
 2位は『先に生まれただけの僕』。オトナ目線からの学園ものという趣向なので、学園ドラマにこそばゆさを感じているオトナにおすすめできます。初回のラスト、思いっきり感動的な説得で盛り上げといて、足をすくってひっくり返すというオチに爆笑しました。主人公をスーパーヒーローにしないのがいいですね。そこそこ仕事ができるつもりでいた彼がいきなり鼻っ柱を折られるところからスタートしましたが、これから自分の経験を武器にどう立ち向かうのか。がんばれ中堅。
 3位は『コウノドリ』。前シーズンが秀作だったがゆえに自分のなかでハードルが上がってたのか、初回は物足りなさをおぼえましたが、2話で持ち直してます。ドラマで恒例になっちゃった初回延長ってのはもうやめて、普通にはじめましょうよ。
 4位『刑事ゆがみ』。こちらは逆に、キャラも立っててテンポもよかった初回に比べ、2話で急につまらなくなったのが心配です。雰囲気は好きなんだけどなあ。
 5位『奥様は、取り扱い注意』。これは評価が難しい。私は綾瀬はるかさんのファンなんで、アクションコメディとして楽しめましたけど、話にひねりや意外性がまったくないのが最大の欠点で、ミステリとしては0点です。あと、暴力の罠にもはまっちゃってます。暴力での解決を正当化するためには、「絶対悪」か「巨悪」を用意しないといけないんです。だから相手が絶対悪ではない3話目で、さっそく暴力の矛盾が出て、つまらなくなったでしょ。ご町内のトラブルを暴力で解決したら弱いものいじめになっちゃうんですよ。
 そして今年ついに、私は『相棒』からの卒業を決心しました。いちおう、今シーズンも初回だけはチェックしましたが、途中で、もういいや、と。シーズン5くらいまではハズレ回がないくらいのおもしろさだったのに。やっぱり私にとっての『相棒』は、右京と亀山なんですよねえ。
[ 2017/10/22 18:04 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

続・就職率アップは誰のおかげ?

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。前回、大卒者の就職率がアップしたのは誰のおかげなのかという話をしました。
 その後、あらためて就職率のグラフを見直したのですが、やっぱりこれ、異常といってもいいくらいの動きです。もういちど、グラフをごらんになってください。
 リーマンショックというイレギュラーな事故に見舞われた平成21年からの数年間は除外して考えましょう。それ以外のところ。平成12年以降、すべての年で就職率は上昇してるんですよ。
 こんなことって、ありえます? もし、就職率が景気動向や政府の経済政策に左右されるなら、就職率が落ちてる年があってもおかしくありません。なのにつねに上昇してるってことは、やっぱりアベノミクスのおかげではないってことになります。
 だったら無事就職できた若者は、アベノミクスでなく何に感謝すべきなのか。これほど長期にわたって、日本の若者の就職率に強力な影響を与え続けられる因子といったら、考えられるのはあれしかないでしょ。そう、少子化の進行です。
 日本の若者の就職率が上がっているのは単純に、少子化のおかげなんじゃないですか。雨続きで図書館行くのもおっくうなんで、論文の検索はしてないけど、これ、だれも検証してないのかな? もうだれかやってそうですけどね。もしまだなら、経済学者のかた、どなたかデータできちんと検証してみませんか。手柄は差し上げますから(笑)
[ 2017/10/21 13:52 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

就職率アップは誰のおかげ?

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。若い人たちのあいだで自民党支持率が高いのはアベノミクスによって就職率が上がったからだと、テレビで評論家っぽいおっさんがいってました。
 へえ、そうなの? 私を大学教授と信じている一部のかたのご期待に沿えず申しわけないのですが、私は大学に勤務してないので、大学生の就職実態について知るよしもありません。個人的には、印税も原稿料もまったく上がらないので、アベノミクスによる景気上昇の恩恵をまったく受けてません。

 というわけで、平成28年度文部科学白書を確認すると、221ページに大卒者(短大なども含む)の就職率推移グラフが載ってました。
H28文部科学白書P221
 グラフによると平成24年から就職率が回復傾向にあるようです――ん、ちょっと待てよ。これは前年度卒業生の最終結果を4月1日にまとめた数字ですよね。平成24年4月時点の日本で政権の座にあったのは、民主党です。自民党が政権を奪還したのはその年の暮れの選挙ですから、アベノミクスをはじめる前、いやそれどころか民主党政権のときに、すでに大卒就職率は急上昇していたことになります。つまりデータからは、就職率がアップしたのは民主党のおかげなのか、アベノミクスのおかげなのかは判断できないというのが結論です(テレビに出てた評論家っぽいおっさんはなにを根拠にしてたんだろう?)
 過去の数字を見ましても、平成12年、グラフ上では最悪の就職氷河期だったときの総理は小渕さんで、経済政策には賛否両論あったものの、日経平均株価はいまと同じ2万円台でした。
 じゃあ、なんなんだよ、って話ですよね。就職率の良し悪しは、政治とはあまり関係ないんじゃないですか。就職率の数字が景気の指標としてふさわしいのかどうかも、かなり疑問に思えてきます。
[ 2017/10/19 11:05 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

BIのすすめ

 ナポリ3区の有権者のみなさま、こんにちは。新党アルデンテ代表パオロ・マッツァリーノでございます。
 選挙前恒例、勝手にマニフェスト発表、のつもりで、今回はいつもの思いつきアイデアでなく、以前から調べていたベーシックインカム(長いので以下BIと略します)を提案しようと思ってたら、なんと希望の党が公約のひとつに掲げてるではありませんか。
 ただ、党のサイトを見たかぎりでは、具体的なことは一切書かれてないんですよね。ホントにわかってるのかな? なんかこの党、公約のすべてが適当なんです。その証拠に、希望の党は福祉の財源をあきらかにしてません。かたや自民党はどうかというと、財源としての消費税率アップは明言してるものの、あいもかわらず場当たり的な福祉政策ばかり。旧来の福祉が限界を迎えている国難は無視ですか。
 となると、合理的な選択肢はこうなります。消費税を10パーセントに上げて、その代わり月額5万円のBIを導入する。これが新党アルデンテのマニフェスト。

 そもそもBIとはなんなのか。生まれてから死ぬまで、全国民に無条件で毎月一定額のお金を支給する、合理的かつ画期的な福祉制度のことです。
 なんでそんなのをやる必要があるんだ、といってるのは危機意識ゼロの人。いまの福祉がすでに破綻の崖っぷちにあることをわかってません。いまのままで福祉が続けられると思ってる? 続けるための妙案をお持ちですか。ないでしょ。ないんですよ。専門家ですら、お手あげなんですから。そんななか、現行の福祉制度のダメな点を解消できる可能性がある最後の切り札として、BIに注目が集まっているわけです。
 年金、医療、教育と、必要になるたびその都度、場当たり的に増やしてきたもんだから、いまの福祉は複雑にふくらみすぎました。それを、可能なかぎりまとめて単純化しよう、ってのがBIです。
 そのためには、困ってるか困ってないかに関係なく、最初からみんなに同じ金額をあげちゃえばいいんですよ。単純明快でしょ。公平でしょ。
 現実問題として、誰だってなにかに困ってるんですよ。なにも困ってないといえるのは、よほど運とカネに恵まれた人のみです。みんななにかしらに困ってるけど、自分より困ってる人がいるから、とガマンしてるだけ。
 極論では、すべての福祉をBIに一本化するのが理想ですが、それを一気にやるのはムリがあるので、いまの福祉制度も残します。でもBIをやれば、いまの福祉をかなり軽減できるはずです。
 現状では福祉の受給資格の審査や不正の調査に、かなりの人員と費用を投入しています。BIなら無条件で支給されるのでムダな調査が省けます。BIなめんな、なんておそろいのジャンパー着て、受給者を脅す必要もありません。
 いまの福祉って、困っている人が、自分がいかに困っているかをアピールするオーディションを受け、合格しないとお金をもらえない制度です。自分の権利を主張することを恥だと教えられて育つ日本人にとって、これは屈辱です。福祉を申請せずに餓死することを選ぶ人すらいます。
 無条件でもらえるBIは、権利を主張できない奥ゆかしい(?)日本人にこそぴったりの制度なのです。

 問題は、金額をいくらにするか。海外での実験例では、ひとりあたま日本円にして月30万円支給とか、設定がデカすぎます。それでやっぱりうまくいかなかったぞ、っていうけど、最初からわざと失敗させることを狙ってるとしか思えません。
 最近邦訳が出て話題になったブレグマンさんの『隷属なき道』では、BI実験の成功例をいくつも紹介しています。反対派の人たちが失敗例としてあげていた実験も、じつはかなり成功してたのに政治家への報告書の段階で改竄されていたというスキャンダルも暴露されてます。

 経済学者や税制の専門家が、日本の財政状況をもとに試算したところでは、日本では月7万円くらいなら、いまの税制などを大幅に変えることなく実行可能だとのこと。なので私は月5万円、さらに大事を取って財源としての消費税アップという現実的な線を提案したんです。
 月5万円って、なかなか絶妙な設定だと思います。5万あれば、東京でも安アパートになら住めます。少なくともホームレスになる心配はなくなります。なにしろ政府が保証人になってくれるようなもんですから。
 生まれてこのかたカネの苦労や心配をしたことのない人はわからないかもしれないけど、貧乏人にとって月5万の定期収入が生涯保証されるって、スゴいことなんですよ。
 BIなんてやったら、働かないヤツが出てくるという批判があります。月5万でもムリすれば働かずに生きられるかもしれませんが、BIは生活保護とちがい、収入があっても減らされません。少しでも働けば5万プラス給料でもっといい生活ができます。労働意欲は削がれませんよね。

 BIに反対してる人の理由は察しがつきます。全員にお金をあげるBIのしくみが「働かざる者食うべからず」という道徳理念に反するから。でしょ?
 それはあまりにも世間知らずな考えです。真実を教えてあげましょう。「働かざる者食うべからず」という理念こそが最大の偽善なのです。あ、私は偽善を否定しないのですが、あえてポピュリズム的な感覚に寄せて、わかりやすく偽善といわせてもらいます。
 現実の世のなかには、がんばって働いたって食えない人がたくさんいます。たとえば、介護や保育の職員はどんなに働いても安月給で家族も養えないから離職者が絶えないと、以前から問題になってます。ご存じないですか?
 「働かざる者食うべからず」という命題が成立するためには、「働けば必ず食える」という保証が必要不可欠です。その保証もないのに「働かざる者食うべからず」とダマして働かせるのは偽善どころか、もはやサギです。
 「努力は必ず報われる」もウソですから。インチキ宗教が、拝めば難病が治る、治らないのはおまえの信心が足りないからだ、っていうのと同じロジックで、おまえが報われてないのは努力が足らないからだ、とすべてを個人の努力不足のせいにできるのです。
 現実の世のなかでは、努力は報われないことのほうが圧倒的に多いのにね。努力しても報われないから、福祉というものが必要なんです。努力が必ず報われるなら、福祉は必要ありません。それどころか、個人の自助努力ですべてが解決可能なら、国も政府も神も要りません。かなり危険なアナーキズムですよ。共謀罪で取り締まりますか?

 とまあ、私がこれ以上説明しても、怒る人が増えるだけなので、参考書をおすすめしておきます。
 原田泰『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』中公新書
 経済学者がまじめに制度の是非について検証しています。まじめだけど、決して難解すぎない、ってのが評価のポイント。原田さんは私と違って、アタマの悪いヤツらを皮肉でからかうような下品なマネはしてませんので、BIに懐疑的なかたも安心してお読みになれます。
 とにかく用意周到に、反論されるであろうポイントを先回りして押さえてます。経済理論的な面からBIを知りたいなら、この一冊でじゅうぶんだと思います。BIが決して絵空事ではなく、頭を柔らかくして意識を変えれば実現可能であるとわかるはず。ぜひ読んでみてください。
[ 2017/10/15 20:37 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告