2017年04月反社会学講座ブログ
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犯罪者は見た目が100パーセントじゃない

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 千葉県での少女誘拐殺人の容疑者が、見守り活動や防犯パトロールを熱心にやってた保護者会長だったことで、日本中の善男善女がパニックに陥ってます。凶悪事件が起きるたびに、見守り活動を強化しなければならないと威勢よく唱えてきたのに、その活動の張本人が犯罪者だったわけですから、目も当てられません。
 私はかねがね忠告してきました。シロウトがやる見守りやパトロールには、気休め、おまじない程度の効果しかないですよ、だからやるのは個人の自由だけど、犯罪を抑止できるなどと効果を期待すると裏切られるし、逆効果になることもありえますよ、と。しかし、アタマの悪い善人たちは、なかなか耳を貸してくれません。

 効果がない理由、その1。犯罪統計と防犯活動になんの関連も見出せないから。こどもが被害者になる凶悪犯罪が起きた町では、防犯活動をやってなかったのですか? そんなことはありません。これまでの例を見ると、どこも他の町と同様にやってました。犯罪が起きた町と起きなかった町とで、防犯意識に差はないんです。どちらも普通の市民が普通に暮らしている町です。ただしみなさん、ひとつだけ忘れてます。犯罪者もまた、普通の市民のひとりだということを。犯罪者は異界から到来する魔物ではありません。みなさんと同じ人間なんです。
 それが理由その2。犯罪者は見た目ではわかりません。犯罪者はマスクとサングラスを付けて電柱のかげに隠れたりしません。普通の市民として普通に暮らし、防犯カメラが設置された道路を堂々と歩いて犯行に及びます。ですから、見守りやパトロールで犯罪者を発見できる確率はほぼゼロと考えていい。

 お年寄りはいいひとたちだから感謝しましょうと道徳の教科書は教えますが、70代の老人がわいせつ目的でこどもを誘拐した例もあります。
 動物をかわいがる人に悪い人はいない? かわいい子犬を散歩させていた男が、犬に興味を持って近寄ってきたこどもを誘拐した例もありますよ。
 今回の事件ではたまたま外国人が被害者でしたけど、なにか事件があったとき、まっ先に疑われるのは近所の外国人だったりします。とりわけ白人以外の、アフリカ系・アジア系・中東系の人たちは見た目だけで犯罪者扱いされがちです。
 地域を守る善意のボランティア活動をしている人はいいひとにちがいない、という思いこみすらも裏切られました。
 日本人は不思議です。これみよがしに寄付や慈善をやってる人を偽善者だと叩くのに、これみよがしに防犯ボランティアをやってる人は無条件に信じてしまうのだから。
 こどもの相対的貧困率が6人に1人だから対策が必要だ、なんて話が出ると、「貧困なこどもなんてうちの近所にはいないぞ。日本は豊かなのに甘やかすな、偽善者め」という批判の声が聞こえてきます。それをいうなら『「昔はよかった」病』に書いたように、こどもが連れ去られる確率は1500万分の30でしかないのですよ。防犯対策が必要だと叫ぶ人たちに、「連れ去られた子なんてうちの近所にはいないぞ。日本は安全なのに甘やかすな、偽善者め」となぜいわないのですか?
 前カゴにパトロール中という札を付けた自転車を、下半身丸出しで乗り回していた男が捕まった事件もありました。まあ、これくらい見た目でわかりやすい変態のほうが、かえって安全安心なのかもしれません。
 以前、放火の事例について調べていたときに、放火魔を捕まえたら消防団員だったという例がむちゃくちゃ多くてビックリしました。いや、ビックリしたのは、私も先入観で目が曇っていたからですね。放火魔の証言を読んでいるうちに、彼らにとっては消防団に入るのがもっとも合理的な行動なのだと納得できました。火事を間近で見られるチャンスが多いし、消防団の活動範囲や時間を知ることで、自分が放火しやすくなります。自分で火をつけて自分で消して、みんなから感謝されるのがやみつきになったと供述した放火魔もいました。
 同様に考えると、こどもに興味を抱く人間にとっては、こどもの見守り活動に参加することが、こどもに近づくためのもっとも合理的な選択になってしまうのです。参加すれば、見守りやパトロールの経路と時間を把握できるし、防犯カメラの位置もわかるから、裏をかこうと思えば簡単です。結果的に善意の防犯活動が裏目に出、犯罪者の悪意を増大させ、犯行の手助けをしてしまうことも。

「ああ、もう、だれも信用できないじゃない! 身内しか信用するなって、こどもに教えればいいのっ?!」
 寝ぼけたことをいっては困ります。こどもが殺される事件の犯人は多くの場合、じつの親ですよ。こどもを虐待してるのは誰ですか? じつの親でしょ。近年のこどもの誘拐事件では、離婚して親権を失ったほうの親や親族がこどもを連れ去ったというパターンが多いんです。
 こどもにとっては、身内がいちばん危険な存在なんです。わが子を虐待してる親も、なに食わぬ顔で見守り活動に参加しているはずです。

 家庭に次いで危険なのは、学校です。学校でたくさんのこどもが死んでる事実を忘れてはいけません。人間ピラミッドのような危険な組み体操で、こどもが何人も死んでる事実があきらかにされたのは記憶に新しいところですが、何十年も前から、体育や部活の練習中にこどもが死ぬ事件は数え切れないほど起きてます。
 通学路で不審者にこどもが殺されるのはごくまれな例でしかありませんが、その何十倍、何百倍ものこどもたちが、学校内で殺されてるんですよ。
 それは事故であって殺されたわけではない? そうですか? 危険な組み体操の練習には、こどもは強制的に参加させられるんです。ボクはいやだからやらない、なんてひとりだけ拒否したら、どんな仕打ちが待ってるか。
 こどもは不審者からは逃げられますけど、学校からは逃げられません。危険な行為を強制されて死んだのなら、それは殺されたも同然です。

 善良なる一般市民のみなさんは、犯罪統計などで実態を確認することもなく、ご自分のアタマのなかだけに存在する悪人・不審者のバーチャルイメージにもとづいて見守りや防犯活動をなさってます。
 何度同じことをいわなきゃならないのかと嘆きたくもなりますが、防犯活動をやるのなら、まずは、ご自分が住んでる町でどんな犯罪がどれだけ起きているか、過去10年くらいの増減がどうなっているのか、それをきちんと調べてからはじめてください。敵を知らずにどうやって戦うというのですか。
 私はむしろ、オトナたちが偏見に満ちたまなざしで他人を警戒する姿勢がこどもたちにも伝染することで、人間不信や偏見・差別の芽を育んでしまう弊害のほうが大きくなると思います。

 リスクの大きさを考慮した結論。あなたのこどもを守りたいのなら、まずは、あなたがこどもを殺さないまともな親になることです。次に、こどもを危険に晒すような脳みそ空っぽ教師がいる学校には通わせないことです。
 そして一番大事なのは、これも何度もいってますけど、普通に暮らす勇気を持ってください。
 さんざん脅すようなことばかりいいましたが、日本の犯罪発生率は世界的に見ても極めて低いし、いまだに犯罪は減り続けてます。だから、犯罪の危険をアタマの片隅に置きつつも、勇気を持って普通に暮らす。それだけでじゅうぶん。
 いま以上に防犯活動に力を入れるのは、効果を考えるとムダな努力でしかないし、疑心暗鬼がエスカレートすれば、住民全員をパトロールに強制参加させよう、参加しない者にはバツを与えよう、なんて異常な正義がまかり通るようになるんです。アタマの悪い善人は、善意で社会と人間を傷つけるのだから、テロリストよりコワい。どうかみなさん、賢い善人になってください。
[ 2017/04/23 17:51 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

文科省の検定方針に沿った道徳エピソードを考えてみました

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 文科省が道徳教科書に求める検定方針に沿って、あいさつをする、国や郷土を愛する、伝統を大切にする、いじめをなくす、高齢者に感謝する、をすべて含む道徳エピソードを考えたら、こうなりました。

※以下の文章はフィクションですが、とても不謹慎でブラックな笑いが含まれますので、そういうのが嫌いなかたは読まないでください。


 ケイタくんは学校で、同級生にいじめられてます。でも、いじめっこたちはオトナの前では明るいよい子を演じてるので、先生も親もいじめが行われている事実にまったく気づいてません。
 ケイタくんの学校では、毎朝、集団登校の列を作ってみんなで登校します。いじめっこたちは、ケイタくんの10メートルくらい先を歩いていて、こどもたちを見守るオトナに「おはようございます!」と笑顔で元気にあいさつし、愛想を振りまいてます。
 と、そのときです。うしろから走ってきた国産車が急にスピードをあげてケイタくんの横を通り過ぎたかと思うと、次の瞬間、登校児童の列に突っ込み、民家の塀に激突して止まりました。
 国産車を運転していた和菓子店のおじいさんは、前の晩、日本の伝統芸能のひとつである長唄の師匠をしているお妾さんの家に泊まり、朝帰りする途中だったのです。経済的に成功した男性がお妾さんを持つのは、教育勅語と同じくらいむかしから存在する日本の伝統文化です。
 おじいさんは夜遅くまで三味線や唄の練習、その他をしていて寝不足だったので意識がもうろうとして、ブレーキとアクセルを踏み間違え、事故を起こしたのでした。
 ケイタくんをいじめていた子たちは国産車に跳ねとばされ、病院へ搬送されていきました。
 ケイタくんは、高齢者に感謝しました。
[ 2017/04/01 17:21 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告