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Coincheck不正送金事案で検出したマルウェアについてまとめてみた

2019年6月17日、朝日新聞は2019年6月17日付朝刊1面、3面で2018年1月に発生したcoincheckの不正送金で検出されたマルウェアについて報じました。社員のPCで検出されたマルウェアの具体名が報じられたのは初めてです。ここでは関連する情報をまとめます。

朝日新聞の報道

  • 2019年6月17日朝刊で以下が報じられた。

www.asahi.com

記事の概要は次の通り。

  • Coincheck社員のPCから遠隔操作可能なマルウェアが検出されていた。
  • マルウェアはCoincheck社員が外部とメールをやり取りした後にインストールし感染。
  • マルウェアは「Smoke Bot」(Mokes)、「Netwire RAT」の2種類。
  • これらはロシア系グループの関与が指摘されるマルウェア。
  • 2種のマルウェアを用いた暗号資産交換所への攻撃事例は2016年以降複数確認されている。
  • Mokesは北朝鮮関与の事例でこれまで確認されたことがない。
  • 北朝鮮説を主張していたセキュリティ関係者らへ改めて取材。

記事中に登場する関係者、専門家は以下。

登場人物 見解、主張など
Group-IB 公開情報からLazarus関与を指摘。証拠は間接的なもの。
CrowdStrike 外形からの調査に限界はある。東欧、露系グループが北朝鮮に見せかけた可能性もある。
Kaspersky Lab MokesはLazarusが過去に使用した事例を確認していない。
韓国 国家情報院 Coincheck不正送金発生直後から北朝鮮関与の可能性を示唆。
日本のセキュリティ専門家 韓国からLazarus関係のメール文面を入手。
Coincheck関係者 不正送金と韓国が示したメールとの関係を否定。
慶応大教授 国連の年次報告書へ直接的な証拠なしの引用に疑問。

piyolog.hatenadiary.jp

2つの関与説

  • 複数のセキュリティ関係者らにより北朝鮮(Lazarus)関与が定説だった。
  • 国連の専門家パネルも北朝鮮説を年次報告書に記述していた。

piyolog.hatenadiary.jp

  • 朝日新聞は次の点から北朝鮮関与に疑問を投げかけた。
  1. Coincheck関係者がLazarus関与メールと不正送金の関係を否定
  2. Kaspersky Labの専門家によるLazarusによるMokesの使用事例は確認していないとのコメント
  3. 北朝鮮説主張の関係者らからCoincheck事案の具体的な情報提示がない
  • さらに「米国の専門家」の見解から露・東欧系グループ関与の可能性を指摘。

Coincheck不正送金の背後関係について、関係者の見解をまとめると次の通り。
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報じられた2つのマルウェア

  • 2種類とも数年前から存在するマルウェアで、インターネット上で入手可能な状態。
  • 利用方法を紹介する動画など関連する情報も複数公開されている。
  • Netwire RATは過去にAPT33、Carbanak Groupなどが利用していたと報告がある。
Smoke botの概要

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  • WebコンソールからBotプログラムを実行させたPCを操作する
  • WebコンソールはXAMPP環境(PHPのWebアプリケーション)で稼働。
  • BotプログラムはWindows、Linux、OSXに対応。
  • 2011年6月にフォーラムで販売されたのが初出。同スレッドでは2015年まで投稿が継続。
  • 2019年対応バージョンも公開されており、現在も更新が行われている模様。

以下はSmoke Botの機能。

BOT LIST Smoke bot実行中のPCの一覧表示
TASK LIST ローカルやリモートからタスクを設定
実行時するファイルアップロードやURLを指定可能
タスクは実行後削除可能
STEALER クレデンシャル情報の取得
対象:ブラウザ、時刻、URL、ID、パスワード
PROCMON 実行中のタスクの管理
EMAIL GRAB メールアドレスの取得
FORM GRAB フォームから送信したデータの取得
PASS SNIF パスワードの窃取
KEYLOGGER キーロガー対象とするプロセスのルール設定。
  • 暗号資産(モネロのみ)のマイニングやDoS攻撃のプラグインも存在する。
  • 各機能に価格が設定されている。
Netwire RATの概要

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  • Javaベースのリモート操作ツール。
  • Windows、Linux、OSXに対応。
  • 2012年頃から事例が確認され、MITREの資料にも掲載されている。

更新履歴

  • 2019年6月18日 AM 新規作成